【32】父はつよし
「で、進捗は」
「コチラデス……」
ゆったりと、ペェちゃんのハウスの中で最も高級な一人用のソファに腰掛け、頬杖をついたローザドーロ・ベルツォーネさんが僕を見下ろしている。
半分くらい尋問か聞き取りをされている犯罪者の気持ちになっている。
うっすらと手のひらに汗を感じながら、収集してきた素材を差し出した。
「虹色茸、そしてマグマゴーレムのコアか」
カラン、とやたらに長い指先で素材を弄びつつ、感心したように呟いた。
「ずいぶん速いペースで集めたな」
「あ、やっぱ早いんだ」
「それに成長も素晴らしい」
「え、成長?」
ピンとこずに首を傾げた時に、アーネリカがぱっと顔を上げる。
「ハッ、ペェちゃん!!」
「ペァーーーー」
アーネリカが外に駆け出していく。そしてそのまま地面に飛び降りる音がして、そのまま嬉しそうな声がした。
「おめでとうございます!!お赤飯ですね!!」
ひょっこりと顔を出せば、アーネリカがペェちゃんを黒煙が出そうな勢いで撫でまくっている。
満足そうなペェちゃんの顔が遠く見える。足元を改めてよく見てみれば、パンケーキのような甲羅が二段に増えている。
「おお二段パンケーキに、何故」
「脱皮ですね」
「脱皮」
脱皮ってこんなにコロッと甲羅が取れるものだっただろうか。というか脱皮跡の上に家が経っている現状なのだがあまりにも強靭すぎないだろうか。
「仕方ない、俺が説明してやろう」
「オネガイシマスお父さん」
「だれがお義父さんだ耳千切るぞ」
「難聴ォ」
これでローザドーロさんと呼んでも馴れ馴れしいと怒られ、そしてベルツォーネさんと呼ぶとアーネリカが反応してしまうので困ったものだ。
諦めて流せば、咳払いを伴って、割と丁寧な解説が始まった。
「パンケーキミシミシガメは経験を積んで脱皮する。それを甲羅の上に積み上げていく。さながらパンケーキタワーだな」
曰く下部分の脱皮がなく、上にこう、ポンッと黒ひげ危機一髪の要領で押し上げるのでそうなるらしい。
そして新しくできた甲羅は脱皮元よりも大きいのでそのまま順当に上に積み上がっていく、と。
「そして危険な状態になると脱皮殻の甲羅を放りだして囮にして逃げる。つまり危機的状況にならず、かつ経験を積んだものだけが背中にパンケーキタワーを形成出来る」
「イコール強さの指標であると」
「そうだ。なんだ存外頭が回るな?」
「お褒めいただき」
ペコリとお辞儀をすれば、何故かそのままワシャワシャと頭を撫でられた。
この人僕を邪険に扱いたいのか子ども扱いしたいのかどちらなのだろう。
「そしてアーネリカ」
「なんですか?お父さ……」
「そこに座りなさい」
ほのぼのひょっこりと顔を出したアーネリカに、先ほどとは打って変わってものすごく厳しい声がかけられる。
怒られる、と声音で察知したらしい彼女は、縮んで見えるほど萎縮しながら正座する。
「ほわーい……?」
「なぜこいつは武器を持っていない?」
先ほど足首を持たれて空っぽの財布をぶん回すがごとく振られたのは、武器を持っているかの確認だったらしい。
他にももっと確認の仕様はあったと思うのだが。
「私が戦いますし……」
「なら前線に連れて行くな」
「そうなると私が守りきれませんし……」
「その結果があの火傷だが?」
「えとー、あのー、むー」
アーネリカが口をむにゃむにゃ動かす。しかしてうまい言い訳は出てこないらしく、まともな言葉は出てこなかった。
「アーネリカ」
「だってぇ」
「アーネリカ・ベルツォーネ」
「申し訳ございません」
おお、アーネリカがほぼ完封されている。
流石に父親といったところか、ローザドーロさんの威厳に思わず背筋が伸びる。
この人、やっぱり親バカなだけではないらしい。
「結論、こいつに武器をもたせる。そのために町に行く、異論は」
「「無いです!!!」」
静かに、この家の主導権がアーネリカからローザドーロさんに移行する音がした。




