第30話 ベイベベイベベイベ
含機械生命体本来の姿へ移行し、赤ん坊の世界へ繋がる門を潜った。常にリトラと通信し、居場所の特定と意識の確立を担ってもらう。とりあえず俺の好きなロックでも流してもらってるお陰で、ノリノリだ。
『言っておきますけど、今回の目標は魂奪取じゃなくて魂の覚醒ですからね!』
「わぁってる。ジェイク」
『システム、スキャンモード。核の捜索を開始する』
「このぐっちゃぐちゃした世界、流石は魔王候補だったヤツの子だな」
色彩が崩壊して、油性の絵の具をぶちまけて好き放題混ぜ込んだ水みたいになっていやがる。視界がほぼ役に立たない。だが、俺は意識を確立しているのでこの世界でもシッカリ姿を保っていられる。これこそが強い魂を持つ証だ。ジェイクもいるおかげで安心感が違う。
『スキャン完了、オートラン機能で目的地へ向かう』
「楽チンだな」
『案外、この音楽でも聞かせてやれば簡単に覚醒するかも知れない』
「ハッ、良いなそれ。ジェイク、スピーカーで流してやれ」
『子供には刺激が強いが、これで丁度良い』
爆音でロックを垂れ流し、めちゃくちゃ五月蠅くしながら核へ到着。そこにいたのは、輪廻転生を得て重なり合った幾つもの人々の最後の姿だろうか、あのヘルズに似た雰囲気の胎児がうずくまっていた。周りにまとわりついてるのは、もしや炎鬼の世界か?
「アレか」
『敵対反応を確認。システム、戦闘モード』
「おいここでエンカウントかよ炎鬼、勘弁してくれ?」
『胎児が覆われた。このままでは世界掌握されてしまう』
「さぁせるかよ! リトラ!!」
『既に特定完了してます! 開通!』
「多重異世界侵入!」
==== 怨念充満蒼炎世界=炎鬼 ====
一言で言うと、そこは地獄絵図だ。老若男女がこぞって焼かれて苦しんでやがる。こんなところにいたら、いくら強い魂を持つヤツでも燃え尽きてしまう。いや、怨念に任せた炎だったらいくら燃えても消えないか? おいおいアイツが壊れたらそれこそあの予知通りになるじゃねぇかよ。
「終わらない苦しみか。あっつい」
『いつまでもいるとEPが持たない。赤子の救助に専念する。システム、スキャンモード』
「急げよジェイク!」
『赤子を見付けた。目標地点を表示する。そちらこそ急げ』
「よっしゃ!!」
加速!!
* * *
目標地点は高速で移動している。十中八九、炎鬼が赤ん坊を連れて逃げ回ってやがるな。だが俺のスピードに勝てると思うなよ!
「ッシャァ!!! 返してもらうぜ!!」
「――ッ!」
「なっ、テメェ逃げんな!?」
赤子に負担を掛けさせるわけにゃいかねぇ、8秒程の高速機動の末に奪い返す事に成功した。うん、まだ無事みたいだな。
『EP減少20%、退避するぞ』
「あばよ!!」
「――ッ!! ――ッ!!!」
言葉は分からないが、そこにある怨みは腹の底に響いて来る。
こんなのに中てられたんじゃ、そりゃ突然変異もするわ。
しかしこの赤ん坊も強いな、魂の強度が尋常じゃねぇ。
ああ、これなら十分覚醒する素質はある。魔としての個体に固定はされてしまうが、心配いらねぇ、その後のケアもしっかり用意してあるしな。
「――ッ!! ――――――ッ!!!!」
「しつけぇ着いて来んな! ジェイク、迎撃頼む!」
『了解した。システム、戦闘モード。邪魔させてもらおう』
ミサイルや煙幕、認識阻害の乱用で撒きながら赤ん坊の世界へ戻って来た。じきに炎鬼もこちらへ来るだろうが、世界掌握の危機は免れた。
「んでリトラ、この後どうやって覚醒させんだ!」
『……』
「考えてねぇのかよぉおおおい!!!!!!」
『い、一旦思考世界へ!』
「……ダメだ妨害されてる!?」
『嘘ぉ!?』
「――ッ!!」
「炎鬼テメェ!!」
『いや、好機だ。暫く回避に専念しろ』
「ジェイク?」
『システム、スキャンモード。意思の疎通が図れないか調べる』
なるほど、相手が霊の類なら意思がある。何しろ一度俺が呑み込んだ呪いだしな、俺に怨みもあるだろう。言葉が通じるならわざとヘイト稼いでその隙に俺が世界掌握するって方法も浮かんで来た。ぬははっ、どんどん追い詰めてくぜ。
『解析完了。氷で閉じ込める、その隙に指輪を当てろ。それで繋がりが得られる』
「オッケー!!」
『3、2、1、今』
「炎鬼ぃぃいいいい!!!!」
《放射》の応用で作られた氷によって炎鬼を閉じ込め、溶けるまでの僅かな隙を突いて猛烈なアッパー!!!
