第十二話「デート・ディ(夜)」
「はぁ……」
夜。何度目かになる恋のため息をつく、乙女がふたり。
場所は三畳一間の畳部屋、リリアルの私室である。
「はぁ……」
桃色のため息をつくのはなにもリリアルだけではない、デゼルもまたため息をついていた。
「やっぱり可愛いなあ、弥一君」
「やっぱり素敵だなあ、周造さん」
ふたりの恋。順風満帆なリリアルと、今にも難破寸前のデゼルでは偉い違いだ。
「「はぁ……」」
またしてもため息が重なる。
それから、しばしの沈黙が続いたあと、「よしっ」とデゼルが立ち上がった。
「屋上いこ!」
突然の提案だった。
いまいち意図がつかめず、リリアルは驚いてしまう。
「え、ええ? なんで?」
ふっ、と妖艶な笑みを浮かべたデゼルは告げる。
限りなくかっこいい、その言葉を。
「夜空が綺麗だから、さ」
その言葉に、さすがのリリアルもちょっとキュンときた。
◇
「おー! 満点の星空!」
悪魔たちにとって、夜の闇は視界の妨げにはならない。
むしろ、昼よりもクリアに見えるくらいだ。
「さて、リリアルは今日のデートどうだったの?」
おもむろに展望台になっている屋上のベンチに腰掛けるデゼル。
なぜかベンチで三角座りをするので、リリアルもそれに習った。
「う、うん。ひかえめに言って、最高……かな」
ぽっと頬が赤くなる。
そのリリアルの様子を見て、デゼルは実に満足げに頷いた。
「うんうん! よかったよかった! ……次の約束は?」
たたみかけるデゼル。
恋バナは歌のこやし、趣味と実益を兼ねた実に素晴らしいものなのだ。
「え、えっと、今度、家庭教師にいくことになったんだよね。魔界史、こっちでも試験あるらしくて」
「へぇ! お家にご招待なんて、すごいじゃん! それでそれで?」
「え、えっと、今はそれだけだけど……あっ!」
大事にポーチに入れていた四つ葉のクローバーのしおりを取り出すリリアル。
「こ、これ、もらったんだ……白詰草のしおり」
「おお!? こ、これは将来的な展望も期待できちゃうってやつじゃない?」
「う、うん。そうだといいな……」
また照れくさそうにリリアルが赤面する。
その様子を見て、インスピレーションが湧いたデゼルは、静かに恋の歌を紡ぎだした。
「~~♪」
どんな楽器も必要ない、デゼルのうつくしい歌声はしっとりと夜の闇に溶け込んでいく。
リリアルは、最高の歌を誰よりも近くで聞きながら、夜空をもう一度見上げた。
「宝石箱みたいだね……」
それは、弥一のころころと変わる表情を連想させた。
「私、人間界に来てよかった」
星空はうつくしく、静かにまたたく。
流れ星がひとすじ、流れていった。




