第50話 俺のダチ
「もうカッコ悪い姿になってるんだって! 目を覚ませ環奈!」
「そう言って抑え付けようとしてるんだろ! 私は正常だ、お前を殺して自由になるんだ!!」
環奈のトラウマを抉っちまって、暴走状態に引き込んでしまった俺は、今、50本、60本、いや70本、100本の槍全ての脅威を受け流しながら説得している。
体術的な所はどうとでもなるが、問題は説得内容だ。
ここで間違えたら、俺は後悔してもしきれない想いをする。
それは絶対に嫌だ。
だから頭を冷静に、魂は何処までも熱く正直に行こう。
「お前を縛ってるのはお前自身だろ! 俺はお前の両親じゃない! 分かるだろ。お前を縛る二人は、お前自身が自分の手で喰らった。もうここにはいないんだ」
「ああそうだよ! クソヤロウ共を殺して喰ったあの時は、今でも鮮明に覚えてるよ! 今回も同じだ! 私を縛るお前を殺すんだ!!」
「俺をソイツらと一緒にするな! 良いか環奈。こういう時に何とかしてやりてぇと思っちまうバカを、ダチって言うんだ。本気でこう思えた初めての相手がお前なんだ。戻って欲しいっつってんだよ環奈!」
「じゃあ何でまともに相手してくれなかったんだよ!」
「……何で、か」
何でなんだろうな。
忙しかったから、ソッチの方が大事だったから、明日は科目テストがあるなと思ってたから。
理由はいくらでも浮かぶが、そんな答えをコイツは望んじゃいねぇ。
「答えられねぇのかよ。どうなんだよ神条 神鵺!」
正確に言えば、それらの答えを際限無く分解した果てにある、シンプルな答えを望んでるんだ。
こういう時の女の思考はこれ一つ。
私とお前、どっちが大事なんだ。
だが、俺はそんな定義から外れる概念。
自分勝手を突き抜けて、その腐れた法則に楯突く破壊者だ。
「お前と競争を楽しみたかったんだよ! ドッチが鵺を狩れるかでバトルしたかった!!」
「……はぁ!?」
「だのに何なんだこの仕打ちは! まるで見当違いの戦い方で挑まれて、諭そうとすればトラウマ抉っちまうし! 殴って気が済むならいくらでも殴られてやりてぇよ!! けどそりゃ違うだろ!!」
「待て、さっき遊びじゃないって」
「気が付いたら何だこの醜い争いは!!」
「おい人の話を」
「そんな無様な格好これ以上見たくねぇよ!! 元のカッコ可愛いお前に戻れよ環奈!!」
「ッ! ちょ、おい!」
「お前が被害被ってるみたいに見えるけどな! 俺だって気持ち汲んでもらえなかった事胸に突き刺さってんだぞ!! 男は女より強かねぇんだよチクショウ!!!」
「待て! 何か立場逆転してねぇか!? って言うか聞こえてるか神鵺!?」
プライドを捨てた最終奥義、コッチが女々しくなるの術。
人の話を聞かず、支離滅裂な此方の事情を一方的にマシンガンの如く突き付ける事で逆に冷静にさせる非人道的な反則技だ。
下手をすりゃ一発で人間関係崩壊し兼ねない危険な技だが、最早これしか俺に思いつく解決策は無かった。
結果、攻撃の手は止み、姿は戻らずとも冷静になった。
流石、俺。プライドも糞もあったもんじゃねぇな。
ちなみに、競争云々以外はぜーんぶ本音だ。
きっかけさえありゃ俺は何時までも文句垂れる事が出来るぜ。
「そりゃお前の味わった痛みは分からねぇよ。けどよ、そんな過去知っちまったら……お前、これからどう戦えば良いんだよ……」
「……ッ!? 神鵺……お前まさか……!?」
「……善ぶるつもりはねぇがよ……お前それ、普通に辛いぞ……」
あ、ヤバい。
作戦のつもりが、マジで辛くなってきた。
いや、だってさ。
こんな明るそうな奴が、その実酷い虐待受けて尚も生きようと踏ん張ってるってのに、それを俺、サラッと突いた挙句に土足で踏み入ったんだぞ。
申し訳無いどころじゃねぇよ。
絶縁されても文句言えねぇよこんなの。
あ、姿が元に戻った。
冷や汗流してる、やっぱ知られたくないよなそんな過去。
「見たのか……わ、私の記憶を……!?」
「……つい」
「――ッ! ど、同情なんて要らねぇ!! そんなの必要無いんだ!! 私は、アイツらを殺した! 殺してやったんだ!! 自分から自由へ羽ばたいた!! だから!」
「同情じゃねぇよ、これは、俺が自分の落ち度に呆れてるだけだ」
「…………神鵺、その……私は、ッ!?」
ん?
何だ、目を見開いて。
「神鵺ッ!!」
「!?」
は!?
何で突き飛ばされた!?
これ何か、デジャヴュを感じるんだが。
ジェイク、お前スキャンはどうしたんだよ。
まさか全部をすり抜けて来たって言うのか。
何呆けてんだジェイク、さっさとパーツを展開しろ!
