第29話 O市消滅阻止発令
とんでもない未来予知しやがったよ優の奴。
O市が消えてるだと?
そんな事があってたまるか、俺が暴走でもしたのかそれ。
「はい!?」
「どういう事だ? ただ事じゃないだろうに、何故今になって」
「大爆発みたいな痕になってて……あと、神鵺君とリトラさん、女の子が泣いてて、信さんも……あ、女の子は環奈ちゃんだね多分。ショートヘアで小柄」
そりゃ流石に生命の神秘が近いって時にO市消滅なんてされたら泣くだろ。
こんなタイミングで危機が迫るとは、他の狩猟者が襲撃でもして来たか。いや、それならもっと早くに予知が来るはずだし何より何故目的である俺を殺していない。仮に襲撃があって返り討ちにあったとしても優はその姿を見ていない。って事は狩猟者襲撃では無い。何かイレギュラーが?
初の試みだが、優にはちと踏ん張ってもらおう。
「第二指定封印解除、原因を探れ」
「りょ、了解! 原因究明! ……今日の午後2時43分、今から4時間後にて、角の生えた異形を確認。鬼……いや、形が定まっていない? 人型を保とうとする不定形の角付き、全体的に青くてそれからえぇっと……」
こういう時に口で説明するのが難しい事は良く分かってるので、二本指で額を突いて思考共有。青い不定形の存在、と言うかこれは青い炎だな。俺と信が交戦してる姿も見えるが、攻撃はほぼ全て無効、超音速での連撃も効き目無しなので否応無しに多重核融合爆破でO市ごと一撃の内に吹き飛ばしたって所か。何て言うか、戦闘中の俺すっげぇ泣きながら怒ってたな。メイド連中でも死んだか。
「……なるほど、大体分かった。脳を休めろ」
「うぅ……」
「十分役に立ってる。泣くな」
情報操作を利用し、リトラ、ケイン、信にも通信を繋げ、全員召集を掛ける。邸の一室に集まった所で、あの角付き炎の映像を見せた。
「今日の未来、午後2時43分にO市消滅を確認した。原因は、俺と信による角付きの青い炎との交戦。戦闘の余波で街も丘も森もボロボロになり、最終的には俺が纏めて吹き飛ばしていた。と言うことで、これより対象を炎鬼と仮名し、交戦する前に特定及び排除する。これは防衛指令に分類し、|O市消滅阻止《ブレイクオーダー:ロスト・オー》と命名する。他勢力の補助は無し、俺らだけで片づけるぞ。意見のあるものは? 結構。ではこれより、特定フェイズへ移行する。各自得意な分野から、心当たりのある情報を探し出せ」
「「「「「「了解!」」」」」」
「ちなみにだが優。今回の指令において、能力の使用は以降禁ずる。連続で発動したせいか負担が大きい」
「あぁ……そうだね。ちょっと頭痛いし、控えとくね」
それぞれが所有している書物やなんかを調べ上げ、もしくは記憶を掘り起こして、情報操作を駆使して炎鬼についての情報を探し回る。何だかちょっとワクワクしてきた。言ってはないが、ボーナスは出すつもりだ。だが、それを言わなくとも真剣になって働いてるって事は、皆このO市が好きなんだな。その郊外にある邸含めて。信は多分ボーナスが出ると分かってて真面目になってるんだろうが、まぁちっとは好いてると思おう。
「頭脳労働は出来ないが、雑用なら好きに使ってくれて構わない。この市が消えてしまうのは惜しいしな」
「サンキューミキ姉」
「す、凄い……指揮が取れてる……」
俺には下地の頭脳があるからな。
後ろでアレコレ考える方が向いてるんだ、前で暴れる方が好きだが。
好きと得意は違うってな。
「レミィは大人しくしてろよ。ストレスだろうが、大事な時期だからな」
「……頭脳労働くらいは」
「まぁ、それくらいは頼むわ」
「……ありがとうございます」
「素直でよろしい」
まったく、こんな時になって一大事件が起きそうになるとはな。狩猟者が自分のナワバリを護る為に動くなんてちょっとこそばゆいが、俺だって今の生活は気に入っている。一人も欠かせはせん。リトラ、お前もこの暖かさと熱い想いを感じているか?
