【31】お義父さん
「お、お父さん……?」
「誰がお義父さんだ!!」
「迷いのないアイアンクロー!?」
アーネリカの発言につられて繰り返すと、眼の前の美男の顔が急に険しくなった。
そしてアーネリカに背負われた状態の僕に、そのままアイアンクローをかましてきた。
ギリギリと締め上げられるが、アーネリカに比べれば筋力が劣る。故に【肉体的苦痛耐性】で完封できた。
なので、普通にそのまま喋る。
「えーと、僕は隼律也と申します。一応立場としてはアーネリカの専属料理人に……」
「このまま喋るな気色悪い」
「気難し〜い」
アイアンクローを決められたまま喋るのもどうかとは思うが、アイアンクローを決めたまま動かない人にも責任があると思う。
ギリ、とちょっと駄目な方面の音が聞こえ始めたその瞬間、声が聞こえた。
「……お父様?」
地の底から響くような、或いは絶対零度の声。
珍しいほどに怒っている。その声に気圧されてか、顔を掴んでいた手が剥がれた。
「ぷはっ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。伊達に耐性持ってないし」
鼻と口が圧迫から解放されたので、思い切り息を吸う。
アーネリカが背をさすってくれていたが、ふと顎を掴まれて上を向かされる……誰得の顎クイだろう。
至近距離に美男の顔。人生の酸いも甘いも経験してきたもの特有の深みがあるような気がする。そしてパーツのところどころがしっかりアーネリカに似ている。
「……なんだ、貴様。なかなか綺麗な顔をしているじゃないか」
「あー、アーネリカ美人ですよねぇ」
「何を言っている。アーネリカが美人なのは改めるまでもなくこの世の真理だろう」
「事実だけど親バカだぁ」
アーネリカは美人である。幼さが残っている現時点でこうなのだから、より大人になった際は突き抜けた美人になるのだろう。
そんなことを考えている僕の顔をまじまじ見つめてから、半ば値踏みするように眼の前の美男は言葉を続ける。
「綺麗というのは貴様の顔のことだ。なかなか美しい造形だな」
「…………?」
「駄目ですお父様。律也さんは基本無自覚さんなので」
「切れ長の目と長く豊富なまつげとほぼ黄金律のパーツ配置をしておきながら!?」
「驚き方が芸術家のそれになってますお父様」
眼の前で美人と美人がなにか喋っている。何を言われているかは絶妙によく分からないが、美人が喋っているという時点で眼福である。
「……まぁ、毒虫ではないか」
「あ、毒保有のスキルはあります」
「額面通りに受け取りすぎるな。説明が面倒くさい」
フイと僕から顔を逸らしたその人は、僕の右手が目に入って顔を顰める。
「なんだそれは」
「右手です」
「そうではなくなんだその惨状は」
「火傷ですね」
「…………アーネリカ」
何故かアーネリカに改めて確認が入る。
アーネリカもまた、ため息をつきながら淡々と事実を明示した。
「マグマゴーレムの溶岩部に手を突っ込んでコアを摘出した結果です」
「馬鹿なのか」
「お馬鹿さんです」
気づけばおバカさんのレッテルが貼られていた。
火傷になっているのは表皮部分のみだ。跡になることもないと思うのだか。
「……ハァ」
深々とため息をついた美男が、頬に彫られた薔薇のタトゥーを指でなぞった。
そしてその指をそのまま唇まで持って行きそのまま何事か呟くと、そのまま指先が金色に発光し始める。
「おお、綺麗……」
「動くな」
そして制止と同時に、発光した指が容赦なく火傷の指につきこまれる。
「痛いのですが」
「動くなと言っている」
「動いてはないです」
ぐぐぐぐ、とそのまま指が逆撫でするように動いていく。普通の人なら絶叫して暴れまわってもおかしくない暴挙である。
「よし。感謝しろ」
「傷を逆撫でされたことを感謝するのは難易度高くないですか?」
「お前の目は節穴か?」
「は」
意味がわからずに聞き返すと、目線で手を示される。見てみれば、爛れているはずの手がきれいに治っていた。
「え、治って……」
「お父様は優秀なヒーラー兼バッファーなんです!」
「ありがとうございます」
「やはり礼は言えるか」
アーネリカのお父さん、やはり娘と方向性は違うものの頭一つ抜けたところを持つ人らしい。
これだけ見目麗しければある意味疑う余地もなかったが、逆に補助要因が得意なのは驚いた。
「つかぬことをお伺いしますが、攻撃は?」
「からっきしだが?」
「何故……」
「龍すら圧倒するアタッカーが居るのに、虎を圧倒できるアタッカーを一人増やしてなんの価値がある?」
「……ああ、ねーー」
すごく納得いった。
お母さんがキングオブ規格外なのはよく聞いていた。
確かにアタッカーは十二分である。
なら100に50を足すより、100に得意分野の100をかけたほうが強いというわけか。
「先に改めて宣言しておく。俺はお前のお目付け役だ」
「……お目付け役ですか?」
「ローザドーロ・ベルツォーネだ。よろしくする気はない」
突き出された右手は、存外丁寧に握手を返してくれた。




