第45話 7日目の決戦
優が言うには、今日の午後二時、つまり一時間後に総勢100名の狩猟者が一斉に邸へ襲い掛かって来るらしい。
しかも全員悪魔のサポート付き。
「いよいよもってトチ狂ったな。大方、1回目の魂奪取で痛い目見た悪魔共の逆襲だろ」
「ど、どうするの?」
「迎え撃つしか無いだろうな。まぁ、正攻法ではやらんが」
「その必要は無い」
「信?」
廊下掃除してるはずの信が何時の間にやら。
仕事してる時は何故か(コスプレ方面の)メイド服を着てるんだよな。カワイイ。
「自分一人で十分だ」
おいおいどうした珍しい。
お前が自分から申し出るなんて、今日は世界の終わる日か。
「三日前に狩猟者の侵入許しちまっただろ」
「だな。勝手に自滅したが」
「ここらで100人抜きでも見せ付けてやんなきゃ示しが付かねぇ」
「それでか。んじゃ報酬は……」
「いらねぇって、それじゃいつものお手伝いだろ」
「……つまり今回は、メイドとしてでなくお前個人としての申し出か」
「そう言う事だ」
コイツもコイツで、難しい性格してるよな。
だから可愛いんだが。
「……なら、任せよう」
「お前も心配な奴がいるんじゃないのか? そんな顔だ」
「……」
コイツ、知ってたのか。
いや、女の勘かな。
「テメェ」
「フンッ」
「毛先でも侵入されてみろ解雇したるからな」
「ソッチの方が気を付けろ」
「言われずとも」
頼んだぞ、熾天使。
そんなら、俺は事前にジェイクを連れて加速飛行で実家へ向かうとするか。
実は割と近いんだよな、あそこ。
「……お前は本当に幸せだぜ」
「……サリー……」
「自分はお父さんの事を裏切ったけど……アイツは、そういった裏切る裏切らないの問題から外れてるんだ。アレはそう言う概念なんだよ」
「サリー、何を言ってるのか私全然分からないんですけど」
「分からなくて良い。ただ、アイツの事は何故か守ってやりたいって思っちまって……リトラが悲しんじゃうからかな」
「……もう、サリーってばドストレートぉ!!」
「ゃ、やめ!? ひゃっ!?」
* * *
信に邸の防衛を任せ、俺は実家のあるA町まで飛んで来た。
勿論認識阻害も忘れずに。
ジェイクにスキャンして貰うと、チクショウ、既に狡い事を考えてるヤツが構えてやがった。あの魔術師め、さては遭遇前に父ちゃんの情報をリークしてやがったな。後で全世界規模の改竄してやる。脳の使用率40%だってやっても構わん。思えば初めからこうしとけば良かったな。ともかくだ。俺の父ちゃんには傷一つ付けさせんぞ。
3人か。気付かれない内に極超音速で……行ったら衝撃波と騒音で大迷惑掛ける事になるな。仕方無い、各個短期決戦の形で持ち込むとしよう。
『作戦目標を確認。システム、戦闘モード』
「森ん中に上空、遠距離。まずは遠距離から」
『了解した』
「ウルネラ、アルバロ。スナイパーライフルにはなれるか」
『任せてー』
『……仔細無い』
「アルバロを後ろに、ウルネラを前にしてー……サプレッサー付きの対狩猟者用長距離狙撃銃、P-001陰陽か。洒落てるねぇ」
手前の銃床から銃口に掛けて、白と黒の緩やかなコントラストが侵蝕し合う様な美しいフォルムの狙撃銃を構える。そしてスコープをのぞき込んで、対象へ標準を合わせる。倍率1倍、2倍、4倍、8倍、10倍……20倍なんて出来るんだ。スゲェ。普通だと倍率が上がるごとに手ぶれの影響が大きくなるが、ジェイクが調整してくれるお陰で筋肉の動きが最適化されている。相手を捉えてピクリとも標準がブレない。女か、女子中学生ぐらいだなありゃ。まぁ、Sランクが怖いってんでその身内を狙おうとするクズだ。死んでもらおう。頭の、そう、脳の所だ。反動を考慮して少し下に、そうそこだ。
「汝の身に災厄降りかからん。我ぁが怨みを以てぇ、蒼き焔に焼かれ給え。ッ死の誘い!」
ねっとりした某声優みたいに適当な厨二詠唱を唱え、引き金を引く。
空気の抜けるような音と共に、呪いの籠った弾丸が飛んで行った。
やがて弾丸は少女の額を撃ち抜き、脳漿を撒いた亡骸は力無く倒れる。
一連の動きには、洗練された美さえあった。
静かなる命の刈り取り、まるで死神の様な働きだな。
『エネミーの撃破を確認。残り2体だ』
「とりあえず魂奪取っと」
『それは位置を報せる事になるが……好都合だな』