おい、止めてくれ。俺の背後から出て来る奴の正体は分かってる。それ以上進むな妖怪。止まれ! 止まれって!! ソイツはお前が奪って良いモンじゃねぇ!!
環奈! 影ん中に逃げろ環奈!
早くしねぇと――!!
「あっ」
…………喰われた。
「グッ、環奈ッ!」
『ヒョォ……』
ふざけたような申の顔。茶と灰の混ざりあった狸の胴。爪を剥き出しにした寅の足。巳の尾。
口周りを血で染めたランクS+の妖怪。
永遠の祝福《呪い》をくれた、俺の大嫌いな妖怪。
俺のダチを喰いやがった存在、鵺。
「……環奈……いや、口ん中は暗闇だしな、影だらけだ。環奈ぐらいの野生児なら、直ぐ気付くだろ。死んだとしても……」
ああ、大丈夫だ。
しっかり《起死回生》が発動してる。
そうだ、コイツは喰われたぐらいじゃくたばらねぇんだ。
ほらさっさと吐き出せよ鵺。
『……』
おい、消えんなよ。
何処行くんだテメェ。
言う事聞けよ、殺されてぇのか。
今すぐソイツを吐き出せっつってんだ!!!
「死ね妖怪ッ!!!!!」| 《ズガズガズガズガズガズガン!!》
『ヒョォォオオオアァァアアアアアアアアアアア!!!!』
クソッ! 消えた!!
環奈連れて逃げやがった!
ふざっけんじゃねぇ今になって出て来たと思ったら!!
『バイタルに変調あり。”私”よ、落ち付け』
「……ジェイク頼む、投与してくれ」
『危険だ。了解出来ない』
「だったら俺の脳も使って良いから重力偏差でも赤外線でも超音波でも何でも良いからスキャンしろ今すぐ!!!!」
『神鵺さん落ち付いて下さい、貴方まで冷静を欠いたら』
「落ち付けるか!! リトラもオクマさんとこで使えるもん調達して来い!! それと優だ、優に第三指定解除と伝えろ! 未来を固定するんだ!! 何だって報酬をくれてやる!! 足立姉妹には万が一の為に霊媒を!! ッガ……ァ……!?」
何だ。
身体が、動かないだと。
金縛り? いや、筋肉が凍らされてる。
こんな事が出来るのは……。
「ウルネラァ……何のつもりだテメェ……!!!!」
『……ユーザーに興奮されると性能が落ちる。当然の処置をしたまで』
ふざけんな、環奈が連れてかれちまってるってのに何足引っ張ってんだ棄てるぞ。
『……別に構わない。全てはユーザーの意思による』
「ッ、ウルネラァ……!!!」
持ち主にんな態度向けてタダで済むと思ってんのか、モノのくせして……!!!
『ユーザー、環奈ちゃんが好きなんだね』
「ッ……」
……アルバロ、お前痛いとこ突くじゃねぇか。
うっかり醒めちまった。
『えっ……えっ!? 神鵺さん、え!? 嘘!?』
「……~~……ったりまえだ……アイツぁ俺のダチだ」
『あっ、ソッチ……』
『だったら、もうちょっと大事にしてあげよ?』
「…………ヘッ。お節介焼きの付喪神に育てた覚えはねぇのに、何時の間にそんな上等な口が利けるようになったよ」
おっ、動けるようになった。
『やだなぁ。我等は出会った日から、ずっと一緒じゃないか』
『……”我”』
『”我”』
「…………フッ……ハハッ……ッハハハ……」
『……え、神鵺さん……?』
おいおい何だよ神条 神鵺。
お友達が攫われてブルッちまって?
逆ギレですか?
お子様ですねぇ。
テメェはそんなタマじゃねぇだろ。
何時だって最善の結果を叩き出す天才だ。
もう一つ、”自分の正体”を思い出せ。
「……いや何……いくら足掻いても自分自身には抗えないと再認識しちまってな」
『な、え、それは、どう言う……』
嗚呼そうだ。
”俺”は正解を見詰める者。
この”俺”は、そう言う風に出来ている。
そして”俺”は、その概念を自覚しているただ一つの個体。
「餌は一匹だ、仲良く引き裂いて山分けだぜ」
『だってさ、負けないよウルネラ』
『……仔細無い』
OK貴様等《Everyone》!
仕事だクソッタレ!!
「リトラ、後でオクマさんにメンテして欲しいって伝えとけ。月と太陽が喜ぶ食材をたんまり仕入れとけともな」
『あの、神鵺さん!? 壊れてませんか!? 大丈夫ですよね!?』
『作戦内容の更新完了。天宮 環奈の救出、及び、目標の撃破。作戦行動を開始する。システム、スキャンモード』
「加速!!」
『神鵺さぁあああああああああああああん!!?!?』
こんな事言えた義理じゃないし、本来毛嫌いする台詞だが。
敢えてここで言わせてもらおう。
「待ってろ環奈!! 今助けに行くからなぁ!!」
くっせぇー!!!!!!!!