「……ん?」
「どうした?」
「何か、心当たりが?」
そうだ、大事な事を忘れてた。未来視に映っていた俺の様子だ。
何であんな泣きながら怒ってたんだ? 俺がボロクソ泣きながら激怒する程の事が起こったって事だよな。単にO市をめちゃくちゃにされるってだけじゃそんなには怒らないし、そも、炎鬼が出現してしまった場合はリトラの門で全員避難させるはずだぞ? 誰も死ぬなんて事は無いはずなのに、俺は何に怒ってた?
「……ジェイク」
『何だ』
「邸内にいる個体の状態を全てスキャンしろ。”一人残さず”だ」
『了解した。携帯モード継続。システム、スキャンモード』
「もしかすれば、これで分かるかも知れん」
「私達の中に炎鬼がいるって言うのか?」
「かもな」
『スキャン完了。レミィ=スレイヴの体内に異常を感知した』
「……私!?」
「ちょい失礼」
レミィの腹に手を当てて、放射の応用で超音波を発信。情報操作で反射を読み取って、中を見てみた。何だこれは、骨格に角が追加されているだと。そう言えば、あの世界で会った中に角付きがいたな。アレってやっぱ突然変異だったのか。そんで、念の為魂の所在を見てみると……2つあった……。
「……チッ、そう言う事か……レミィ、お前の腹ん中にいる子だ」
「そんな……!?」
「足立ぃ!」
レミィの腹ん中にいる子なら、心当たりはある。
呪いだ。ケインが襲撃して来た時だ。
俺の解放した呪いの中に炎鬼がいて、それが解放時にレミィの子に宿ったとしたら辻褄が合う。何だかんだで良い感じの結果に恵まれる俺は、上手く行かなかった時にめっちゃ怒る。完璧主義とでも言うんだろうか。そして、待ちに待ってたレミィの子が、もうじき生まれようってところで炎鬼に乗り移られでもすれば。ああ、想像したくもない。考えるだけで吐き気がするし、自分が許せなくなる。死んだヤツの怨念が生き物様に横暴を働く事は別に咎めないが、俺の家族にもなり得よう者の命を、それも赤子を奪うなんて事されたら怒り狂ってしまう。合点がいった、そりゃO市なんてどうでも良くなってしまうな。そんで終わった後落ち込むよな。色々複雑な感情で埋もれて死にたくなっちまうよなそんなの。
とりあえず、足立姉妹でも解く力に特化した妹、彩月に呪いの解除を試みてもらったが。
「ひっ、ぁ……ぁああああああああぁぁあ!!?」
彩月が燃えた。
「彩月ぃー!!?」
「ぁ……がっ……」
「彩月がまた死んだぁぁああああ!!!」
「いや、生きてるぞ。その炎鬼火みたいだし」
「彩月さん……」
ダメだ。彩月の力が優秀でも本人の精神力が持たないんじゃ解く暇が無い。俺の魂奪取は赤ん坊の魂の方を奪ってしまう危険があるから無理だし。どうする。マジでどうする。今ので炎鬼覚醒が早まった可能性もあると言うに……何か、何か手は……ひとまず全員連れて思考世界へログインだ、俺達には考える時間が必要だ、ここに入れば幾らでも考える事が出来る。
「どうする、炎鬼を排除するとなったらもう覚醒する前に俺が奪う他には無いぞ」
「ああなったら彩月は暫く起きないし、他何か良い手は無いの!?」
「と言われましてもぉ~……」
「手の施しようが無いな……」
「儂にも、どうする事は出来ん……元々儂の持ってきた呪いは、単に時間指定の変化の呪いじゃしな」
「何とかレミィさんの子の命を奪う事無く、炎鬼を取り除く方法……」
困った。
どうしようもないのか。
「……私が……」
「レミィ」
「私が、この子を……」
「レミィ止めろ」
「この子を諦めれば……!」
「……冗談でもそのセリフは止せ」
「だって仕方ないじゃないですか! この子を守る為に行き詰って、その結果炎鬼が覚醒してマスターが暴走したら、皆……!」
「そうならないように考えてるんだ」
「でもどうしようもないじゃないですか!」
「レミィさん、落ち付いて。私達は、その子を護りたいの」
「そうだよ、その為に頑張ってるんだから」
「儂のせいでもあるしな」
「元を正せば狩猟者が連れて来たせいもありますし」
「まぁ、落ち込まれても困るし?」
ほら見ろ。コイツらは、お前の事を少なからず気に入っているんだ。俺もだ。だからそんな事を言うな。
「……皆、君の事を思っているんだな。羨ましいよ」
ミキがこう言うぐらいだ。
な?
