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旅の拠点は亀の上!怪力少女と毒スキル持ち青年の魔物ごはん  作者: 時雨笠ミコト


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【36】誘拐尋問

「えーーと?」


 返答はない。目が覚めた。目は開いたが視覚情報が入ってくることはない。

耳に意識を集中してみれば、聞こえてくるのは無機質な機械音のようなもの。

市場の喧騒も、ずっしりと重い足音も、ハルバードが空を切る音も聞こえてこない。

 その上で、体は思うように動かない。椅子か何かに縄でくくりつけられていると推測。

 

「目隠し……と、拘束……覚えのない環境音……」


 状況をまとめて、導き出された回答は一つ。

 それ即ち。

 

「誘拐かぁ」

「何コイツ怖い」

「えっ今起きてソレ?えっ怖い」


  つぶやくと同時に、横から声が聞こえてくる。

 くぐもっているが、聞き慣れていない声だということはわかる。

 聞き慣れていない、くぐもった声……恐らく顔を隠している、ということはまあ状況証拠的に。

 

「あっ誘拐犯の人ですね。可能な限り迅速な解放を要求します」

「自分の立場を理解してないのかコイツ」

「異世界人っぽいしアレかね、転生初期症候群じゃない?」

「初めて聞いた単語が」


 転生初期症候群。もしかしなくとも最初にアーネリカが講義してくれたあの『あるある』のことか。

 わざわざ名称が付いているということは、それだけ頻発したと言うことだろう。

 どれだけ居たんだ、『異世界転生したなら俺強え』の原理で暴走した人。

 

「ならわからせてやらなきゃ」

「お前の人生の決定権はこっちにあるんだぞ!」

「お前のステータスは既に確認済みだ。その程度のスキルで逃れることは叶わない!」

「嘘だぁ」

「せめて緊張しろよ異世界人ッ!!」


 緊張しろと言われたって、こちとら【精神的苦痛耐性Lv8】である。

しかもステータス強制解放から鑑定によるステータス看破やらは出来ないと知識で既に知っている。

 先程の脅しで何をどう恐怖し緊張すれば良いのだろうか。

 

「あ、でもベルツォーネの人とは思ってないのか」

「リラックスして推理するのやめてくれないか!?」


 ツッコミがとっつきやすい。さては結構庶民派だな誘拐犯。


「さては視覚情報がない分楽観してるな?」

「現状を見せてやろう!」

「うわ眩し」


 眼の前が急に明るくなる。目をチカチカさせながら数度瞬きをすれば、現状が見えるようになってきた。

 よくある拘束椅子。腕は手のひらが上になるように固定されている。あと体のあちこちにわかりやすく電極。

 

「えっヤダ顔が良い」

「無駄に顔がいい」

「笑顔で利用するだけ利用して人を破滅させるタイプのイケメン」

「わぁすっごい失礼」


 人の顔をまじまじと見て第一声がそれなのか。

 あとなぜイケメン判定なのだろう。イケメンというのはローザドーロさんのような顔のことを言うのである。

 親に延々と陰鬱だの何だの言われてきた存在だ。


「で、要求何ですか?」

「ベルツォーネ商会の顧客情報その他、まるっと吐いてもらおうか」

「無理だねぇ」

「フフフフフ……そう簡単に口を割らないことは分かってる」

「イヤ、意地とかじゃなくて知らない」

「言い訳に耳は貸さんとも」

「貸してよそこは」


 本当に知らないのである。町の本屋さんに平積みされていた自伝本に、『異世界転移した私が元の世界の経営知識で旦那様の商会を立て直す話』というものがあった。

 が、僕はまずベルツォーネ商会の本部すら見たことがないのだ。求められているのはただ料理の腕だったので、良いとこの出だと忘れるレベルで、ベルツォーネ紹介のことを知らない。

 そんなふうに首を捻りながら考える僕を見下しながら、覆面の誘拐犯は一つの注射器を取り出した。

 中は何かしらの薬剤で満たされている。


「いつまで黙っていられるかな……コイツの前で!!」

「あ、自白剤なら効きませんよ」

「エッ」

「一応どうぞ。注射針慣れてます」


 ————数時間後————

 

 

「ナンデ……キカナイ?」

「薬物耐性ありますー」

「オマエ、転移者……?」

「はい」

「耐性……ドウシテ……?」

「色々ありまして」

「ナニソレ…………??」


 可哀想に壊れてしまった。【毒耐性 Lv8】の対象に自白剤は適応されていたらしい。

まあ体が意図しない動きをする……というか意図的に朦朧とさせるって毒以外の何物でもないのだから。

ベラ先生だって『薬は毒』と言っていたので、自身はあったのだが。

それにしても時計が見える位置にあるのは良いのだろうか。普通こういうのって時間感覚が分からなくなるのも追い詰める手段の一つだと思うのだけれど。


「さて、次どうぞ」

「オレ、オマエ、キライ!!」


 さて、いつまで時間が稼げるか。

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