【34】果たして鞭は使えるか
短めです。すみません。残業が憎い
「……気持ち悪いほど違和感がないな?」
「誠に不本意ながら僕自身もそう思います」
自分でもびっくりするほど違和感がない。武器屋の鏡の中には、ヒョロリと縦に長い男が、黒いムチを持っている姿。
ボンデージでも何でもない、黒いシャツを着ているだけなのに違和感が仕事をしていない。
ふと鞭のグリップ部分を見てみれば、50%オフのシールがデカデカと貼り付けられていた。
なおその下には40%、更にその下には30、更にその下には20……と、マトリョーシカを疑うほどに重ねて貼られている。
よほど買い手がつかなかったらしい。店長さんの涙ぐましい努力がヤケクソじみた50%オフシールから滲み出ている気がする。
「良かったな、安いぞ」
「半額て」
「ここは俺が出してやろう。恩にきるように」
「初めて聞く日本語」
普通は「気にしないで」とか、そう言うのが普通ではなかろうか。
「それで、使えるのか?」
「あ、じゃあお尻か背中出してもらえます?」
「腕折るぞ貴様」
「いや下心とか皆無で言ったんですけど」
こういうのは口で言ってもわかりにくいので、体験してもらうに限る。でも鞭は無害なものでは決してないのだ。
音に重点を置いたバラ鞭ならともかく、一本鞭は音・威力が本当に『相応』な鞭である。
お尻か、背中の一部か。そこら辺のセーフゾーンを見定めて鞭を振るわなかった場合、下手すれば後遺症が残る。
鞭を振るのを妨害するためか、腕を握っていたローザドーロさんがため息を一つこぼして腕を解放した。
どうやら意図が伝わったらしい。この人はこういう所でしっかりこちらの意図を汲もうとしてくれる。
「それに貴様の鞭は手加減のそれだろう。渡したあとに何だが、戦えるか?」
「はは、何言ってるんですか」
確かに拷問にせよ、SMせよ、壊さないのが仕事だ。
壊れるキワを攻めて、その上で壊さない知識と技量が必要になる。
つまり、どうすれば『壊さずに済むか』熟知しているということ。
逆に言うと、『どうすれば壊れてしまうか』を熟知しているのとイコールである。
「壊さないプロってことは壊すプロってことでもあるんですよ」
「ええい目のハイライトを消すな」
いつの間にやら会計を終えて、鞭のシールをペリペリと剥がしながらローザドーロさんが一喝する。
マトリョーシカさながらに重なったシールに苦戦しているらしく、短く整えられた爪が何度も同じ場所を往復していた。
「まあ戦えるならいい。次は【万年雪】だ。防寒具を買いに行くぞ」
「え、防寒なら足りて……」
「誰が貴様の防寒具と言った?」
ハァ、とローザドーロさんがため息をついた瞬間に、その股下をくぐるようにしてアーネリカが顔を出した。
うん、肉親だし体格さがあるせいで余裕だとはいえそのくぐり方はどうかと思う。
そしてそのついでにアーネリカさんや、持ってた三節棍がくぐり切れずに股間に命中しておるのですが。
ああお義父さんあまりにも顔が青くなりすぎて褐色肌貫通してますおいたわしや。
「ペェちゃんのですよ」
「あっ変温動物」




