第四話「そんなコーデで大丈夫か」
「ところでリリアルは、デートのときに何着ていくの?」
土曜日の朝、基本的に夜型の悪魔にとってはかなりつらい時間帯だが、ふたりは明日の下準備のため、中央街へ繰り出そうと早起きしたのだった。
「え? この服だけど」
ちゃっかりリリアルに朝ご飯を二人前作らせて、デゼルはくつろいでいた。
ちゃぶ台に並んだトースト、目玉焼き、ベーコンにサラダという人間界スタンダードな食事は、悪魔にとっては非常に珍しく、また美味であった。
基本的に魔界では、食事というのは魔力を経口摂取するための手段に過ぎず、その時に注意すべきは含有魔力量なのである。
近年、人間界から持ち込まれたビジネスモデル、魔界ファミレス『デビーズ』では、各メニューに含有魔力量をすべて記載するという方法で大成功を収めている。……とはいえ、今はリリアルのファッション事情についてだ。
「この服……って、毎日同じの着てない? 寝るときは裸だし、洗濯するときどうしてるの?」
トーストの上の溶けていくバターを滑らせて遊びながら、デゼルはなんとなく疑問に思ったことを口にする。
「寝るときに洗濯して、起きたら乾いてるから、そうしてるよ?」
「……ちょっと待って。もしかしてリリアル、服ってそれしか持ってないの?」
「そんなことないよ? ちゃんと魔界のボディースーツあるし――」
「じゃなくて! 人間界の服! 人間基準の服だってば!」
一通りバターを滑らせ遊んだデゼルは、いい感じの焼き目がついているトーストをガジガジとむさぼりながらしゃべる。
「お行儀悪いよ」
「それは今いいから! とにかく、デート用の勝負服ってないのね?」
さんざん咀嚼したパンをごっくんと飲み込み、今度は目玉焼きを口に運ぶ。
「あの、お箸かフォーク使わないと、ダメだよ?」
「だから、それは今いいから! っていうか人間界でいう『おかん』なの、リリアルは!?」
プライベートでは多少(?)粗暴なデゼルだが、こう見えて華々しい音楽界の超新星・魔界出身の悪魔歌姫として人気を博している。
しかも、本人の素では考えられない『神秘性』が売りなのだから、もう何が何やらわからない。
マネージャーに厳命されているのは、『フリートーク番組には出ないこと』と『話を振られても言葉を発さずに頷くかうつむくかにとどめること』なのだ。いかにそのマネージャーが敏腕か、わかろうかというものである。
「よーし、じゃあまずは服を買いに行かなきゃね!」
「えぇ……? でも私、そんなにお金持ってないし……」
くわえていうなら、どちらかというと化粧品が欲しいのである。
「メイクは私の道具貸してあげるから、とにかく服よ、服! あと下着! リリアル、たまにノーブラでしょ」
「だって、ブラジャーって、締め付けきつくて窮屈で……」
それがまたしても悪い虫を寄せる蜜になっていることに、本人は気づいていない。
「そんなこというのはこの胸か!」
豊満なリリアルに比べて、スレンダーな胸部肉質のデゼルは八つ当たり気味に胸をわしづかみにする。
「ひゃあっ!?」
「あっ! またノーブラじゃないのよ、この胸が! 胸肉が! 吸収した魔力、全部どこに回してるのよっ」
「し、知らないってば! ……って、もう! んんっ! や、やめ……」
こうして、しばらく百合百合しいじゃれ合いが続いた。
◇
「じゃ、行こっか」
「うん」
寮の玄関で靴を履き、デゼルとリリアルは出かけようとする。
デゼルの提案でちゃんとサイズのあったブラジャーを買うことも含め、今日は勝負服を買いに行くことになったのだ。
「お金、足りるかなぁ」
がま口財布のポシェットを開いて、中を覗く。
一応、一万円はある。
しかし、あとは小銭が数百円あるだけだった。
「いざとなったら私が出してあげるから、大丈夫だってば」
「で、でも、悪いし……」
「私がいくら儲けてるか訊きたい? 出世払いでいいわよ、そんなの」
なんなら魔力払いでもいいけど? とリリアルの唇を人差し指でおさえる。
その意味するところを察して、リリアルは真っ赤になった。
「ちゃ、ちゃんと労働で返すからっ」
ファーストキスは、悪魔にとっても大事なものなのだ。
「ふっふーん♪ よろしいよろしい」
こうして、ふたりは中央街へと繰り出した。
目指すは超大型ショッピングモール『GEP5{ゲップ・ファイブ}』である。