「Sランクの恐ろしさを見せてやろう。あのインプに映像でも送っとけ」
『あの弱小悪魔に送るより、ユーザーが直接皆に見せた方が良いんじゃない?』
『……危険度が高い。インプに送るべき』
「てなわけでジェイク頼んだ」
『了解した』
「お前らも戻って、交戦だ」
『よっし!』
『身を任せる……』
上空から飛んで来たヤツとドッグファイトだ。今度は男か。
相手のランクはB、ゴリ押しで情報を見てみると、《飛行》に《身体強化》、《無抵抗域》か。空中戦に特化した奴、さしずめ空戦士って所かね。
加速。
「おせーぞ」
「なっ!? 何だそのふざけたスピードは!?」
「武器を使うまでも無いな」
「慢心は身を滅ぼォ”オ”ッ”!?」
瞬間的に極超音速になって、蹴りを一発。
負担はあるが、前より苦じゃない。
すかさず吹っ飛んでる空戦士の向こうへ跳び、上空へ向けもう一発蹴り上げる。
ウルネラとアルバロとで交互に超高温と極低温のエネルギー弾を浴びせる《クロスバースト》、分子解離で綺麗に消滅だ。
「魂奪取」
『3体目のエネミーに動きあり、このままでは実家へ侵入される』
「ッ!!」
『ユーザー、投げろ』
「お、ウルネラが自分から。何か策あんのか?」
『闇で閉ざし、光で穿つ』
「……なるほど? んじゃ行って来い!!!」
全力でウルネラ投銃!!
『昏い、暗い、喰らい尽くせ……』
「ッ!? な、何だ!?」
おぉ、暗黒の空間が出来上がった。
ギリギリ家が呑み込まれてないレベルに抑えれた事はウルネラ褒めないとな。
『我も我もー!』
「頼んだ、ぜ!」
『ヒャッホウ!!!』
アルバロを全力投銃して、後は待つのみ。
やがて、世界を斬り割かんとするほどの強烈な光が迸った。
光が晴れた時、そこにあったのは、ミイラと化した男の姿だった。
森の狩猟者か、さほど出番も無くおっちんじまって可哀想にな。
「はい魂奪取」
『エネミー0、作戦目標クリア』
『どうだった!? どうだった!? 我の光チョー眩しかったでしょ!?』
『眠い……』
「お前ら良くやったぞ。お疲れちゃん」
このあとめちゃくちゃ情報改竄した。
これでもう父ちゃんが襲われる心配は無いな。
頭が超痛い。
割れるって言うか破裂しそう。
視界もグラグラする。
「はぁ……はぁ……ゆっくりギター弾いててね、父ちゃん」
『……親子愛か、私は既に忘れてしまったものだ』
『我等には分からないものだなぁ』
『……ふみゃ……』
「……父親ってのは、怖くて凄くて優しいもんなんだぜ」
あら、スマホにチャット通知。
父ちゃんからだ、「父ちゃんの事よりお前の近くにいる奴を心配しなさい」……って……。
「……」
『……』
「……敵わないな」
『脳組織の回復を確認、帰還する』
「ああ」
とりあえず、軽めに「はぁーい」っと返事。
「行くか」
《加速飛行》!
* * *
神鵺が去った後、吾は安堵の溜め息と共に煙草の煙を吐いた。
外で息子が戦っている事は分かっていた。
また自分のせいで息子が怪我でも負うのではと危惧していたが、そんな心配はいらなかった事に安堵しているのだ。
テーブルを隔てて座っている少女が、訳知り顔で笑っていた。
「だから言ったでしょ、あの子ならやるって」
「お前なぁ……こうなったのは半分お前のせいなんだぞ。何だお前も、そんな、昔みたいな格好にまで戻って」
「おかげで今思う存分生きれてるんだから良いじゃん。こんな真実知っちゃったら、今まで真面目にやってきた事とか馬鹿らしくなったし。受け入れて順応するのが吉よ」
その言葉を聞いて、今度は深い溜め息を吐く吾。
一息に煙を吸って、また吐き出す。
「……俺はこのまま、ゆっくり老いて死にたい」
「……お父さん……」
「アキ。お前は、なんだ、その……"観測者"でいるんだな」
「うん」
「……じゃぁもう……俺とお前の間も、これで最後だな」
「……愛してた」
「……しっかり見守れ。以上だ。アレはお前が積んだんだから、お前が処理しろ」
吾の視線の先には、屋内に積まれた遺体の数々。
どれも目立った外傷は無いが、確実に死んでいる。
「分かってる」
アキと呼ばれる少女が指を鳴らせば、門が開いて遺体の山は落っこちる。
「それじゃぁね」
そしてその門をくぐって、彼女も姿を消した。
「……はぁ~……」
煙草の煙だけが、今の吾を癒していた。




