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【AI軍事考証】王国玄冬記 ―勇者なき世界で、王殺しから始まる王国の動乱―  作者: Soh.Su-K
Ⅳ砕かれた剣 落胤の戦い

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Ⅳ-1 飢狼

 南部、ゾーン城。

 城内を支配しているのは、もはや静寂ではない。八万の兵が発する、内臓を焼き切るような「空腹」の唸りだった。


 カイツール坂から敗走してきた三家の合流により、アブトマット陣営の兵力は膨れ上がった。しかし、それはもはや軍勢ではなく、ただの「飢えた口」の群れに過ぎない。臨時政府による徹底した交易制限は、ゾーン城を巨大な餓死の檻へと変えていた。


「……閣下。もはや限界です。北上して王都を突くか、さもなくば……」


 フリッツ・モーゼルの父、ペッター・モーゼルが苦渋に満ちた顔で進言する。


「……北にはバーテルバーグの迎撃陣が待ち構えている。飢えた我らがあの街道を抜けるのは不可能だ。ベルテルブルグの二の舞になるのは火を見るより明らかだろう」


 アブトマットは、黒い法衣を揺らしながら冷淡に告げ、広大な地図の一点を見つめていた。その瞳には、絶望的な状況下にあってもなお、冷徹なまでの「勝機」が宿っている。

 カイツール坂の戦い以降、南部戦線から複数の部隊が王都へ帰還しているはずだ。兵力で劣る自分たちにとって、北上という選択肢はすでに消滅していた。


「北へ行けば迎撃され、南へ行けば魔王軍だ。……だが、その間に何がある? ペッター」


 アブトマットが指し示したのは、シェリダー川を挟んで南北に向かい合う双子の港湾都市、北岸のヘッケラー城と南岸のコッホ城。

 そこは王国全土と王都を結ぶ物流の心臓部であり、膨大な備蓄食糧と金、そして運河を自在に操るための船舶が集まる要衝。ここを手に入れれば、アブトマット軍は息を吹き返し、逆に王都の物流は完全に断たれることになる。


「ゾーンを棄てる。……狙いはシェリダー川の双子城。あの港を奪い、我らの新たな『都』とする」


 †


 王城スプリングフィールド、謁見の間。

 ニニオの前には、南部戦線から生還したピダーセン、ルイン、フリッツの三名が跪いていた。


「無事の帰還、大変喜ばしく思います。皆さんのお陰で南部戦線の憂いが格段に減りました。心から感謝を」


「ありがたき御言葉、恐悦至極にございます」


 ピダーセンが代表して謝辞を述べるが、ニニオはそれを見てクスクスと、少女のような無邪気さで笑った。


「畏まらないでください叔父上。皆さん立って。そのお顔を見せてください」


 ニニオは玉座から立ち上がり、親愛の情を込めて三人の元へ歩み寄る。


「……形式というものは大事だと昔から言っておろうが、ニニオ」


 困ったような、それでいて嬉しそうな顔を浮かべ、ピダーセンは立ち上がった。それに倣い、フリッツも立ち上がる。


「フリッツ殿、ご苦労さまでした」


「恐れながら、私は何もしておりません……。今回のフェム奪還はひとえにビュロー卿のおかげ。私はその補佐をするので精一杯でした」


「あのビュロー卿の補佐が務まる時点で十分です。胸を張りなさい」


 その場に、束の間の安らぎが流れた。

 だがその時、重厚な扉が唐突に開き、ボーチャードとエンフィールドが足早に入ってくる。


「恐れながら、申し上げます」


 神妙な面持ちのボーチャードが、広間に緊張を走らせる。


「早馬により知らせが届きました。アブトマットが動きました。ゾーンを棄て、南下を開始したようです」


「……やはり、動きましたね」


 先程までの柔和な笑顔を瞬時に消し去り、ニニオは王としての顔で再び玉座に深く座った。


「すぐに討伐軍を編成します。審議会の開催を!」


 ニニオの下命に、兵士の一人が弾かれたように走り出す。


「フリッツ殿は、エンフィールドとは初対面でしたね。……今回の討伐軍はオリバー卿を総大将に、副官にエンフィールド。フリッツ殿にも加わっていただきます。よろしいですね?」


「はっ!謹んでお受けいたします!」


「……儂は留守番か?」


 不満げに眉を寄せるピダーセンに、ニニオは落ち着いた声で返した。


「アーモリー卿には、しばらく王都にご滞在願います。カイツール坂の戦勝に伴う戦後処理を手伝っていただきたいのです。……捕虜の数があまりに多くて」


「儂がいることで、捕虜どもへの抑止力とするか。合理的だな。相わかった、お主の采配に従おう」


 こうして、王都は再び戦時体制へと移行する。

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