第57話 絶望タイム
その夜、5人の人間が異形の神を目にした。
笛を鳴らす神々を侍らせて、雲の隙間から這い出る様に墜ちてくるそれを見て、彼らは、精神を腐らせ、目玉を潰し、頭を鋸で開き、何処へともなく走り逃げ、ひたすらに笑い転げて、等しく死んだ。
* * *
「リトラ……開けてくれよ……もう結構経ったろ……」
「……ごめんなさい……もう少しだけ、このまま……」
ダメだ。
狩猟者が行かせてくれたってのに、リトラは自分の事がまだ怖いって言って、部屋から出てくれない。
扉越しに話をして落ち付いたけど、いざこうして近づくと、安易に好きって伝えられなくてもどかしくなっちまう。
「……」
けど、リトラも馬鹿じゃない。
何であんな顔になっちまったのか、分かってくれてる。
本人に聞いたんだ、間違い無い。
わざわざ伝えなくても、リトラの事が好きだって事は……。
「……お前から離れてたのは、こうなるのが怖かったからかもな……お前の事で必死になっちまって、結果怖がらせちまう事が分かってたから……」
「……分かってます……分かってますよ。貴方が、私以上に私の事を好いてくれてる事……でも、あんな顔見て怖がってしまった私が、何て言うか、情けなくて……」
「……天使と悪魔の癖して、人間臭いよな、自分ら……アイツといて染まっちまったかな」
「……サリー……」
「……何だ?」
「……まだ、親友でいてくれますか……?」
「……何言ってんだお前、リトラは自分の……ッ!?」
待て。
何か、空気が淀んできていないか。
指輪の解放……いや違う、それとは違う嫌な予感。
「……何だ……アレ……」
窓の外に……空に……不定形の、異形……!?
しかも周りにいるのは、下級神共じゃねぇか!?
「……まさか……お父さんが封印した……ッ!」
あの邪神が復活したのか!?
だとしたら、マズい。
今この世界に降りて来たら、確実に怒りで破滅を齎す。
こんなものをリトラが見たら……!
「リトラッ!!」
仕方無ぇ、壁をブチ破って侵入だ!
「うぇ!? サ、サリー!?」
説明する暇は無い、抱き着いて視界を封じてやる!
「良いか何も見るな、そして何も聞くな!」
「何!? 今度は何!?」
「門を開け! 何処でも良い、異世界に逃げるんだ今すぐ!!」
「何なんですか!? 何が起こってるんですかサリー!?」
「頼む逃げてくれ! 後で説明する!!」
もう他の皆は発狂したか死んだかだ。
今更気にしていられ……!
『あーあー。天使に悪魔ー聞こえてるかなぁ?』
「狩猟者!? 無事なのか!?」
『よろしくやってたりしてたら悪いが、とりあえず良いと言うまで窓の外は見るな。って言うか目でも閉じとけ』
「何悠長な事言ってるんだ! お前アレが……!」
『ありゃ模造品だ。釣りのルアー程度にでも思っとけ』
「……はぁ!?」
「……えーっと、つまり?」
『エネミーを見付けた。始末してくる』
「ちょ、おい!? どう言う事だ説明しろ!」
* * *
どう言う事も何も。
これが俺のやり方だぞ?
お前、今まで何を見て来たんだ?
そういやぁ狩りの仕事してる所は見てなかったな。
まさか仮にも熾天使が、偽の神を前にしてビビッたって言うのか。
お笑いだぜ。
「ん? いやだから、俺らの敵を殺す作戦だって」
『……狩猟者……テメェまさか騙し』
「ピーピーうるせぇんだよボケ。誰が騙したってんだ誰が」
『目標は、天宮 環奈の精神から這い出て来た。これより作戦目標をエネミーの殲滅に変更する。システム、戦闘モード』
「サクッとやろう」
加速。
* * *
素晴らしい……。
素晴らしいぞ!
まさかあの狩猟者が、我が神を信仰したとは!
嗚呼、A^a'-;'.よ。
渾沌の只中で在る者よ。
御身をこの眼に入れる事が出来ようとは!!
「貴様、環奈様の内に潜んでいただけでは飽き足らず、身体中の穴と言う穴から這い出て来るとはどういう了見だ!」
何やら悪魔が宣っているが、こんな低能の言う事なぞ聞くだけ無駄だ。
この世界は腐敗しきっている。
いやそもそも、初めからこんな世界など存在しなかったも同然なのだ。
そんな世界の産物が、今更何を喚く必要がある。
「環奈様、まだ目を覚ましてはなりません環奈様。アレを見てしまっては……ッ!」
「目を逸らす事こそがその存在を認める事となる。つまりお前も、あの*z*'-o√@様の恐ろしさを知っている事となる。括目せよ、全てが無に帰るその瞬間を!」
……何故視線が上に向いている?
