【30】諸々すぎる帰り道
火傷緊急対処
「アーネリカ。アーネリカさんや」
視界がほんの僅か揺れている。
そしてグイグイと視点が上へ上へと上がっていく。
アーネリカが僕を担いだままでロッククライミングをしているから起こる現象である。
「僕平気だよ?」
「リツヤさんの大丈夫を信頼する気はありません」
「どうして」
「前回何をしたかお忘れですか?」
「あっ何も言えない」
前回、毒耐性があるから大丈夫であろうという思い込みで毒を摂取した結果、ものの見事にぶっ倒れた。
それがあってから、アーネリカは『僕の耐性』に関しては一定の信頼を置いてくれているが、『僕の自己申告』に関しては一切信用してくれなくなっている。
「そういえばペェちゃん!!ペェちゃんはどうなっ……」
ガシガシとロッククライミングをするアーネリカだが、流石にペェちゃんは担いでいない。
慌てて視線をぶん回し、パンケーキミシミシガメの姿を探す。
すると、何故か岩壁をヤモリよろしく普通に歩いているペェちゃんと目があった。
他にすることもないので少し観察すれば、いつぞや魅惑の柔らかさ、そしてえもいわれぬ絶妙な吸着具合を披露した足裏で岩壁に吸い付き、そのまま歩いているらしい。多分吸盤とスライムの中間ぐらいの仕組みと思われる。
そんな器用な事をしながら、結構な速度でクライミングしているアーネリカに並走している。
足の回転速度がすごい。オオミチバシリの如くである。
「あっ僕より優秀」
「厶ーーーー」
更には誇らしげに口に加えたものを見せてくれる。
それは先程僕が引きずり出したマグマゴーレムのコアであった。
「コアの回収までも。さすぎゃっ」
「出口まで走ります!!喋らないことを推奨しますよ!!」
ロッククライミングの盤面を終えたらしいアーネリカが走る体勢に移行した。
上下することに体が慣れきった頃に、前方向に向かっての圧。者の見事に翻弄されて舌を噛んだ。
鉄の味が口の中に広がる。噛み切ってはいないらしいので良しとしよう。
「言ったのに」
半分くらい呆れながらそう言われたが、走り始めてから言われてもどうしようもないと思うのは僕だけだろうか。
「いやアーネリカ、敵が……」
もちろんダンジョン内、ロッククライミングが終わったからと言って敵がいないわけではない。
出口を塞ぐようにその場に立ちふさがる、火山岩を住処にしたヤドカリのようなモンスター。
「邪魔です!!」
バッチンバッチンとハサミを鳴らすそれに対して、アーネリカは全力で走り寄り、そのまま跳躍。
そしてそのまま、火山岩を踏み抜いた。
「はぇ」
「一撃粉砕は得意技ですので」
「ペェ!!ペェ!!」
ニコニコでそう答えられたが、普通の人間は火山岩を普通の靴で踏み抜けないのである。
あと、その光景を見て何かを閃いたように足をパタパタしだしたペェちゃんにも嫌な予感しかしないのだけれど。
「ペー、ペェーヤー」
「あ、大きくなりますか?では『Big』」
なにか思いついたペェちゃんの訴えを受けて、アーネリカはコマンドを出す。
それを受け取ったペェちゃんは、頭を洞窟にこすらない程度……具体的に言えば通常サイズの3分の1くらいになって、嬉々として踏み出し始めた。
「ペモーーーー♪」
火山岩ヤドカリ(仮称)を踏み抜いて進んでいる。
ものすごく楽しそうである。
やると思った。アーネリカ大好きっ子なこの亀さんは、何かと彼女の真似をしたがるのだ。
小柄なアーネリカの踏み抜きは筋力と位置エネルギーなどによるゴリ押しだが、ペェちゃんによる踏みつけは、トン超え質量による純然たる押しつぶしである。
外骨格生物であるヤドカリが筋力でなんとかできるような代物ではない。唐突にやってきた厄災による蹂躙である。
「オーバーキルここに極まれりすぎる……」
「上出来ですペェちゃん!!」
ペェちゃんによって開通させられた道をアーネリカが爆走する。
数秒後にはいつぞや見た景色……に、一つだけ見慣れないものがあった。
洞窟の入口のすぐ脇に、やたらめったらスタイリッシュに寄りかかっている美形。
褐色銀髪、顔はとても整っており、その顔の頬の部分には金色で薔薇の入れ墨が彫ってある。
近寄りがたい美人、といった雰囲気である。なぜかそんな人が、僕に向かって絶対零度の視線を向けて来ている。
その人を見つめてから、アーネリカが驚愕と呆然が入り混じったような顔で叫んだ。
「お父様!?」