おまけにもいっぱつ後ろ回し蹴りじゃぁ!!!
「止めろ! ソイツは世界を滅ぼし兼ねない危険因子だ!」
「今更そんな戯言が通じると思ったか亡霊如きが! テメェの怨念はバッチリ感じてるぞ!」
「貴様への怨みもあるが、違う! その赤子と同列以下になってはいけないんだ!」
「何が言いたい」
「魔性が強過ぎる、我が呑まれれば幾多もの犠牲が出てしまうんだ」
「だが俺らは確かに炎鬼が暴れてる姿を……」
待てよ。
コイツの言ってる事が本当だったら、あの炎鬼は……。
「我は元々地獄の一部だ。永遠の償い灼熱地獄。死せる罪人しか焼かなかった」
「それがコイツに呑まれて暴走するって言いたいのかテメェ?」
「そうだ。信じ難いだろうが、我は霊や呪いなどと言う前に由緒正しき地獄。そのような者に利用されてはならない」
「だったら大人しく俺に奪われろ。少なくとも、お前さえいなくなれば当面の犠牲は無くなる。俺らがコイツを教育する」
「……例え矜持に背く事になれど、貴様に呑まれる事は赦されない。もう二度と」
「なら消えてもらうしかねぇな」
「良いのか、その赤子は貴様と同じく強大な悪の端くれだぞ。幾多もの悪事を働き、尚も地獄へ堕ちる事無く転生を繰り返す根源の一つだ。貴様の手にすら余るものだ」
「この世に善《正義》も悪もあるか、そんなのはテメェらが勝手に決めたもんでしかねぇ。悪とは善《正義》の反対側だ。善《正義》に反する善《正義》こそ悪。だからここに告げよう。俺は全ての善《正義》に背く絶対悪、己の抱く価値こそ絶対と謳う正解者だ。テメェの御託に付き合ってる暇は無い」
「そうか……なら、共に潰えてもらう他あるまい。我が恩讐を以て!」
「ハッ、見上げた大義名分だな! 怨霊如きが!」
『狩猟者! レミィさんの容態が!』
あぁもうめんどくせぇな、まさかこの赤ん坊が暴走を始めようとしてんのか。
なるほどそう言う事か、運命の悪戯って奴だな。ああ俺の大嫌いな奴だ。
だけどさぁ、この世界が灼熱地獄との繋がりを無くせばそんなの意味無くなるよなぁ? よくよく考えたらそれで済む事だよなぁ? 何? 今までこんだけ苦労しといて? こんなもん?
ナメてんのかテメー運命? ふざけんなよ?
「……んんんんぬうぅぅぅぅぅうううううううう……!!!!! リトラァア!!!!」
はい情報操作で思考通信!
俺の考えた至極単純明快最高な作戦に驚くが良い!
『……ッ!? 正気ですか!?』
「いつもやってる事だろうが! 今更御託を並べるな!! ぃやれぇえ!!!」
『何でそんな怒ってるんですか!? まぁ貴方なら出来そうだし良いですよ、やっちゃって下さい! って言うか本当いつも通りですね!?』
何だか笑顔が止まらなくなってきたぞ?
怒ってるのに楽しくなってきたぞ?
「行こうぜ灼熱地獄、丁度地獄の持ち合わせが無い世界があってな?」
こぉ~んな簡単な方法を思い付く俺の頭がムカつくぜ。
マジ秀才。
もう良いわこうなったらとことん楽しんでやるか。
核の赤ん坊を放り投げれば、ほら、門から隔離世へ転送完了。物理的に干渉不可って奴だ。こんなもんだってぇ~のさ。呆気無いよな。ホントな。笑っちまうよな。
「貴様!? 今投げたか!? 胎児を投げたか!?」
「ッハハハハハハハ!!! 今更逃げても無駄だぁ!! うちのリトラは《空間掌握》だって知ってたか? さぁ行こうじゃねぇか異世界へ!!!」
「や……止めろぉぉおおおぉぉぉおぉぉぉおおおっぉぉおおおぉぉ!!?!!?!?」
『強制転送!!』
俺と炎鬼を取り囲む門が展開された。世界を包み込まんとするほどの巨大な球形門だ。そして俺は、再びあの世界へ繰り出すのだった。
「こ、ここは……!?」
一面の荒野。
曇る空。
遠くに見える超巨大なクレーター。
そう、記憶に新しいあの異世界。
「ようこそ灼熱地獄! ここは戦いの絶えない全域戦線特務世界、バトリスだ!!」
ここなら遠慮はいらねぇよな?
俺の怒りは今有頂天だぜ?
爆発させたって文句はねぇよな!?
いっそバトリスごと無くなっても良いよなぁ!!?
「もう考えるのも止めた! 纏めてブチ壊せば良いだけだぁ!!!!!!」
『――絶望タイムだ』
ヒィイイイイイイヤッハァァアアアアアア!!!!!




