第七話「デート・ディ(朝/リリアルサイド)」
「じゃ、はじめちゃおっか!」
「よ、よろしくお願いしますっ」
三畳一間の畳部屋、朝食を終えたふたり――リリアルとデゼルは、ついにこの時を待っていたと言わんばかりに意気揚々、士気軒昂……とにかくやる気に満ちあふれていた。
さっそくちゃぶ台をかたづけて、着替えをはじめる。
「あ、本当にこのブラ、楽だね」
「でしょー? 前のヤツ、サイズあってなかったんだってば」
昨日のショッピングで手に入れたおニューの下着も、ジャストサイズで言うことなしである。
……なお、デゼルの口八丁手八丁にしてやられ、ちょっとお色気感のあるレース飾りがかわいい白の下着……いわゆる『勝負下着』を買ってしまったのだ。
(も、もしかしたら、もしかするかもだもんね、うんっ……!)
なにがなになのかは、さておき。
勝負下着を身につけたリリアルは、次に蒼射の作ってくれた魔改造服に袖を通す。
背中のざっくり開いた薄いアイスブルー色のワンピース。
上手に、翼に干渉しないように改造されている。
ただ、弱点もあった。
「こ、これ、ひとりで着れないよね……」
誰かに背中の結び紐をしばってもらう必要があるのだ。
無論、そのためにデゼルがいるので問題はない。
「これ、うまいこと太めの紐で、ブラジャーが見えないように工夫してあるの、いいわね。蒼射ってばほんと、才能も力量もあるわ」
あとはチャンスを与えてやればいい、そうデゼルは言う。
どこかの段階で、曲のPV用の衣装をまるまる任せるように頼むつもりでいた。
情にもろく、義に厚い、悪魔らしい『恩返し』と言えるだろう。
「よし、これでオッケーね」
ワンピースを着せてもらったリリアルは、狭い部屋で軽く翼を動かしてみる。
「うん! すっごい楽! これ、本当、うれしいなあ。私の一張羅にするっ」
「あはは。それなら蒼射も本望でしょ」
あとは、首にストールを巻いて、服装は完了。
本来ならアウターを合わせたいところだが、そこは悪魔の翼があるのでできない。だから、むしろそれをアウターのように、纏うように翼をたたむことでコーデが完成するのだ。
このあたりの、悪魔に対する気遣いができるデザイナーこそ、新進気鋭として今の時代を作り上げていくことだろう。
人間と悪魔が平和的に手を結ぶ……それはおたがいの種族を越えた、平和への祈り、誓い、願いと言っていい。
しかし、そんな世界規模の話は、今のリリアルには関係ない。
世界と恋愛、天秤にかける必要がないくらい、恋い焦がれているのだから。
「それじゃあ、メイクはいりまーす」
本職のメイクさんの真似をして、デゼルがリリアルの肌に触れる。
「ほんと、リリアルってキレイな体してるわよね。さわり心地、最高だもん。シルクみたい」
「ほ、褒めすぎだよ……」
「いやいや、これはお相手の弥一君がうらやましいわよ、ほんと」
いまいち意味がわからなくて、リリアルが首をかしげる。
「だって、これから先、うまくいけばだけど。さわり放題な訳でしょ? 肌も、もしかしたら角だって」
話しながら、メイクの下地を整えていくデゼル。
こういうところは、器用で要領よしの気質がでている。
「つ、角は、もう触られてるよ……」
恥ずかしそうに言うリリアル。
その言葉は、デゼルに衝撃を与えた。
「ええっ!? キスもまだなのに、角を触らせたの!? うそ、マジ? それってすごくない? っていうか、リリアルって……なんか大胆」
「も、もうっ! その話も今夜まとめてするから、今は置いておいてっ」
「今夜、帰ってこれますかねぇ~」
ニヤァ……と、あえてセクハラオヤジの表情を浮かべるデゼル。
美人薄命、もとい、美形台無しの顔だった。
「さてと、下地はオッケーだから、あとはファンデと、ルージュ、それにチークと……」
あれやこれやと言いながら、デゼルは具体的に作業を進めていく。
ただ、あくまでリリアルに無理をさせない、ナチュラルメイクを目指す。
口紅も、薄いピンクを引くだけで、過剰な光沢感は出させない。
「元がいいから、こういうときほんと『化ける』わよね」
人間界のメイク道具のすごいところは、魔力消費ゼロで自分を変えれるところだ。
それは、悪魔たちにとってはまさに禁断の果実。
一部の上位悪魔だけが持つ容姿端麗さが、道具と技術で誰でも手に入ってしまうのだから、魅了される悪魔は多い。
「はい、完成! 鏡、見てみて!」
薄化粧を感じさせつつも、リリアルの長所を伸ばすかたちでのメイク術。
それらはデゼル自身がステージに立つ準備段階として、本職のメイクさんから施され、教わったものである。
「わぁ……。すごい美人……私じゃないみたい……」
メイクをしたものにとっては、最高の褒め言葉である。
「じゃあ、準備も整ったところで!」
「う、うん!」
「いざ出陣!」
「行ってきます!!」
気合い十分、テンションとモチベーションを上げて、リリアルが部屋を出る。
一人残されたデゼルは、一仕事を終えた充実感でためいきを漏らした。
「あれくらい一途な恋をしてみたいものだわ」
デゼルにとって、恋するリリアルはこの上なくまぶしい。
今晩聞けるであろう土産話を期待していると、突然新曲のイメージがひらめいた。
「こうしちゃいられない! すぐに曲ノートに書かないと!」
まだまだ仕事が恋人のデゼルなのだった。