「……」
おい、どういう事かね。
声が出ないぞ?
おや、首が斬られてる。
私は首を斬られた程度では死なないと言う事は実証を以て知っているが、では何時首を斬られた?
それは、まぁ、今であろう。
なら何故だ?
「Ia……Ia……C'.u∔|.∔ f.'*gn」
「……」
嗚呼、なるほど。
異教徒か。
いや、この者は無宗教だな。
”誰も崇拝してなどいない”。
いやそもそも”意思が無い”。
しかし、この者はそれに気付いていないのか。
とすれば、なるほど意思があると同義だな。
ならば言葉を交わす価値がある。
「外なる支配者を崇める者。深淵を覗く時、深淵もまた貴様を見ている事を忘れたか。今貴様は、無の魅せる夢に欺かれた塵芥が一つだ。それを信仰していると信じるならば、無に帰せ。今すぐ」
『誰も信じない貴様にその言葉を言われる筋合いなど無い。疾く失せろ、全てを冒涜する偽物め』
「……」
視えるぞ。
貴様は人間ではない。
それは種族的な意味合いでは無く、もっと根本的な、そう、生物と言う概念を更に突き詰めようとしてその枠からはみ出してしまった何でも無い存在のように。
我が神の意思を代行する、あの這い寄る混沌のように。
全ての時空を跨ぐ、あの気泡が如き全能のように。
「……言いたい事はそれだけか」
『嗚呼そうだ』
「んじゃ、行って来い」
おや、頭と体を掴まれた。
持ち上げられた。
モノ扱いするのは止さないか。
『何処にだね』
「お前の神様ん所だ、ゼッ!!!!!!!!!」
おお、やった。
遂に神と一つになる時が来たのか。
いや、それは得てして無に帰すとも言える。
ハハッ、良いものだ。
貴様は優しいよ、この私の願いまで叶えてくれるなんて。
『……そうか……つまりはそう言う事だったのか……全て理解した。無駄ならば、始めから無くても良かったと言う事。それは、夢の様にある事であったわけだ。追い求めずとも、既に真理へ至っていた……其方はそれを、知っていた。嗚呼そうか。全てが等しく無駄であるならば、無い事すらも無駄である事! 今此処に叡智を見出した! 私は、無にも有にも帰らない! ハハッ、ハハハハハハハハハハハハ!!!!!!』
全てを悟った。
ならば、最後に人間として伝えよう。
ありがとう、と。
* * *
『目標、ルアーと同一化を確認』
「はい《失われし主》」
司祭っぽい姿の変な奴を放り投げて、同じ存在になった所で存在を否定してやった。指輪の解放なんてしなくても、今の俺ならあんな肉塊の一つや二つ情報操作で痕跡消してやれば勝手に神聖が消えるぐらいまで能力が強くなってる。ちなみにその事に気付いたのは、俺ら4つが暗黒笑いを浮かべた時。何て言うか、いちいち舐めプ多いよな俺。もうちと自分の能力ちゃんと把握しないと。
「よーしウルネラにアルバロ、第4形態だ」
『おっ、待ってました!』
『遂に……』
P-003破滅。
ぶっちゃけ言うと超巨大なビームランチャー。
聞いて驚け、反物質反応砲をもっと簡潔にして弾幅縮小も可能にした禁断の弾を使う。
「はい標準合わせてー」
『合わせる必要もなーい』
『……当れば消える』
「その通り」
躊躇?
そうだね、流石にこの弩デカい技を見られるのは危ないと言うか色々と。
「はいドーン!!!!」
んなもん気にしてられっかよバァアアアアアアアアアカ!!!!
「ヌ”ゥ”ハハハハハハハハハハハ!!!!」
反粒子と粒子との反応エネルギーが銃身から放たれる。
大気を揺らし、無機質で絶大な力が天へと雄叫びを揚げるのだ。
「ハァハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! ゥハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!! アァァアアアアハァアアアハァアハハハハハハハハハハハ!!!! 」
それは雲を割き、肉塊を消滅させ、魂だけ残して全てを無に還した。
月だけが、俺の姿を煌々と照らし出していた。
「クフハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! 魂奪取!! Sランク、ゲットだぜぇ!!」
「……………………」
クロウが呆然自失の顔で見ていやがる。
何だよ、そんなに凄かったか?
もう一発撃つか? 出来るぞ?
「…………貴様……アレは、まさか……」
「おびき寄せる為の餌だが?」
「……………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
ハハッ、呆れかえって怒る気すら起きないか。
「ともかく、環奈様は気絶している。邸へ戻そう」
「うーい」
はぁ~まったくやってられるかこんなん。
終わっちまえばこんな程度なんだもんな。
ここまで来ると絶望すら無いぜ。
つまらん。




