第十九話「なんでここに弥一君が!?」
「ん……」
朝。窓の外から入り込む柔らかな日差しと鳥の鳴き声。
それらに意識をくすぐられ、リリアルはゆっくりとまぶたを開けた。
「………………」
ぱちくり、と。
ゆっくり開いたまぶたを、倍速で瞬かせる。
「すぅ……すぅ……」
目の前に、弥一がいた。
いた、という距離ではない。
もう寝息が届くほどの距離、布団の中のぬくもりを共有している。
どうも昨晩の記憶が曖昧なリリアルは、一瞬で真っ赤になった。
(ど、どどどっ、どうしてここに弥一君がっ!?)
心臓がバクバクと鳴っている。頭の中は真っ白で、思い出せない。
「ん……」
寝息を立てる弥一が、小さく身じろぎする。
その乱れたパジャマから覗く素肌には、あろうことか首筋にキスマークがついていた。
(こここ、これって、絶対、状況的に考えて、つけたのって……私!?)
そんな馬鹿な! と思う反面、どう考えても状況証拠はリリアルの仕業だと訴えている。
言い逃れはできそうにない。
「はっ!?」
気がつけば、自分のパジャマもおおいに乱れている。
胸元ははだけ、豊かな胸の谷間と透き通るような素肌が見えていた。
「ッ~~~~!!」
慌てて、それでも動作は最小限にしながら、リリアルは衣服をただす。
それでもわずかな衣擦れの音に反応して、弥一が目を覚ましてしまった。
「!?」
弥一はぱくぱくと言葉にならない様子で口を開閉している。
それから昨夜のことを思い出したのか、ボッと耳まで真っ赤になった。
「あ、あの、リリアルさん……」
「はっ、はひっ!」
「昨夜のことは、その……覚えてます?」
魔力酔いのひどかったリリアルの様子を思い出し、真っ赤になっている弥一はおずおずと尋ねた。
「え、えっと……」
さっきまでは微塵も思い出せなかったのに、弥一の紅潮した顔を見ていると、何やら記憶が蘇ってくる。
『弥一君……大人のキス、しよ……?』
そう、とんでもないことをしてしまったことを思い出した。
「あ、あ、あの、あのことは、その、えっと、その、えっと……」
なにか言わなければいけない、そう思いながらも言葉が一向に紡がれない。
リリアルも真っ赤になっているので、弥一はここは男の見せ所とばかりにこっそり耳打ちした。
「ふ、ふたりだけの秘密ということで……」
「う、うん……」
リリアルの耳に弥一の吐息がかかる。
それだけでまた、ぞくぞくと背筋を快感が昇ってくる。
今すぐに弥一を抱きしめたい欲望をどうにか抑えながら、リリアルは時計を確認した。
時刻はちょうど七時。つまり――朝食どきだ。
「おっはよ~リリアルさん! 朝ご飯はもうできてるから、いつでもリビングに来てね!」
ノックなし。完全な不意打ちで四季が部屋に入り込んできた。
ベッドの上で密接しているリリアルと弥一を見て、四季はたくらみ笑顔を浮かべる。
「ゆうべはおたのしみでしたね♪」
うふふ~と四季がくるくると踊る。
「ちっ、ちがっ――」
弁解しようとする弥一に、四季はウインクをして出ていった。
「男たるもの、責任は持つべし。でしょう?」
ぱたん、とドアが閉じられる。
『責任』という言葉の指すところを理解して、弥一もリリアルもまた真っ赤になってうつむく。
それから二人が私服に着替えてリビングに顔を出したのは、二〇分も後のことだった。
◇
「うふふ、これなら孫の顔が早く見られそう♪」
四季は朝食のコーヒーをいれながら、楽しそうに鼻歌まで口ずさんでいる。
朝食を終えた弥一とリリアルは、二人揃って真っ赤になっているばかりだった。
「弥一」
それまで沈黙を貫いてきた宗重が新聞をたたむ。
「女性に恥をかかせるものじゃないぞ。それと、責任はとるのが道理というものだ」
いつになく真面目な顔の宗重は、それだけで威圧感たっぷりだった。
しかし、どこか嬉しそうにも見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
「だ、だからっ! 母さんも父さんもっ、やめてよ! リリアルさん、困ってるでしょう!?」
恥ずかしさから声を荒げる弥一だったが、その服の裾がきゅっと握られる。
「だ、大丈夫……いやじゃないよ……?」
照れくさそうにいうリリアルに、弥一はますます赤くなってしまい、そのまま無言になってしまった。
「あらあら♪」
四季は、初孫予定表を繰り上げなきゃねと心の中で思いながら、ふたりを優しく見守った。
というより、好奇心一〇〇パーセントの少女の顔をしていた。
恋バナとスイーツ、女性にとってそれはいくつになっても甘い蜜なのだった。




