第51話 後悔立たず
「……」
やっちまった。
「……」
神鵺に見られちまった。
私の過去が赤裸々に知られてしまった。
こんな恥ずかしい事ってあるか。
聞いてくれ、いや、お前ならもう知ってるだろうが、私は自分の親を殺してる。虐待されてたんだ。そうだ。二年前までの、あの悪魔クロウが来るまでの私は弱者だった。処女こそ破られはしなかったが、色んな遊びに使われた。腹パンごっこだ、自殺ごっこだ、何だって、色んな方法で殺されかけながら何とか逃げ伸びた。奴ら私の事を生きた玩具にしていたんだ。死にそうな顔を見ると二人して顔を赤らめて、写真なんかに撮りやがって。だからクロウがやって来たあの時、私は歓喜した。待って待って待ち続けて、ようやっと力を見付けたんだって。悪魔召喚の儀式を隠れて執り行い続けた私に、遂に救いの手が差し伸べられたんだって。手始めに両親を殺し、風呂場で丁寧に肉をこそぎ取って頂戴してやった。正直不味かったが、アレを食べる事で自由と言う世界への切符を手に入れなきゃいけなかった。実を言うと、小学校と中学校には通ってない。もっと言うと幼稚園にも通ってないし、同い歳の友達なんているわけ無い。隠し子だったんだ。今でこそ高校に転入して、それなりに普通っぽい日常を送れてるし、友達はいないが、穏やかな暮らしって言うのにも慣れて来た。虐めっ子共は皆殺してやって、クロウの裏工作で事故だ何だと言う事にしてもらってたよ。その後は疫病神だ何だと言われて避けられてるが、遠くから普通の子達を見て普通って言うもんを勉強も出来たし願ったりだ。狩猟者システムが出来上がってからも同じだ。私には殺しの才能があった。クロウが言ってた、私の力は最強レベルだって。存在しない人間から、億万長者の殺し屋に転職出来るって知ったら、もう後には引けないことぐらい分かるだろ? 乗ったよ。喜び勇んで異世界から異世界へ飛びまくったもんさ。
そしてある日突然、世界を滅ぼそうなどと宣うバカが現れた。
下位世界だからってそんな事を考える頭には呆れたが、ソイツはブランドモンの学校に通う秀才だって知って合点が行った。神様を殺すつもりと見抜いて、奴に接近し、一緒にやってやった。とんでもない非道な奴だった。神の事を、「お前なんていない」と一蹴してのけたんだ。鳥肌が立った。私以上に寒気のする発想をするヤツに驚いたんだ。腹の底から笑いが込み上げて来た。恐怖を誤魔化すためか知らんが、とてもおかしくって気が狂いそうだった。私の目指すべき究極はそこにあるのだと確信した。それからと言うもの、何かとアイツの事を気に掛けていた。
たらふく飯食わせて貰って、その後も何度か連絡を交わす内に、奴に対する認識は少しずつ変わっていった。勝手にアイツを友だと思っていたんだ。でもバトリスでアイツも私の事を友だと言ってくれて、私の中で何かが弾けて。そうだ、その頃からもっと神鵺の事が気掛かりになったんだ。
気付いたらどうだ、この有り様だ。
アイツを怒らせてまでバトろうとした結果トラウマ抉られて、頭に血が昇って暴走したと思いきや神鵺の方が喚き出して。そんで神鵺を庇って妖怪に喰われて、今じゃ真っ暗闇の中。情けないったらありゃしねぇ、何も変わらねぇじゃねぇか。
今になって、不死の身体を呪っちまった。
「……」
いっそ、アイツらに殺されでもしていれば良かったのか?
縄で首を絞められて、小便垂らしながら白目向いて、惨めな死体のまま山にでも埋められていれば、こんな苦しい思いをしなくて済んだのか?
「……もう嫌だ……」
『だったら、変わろう』
「えっ?」
誰だ?
やけに私に似た声で喋りやがって、一体誰なんだ。
『私に変わろう、私ならもっとうまくやれるぜ?』
変わる? 変わるって、私とお前がか。
『交代さ。”私”の世界を私にくれよ』
「……クロウに聞いた事ある、世界征服だったか。誰がそんな言葉に乗るかよ」
『良いのか? 神条 神鵺に大迷惑掛けた上、暴走までして、嫌われたんだろう?』
「それとこれとは!」
『話が違う、なんて事は無い。クロウだって”私”を肯定する機械でしか無い事はもう気付いてるんだろう? もう、”私”の存在を認めてくれるヤツはいない』
「乗せられんぞ! 意識を持った世界、世界そのものを内包しソイツと化した支配者は他世界を呑み込んで成長するって話だ。お呼びじゃねぇんだとっとと消えな!」
『随分強がるなぁ。だって、たった今消えようとしてたのは、”私”じゃないか』
「ッ……!」
『ほら、図星だ』
「違う! 今はもうちがっ、ぁ? ……何だよこれ」
う、腕が……暗闇に呑み込まれて……!?
『……さぁ、”私”になれ。そして私が”私”になる。鵺から天宮 環奈へ大変身だ。喜べ、妖怪になれるぞ?』
「……違う……違うだろ」
『……時、既に、遅し。チェックメイトだ』
「嫌だ……違う、こんなの違うだろ! 私は狩猟者なのに! 狩る側なのに!」
『クフフフ……あの時みたいに、助けでも乞えば? 無駄だろうけどさ』
「…………」
『んー?』
「…………けて…………助けて……」
『……クフフ、良いねぇ! そのまま絶望してな! んじゃっ、私は愛しの神鵺君とランデブーしてくるぜ? 私の大好きなバトルだ』
「……」
『クフフ……クフハハハハハハ!!!』
「…………」
「……もう良いか」
だぁ~れが屈するかよ、ド腐れが。
テメェのおかげで気が変わった。
内側から蹂躙してやる。
この天宮 環奈様をナメる奴ぁ許さねぇ。
腹の綿食い破って、そのままアイツの鼻に一度噛み付いてやるんだ。
それが、最高にカッコイイ復讐だろ?
待ってろ神鵺、この私にカッコ悪い事させた事を後悔させてやる。