「……」
「……レミィ、言ったよな。俺は至って普通の社会人だ。その前に動物で、生き物だ。”家族”の事くらい守らせろ」
「……マスター……」
「うわぁ~ご主人今凄くらしくない事言ってる~、隕石どころか世界が爆発するぅ~」
日和は後でこちょばしの刑だ。
と、秘匿思念で思っていたら……リトラまで秘匿思念していやがった。
何か策でもあるのか。
「……無くは無いんですけど、確立が極めて低い上に失敗すれば狩猟者の命は無いので言ってない方法が一つあります」
「何だあんのかよ」
「ええ、実はあるんです」
「「「この苦労は一体……」」」
「ぇへへ……まぁ、簡単です。いつもの異世界訪問ですね」
「何?」
「支配者が世界を内包する存在と言う事はご存じですよね? アレはちょっと語弊があって、個体には一つ一つの世界が存在しているんですよ。まぁ定義の問題ですね、精神世界とでも言いましょうか」
「つまり、炎鬼の世界に行けと?」
「いえ、赤子の方にです」
「んだそれ?」
詳しい話を聞いてみると、赤ん坊の世界へ入って魔王の血を覚醒させる事で何とかなるかも知れないとの事。魂ってのは言っちゃえば輪廻転生とかで誰かが生まれ変わる証みたいなものだから、強い魂ならそれで十分炎鬼を抑え込む事が出来るのではないかと言う奴だ。言ってしまえば、世界融合を赤ん坊と炎鬼にさせて調和させる方法だな。しかし赤ん坊の魂が弱ければ話にならないし、そも精神が確立していない奴の世界なんて真っ暗闇かぐちゃぐちゃな渾沌でしか無い。前世が酷けりゃ入ったヤツが惨い最期を遂げる可能性すらあると。なるほど、危険な賭けだな。
「……赤ん坊の魂を奪取する可能性よりはソッチの方が確立高いのか」
「少なくとも、赤子の魂が無くなるなんて事はありません」
「良しやろう」
「マスター!?」
「この人は理不尽な狩猟者ですよ? しかもその石は黒金剛石、問題ですら”無”に還す強大な存在です」
「そう言うこった。心配なら、やり過ぎて赤ん坊が変な方向に覚醒しない事でも祈っておくんだな」
「何でそんな自信満々なんですか……」
「思えば俺、まず消えたりする事は無いからな。そう俺は答えを見詰める者。常に正解へ突き進む勝者だ。今その事を思い出した。思考世界解除」
何せ、俺は実質3人分の意思を持っているからな。
この俺、神条 神鵺。
そして”俺”、ジェイク。
そんでもって、リトラだ。
そんな俺が、赤ん坊の世界に負ける? とんだ与太話だ。そんな事があるなら、とっくの昔に、それこそ小学生の時に自分で自分を切り刻んで自殺していただろうさ。嗚呼そうだ。俺は黒金剛石の狩猟者、神条 神鵺だ。作るも壊すも俺次第、理不尽や不条理の立場になる事が大大大好きな悪の体現者だ。物語を壊す事が好きで好きでたまらない横暴者だ。呪いに泣かされるなんて事は俺の物語に必要無い。王道は須く破壊だ! この俺が主導権を握っているんだ!!
こんなくっさい展開なんざいらねぇんだよボケカスがぁ!!!!!!
『装着。システム、通常モード起動』
「異世界訪問!!!」
待ってろ異世界!!
略奪してやるぜぇ!!!




