第十七話「曖昧な私は地雷踏み(アイ・マイ・ミー・マイン)」
「さ、話して話して♪」
食後のリビングでは、四季と宗重、弥一、リリアルの4人でアップルパイと紅茶による第二回お茶会が開かれていた。
時刻はすでに七時となっているが、夜のとばりが降りたこの時間帯こそ悪魔の本領。帰りが遅くなって困ることはない。
むしろ、両親公認で弥一と一緒にいられることに、喜びを隠せないリリアルだった。
「それじゃあ、出会いからお話ししますね」
リリアルは紅茶を一口飲んで喉を潤すと、ゆっくりと切り出した。
さすがに恋物語のはじまりを話すのは恥ずかしかったが、そのときのことも大事な思い出だ。
とくに相手が弥一の両親であるなら、向こうには聞く権利があるだろう。
なにせリリアルは、『大事なひとり息子に手を出したわるい悪魔』なのだから。
「ぼ、僕から話しますよ!」
珍しく、男らしさを見せようとする弥一。
宗重の前なので、張り切っているのだろう。
もしかしたら、これを機会に一人前と認めてもらいたい狙いもあるのかもしれない。
「そ、そんな、悪いよ! ここは私から――」
「いえ、僕から! リリアルさんに恥ずかしい思いはさせられません!」
「そ、そんなこと……ないよ?」
「えっ、あ……はい。そ、そうですね。大事なふたりの思い出、ですもんね」
繰り広げられるふたりだけの世界。
しかし、四季と宗重はそれさえも優しく見守る。
「まあまあ、アップルパイでも食べて落ち着いて?」
弥一とリリアルが赤面しあって会話の応酬が途切れたのを見計らい、四季が助け船を出す。
「い、いただきます」
人間界の林檎で作ったアップルパイ。果たしてどんな味がするのだろうと、リリアルは期待に胸を膨らませながら一口ほおばった。
「お、おいしい! 生地がサクサクで、中のカスタードクリームが絶妙で……すごくおいしいです、四季さん!」
「うふふ、ありがとう」
笑みで返しながらも、『私はまだお義母さまって呼んでもらえないのね……』と、しんみり思う四季。
「遠慮はいらない。たくさん食べていきなさい」
「はい! お父様!」
元気のいい返事に満足そうに頷きながらも、『俺も宗重さんと名前で呼ばれたいのだが……』と、もやもやを抱える宗重。
夫婦で、妙な行き違いのあるのだった。
が、それをリリアルは知ることはない。――今は、まだ。
「それで、どっちから声をかけたの?」
じれったさに耐えかねた四季が、思わず直球を投げ込む。
そこにまず答えたのは弥一だった。
「あ、僕です。というか、リリアルさん、魔力不足で倒れてて、介抱したのが出会いで……」
「う、うん。あのときは、本当にありがとう」
「当然のことをしたまでですよ」
少し照れくさそうに言う弥一。
けれど、その『当然のこと』を、果たしてどれだけの人間が悪魔に対して行えるだろうか。
やはり、弥一は特別だった。
リリアルに取っても、特別で、唯一無二で、何より大切で……恋い焦がれてしまう相手だ。
「介抱したなんて、偉いわね。でも女性の体に無許可で触れるのは、今後は気をつけなさいね」
「緊急事態ですから! べ、べつにやましいことなんて、ちっとも……」
「本当? 本当になかった? お母さんの目を見て言える? それに――」
すこし溜めてから、言葉を放つ。
「今でも、やましいことしたいって気持ち、微塵もないの?」
とにもかくにも直球を投げ込む四季。もしピッチャーをやっていれば、エースの座は約束されていただろう。
「そ、それはっ」
じぃっと、四季が、宗重が、そしてリリアルまでもが弥一の言葉を待って見つめる。
特にリリアルに至っては、何かを期待するような眼差しで見てくるものだから、弥一としてはもう逃げ場はなかった。
「い、今は、その……あ、あります……」
その言葉を聞いて、リリアルは耳まで真っ赤になった。
そして、「きゃあっ♪」と歓喜の声をあげる四季。
なにやら複雑そうな顔をする宗重。
今夜はまだまだ、リリアルも弥一も、解放される気配はなかった。
秋の夜は、長い。




