第28話 10月10日前の危機
10月10日、女にとっては特別な事を表す隠語がこの言葉。元は陰暦で数えられていたが、今の時代になって暦の数え方が変わり、正確な表し方では無くなっている。ぶっちゃけて言うと、女性が子を授かった時から出産するまでの日数だ。
言ってなかったが、初めの異世界訪問が終わった後はちょくちょく産婦人科へ通い詰めていたんだ。そう、レミィの子だ。流産なんてさせようものなら自殺でもしかねないからな、コイツは。しっかり元気な子を生んで、立派な下僕に育ててくれなければならない。
と言う事で、変なダイエットやらもさせずに健康体でいるよう気を配り、1日の大半を寝てるか座ってるかの絶対安静な状態にさせておく。夜にはなるべく皆でいるようにし、俺もチャッカリ買ってたノーパソを持って邸の一室でゲーム作りなんかしている。今の時代フリーのゲーム制作ソフトがあるからマジ便利だわぁ~。同人で企業レベルのゲーム作るのとか面白そうだな。まぁ、今作ってるのは軽量なノベルゲー程度だが。作るのって壊すのと同じぐらい楽しいよな。信も一緒に作れば良いのに、仕事が終わるなり自室籠ってネトゲとソシャゲの同時タスク。スペックは高いのに使い方が残念で羨ましいぜまったく。ケイトは24時間仕事仕事仕事たまに修行と紅茶タイムそして仕事、ワーカーホリックまっしぐらだろ。足立姉妹を見習えよ仕事時間外は対戦ゲームでハッスルしておるぞ。
ちなみにレミィの子はと言うと、初見時に腹が膨れていたのもあって出産は割と近かった。そう、遂に陣痛の起こる圏内へ入ったんだ。俺かて生命の神秘に興味はある。利益を度外視しても、生き物として全身全霊の姿勢で支えてやるのが雄の役目と言うモノよ。
「しっかりしていますよ……ときどきマスターの悪性を忘れるから困ります。責任取って欲しいですよ」
「悪いがこの世界のこの国では16以上の女と18以上の男でしか結婚不可だ。お前生後14年だろ」
「うぐっ」
「ご主人が結婚とか言い出した! 隕石降るかも!」
「この世の滅亡」
「貴様ら?」
マジで滅ぼしてやろうかコラ。
やろうとしたら天界とか言う勢力に止められるって話だが。
この世界も謎だよな、悪魔とか天使とか、吸血鬼とか、幽霊とか。一般にはいないと扱われている幻想なのに、割と身近な所に仰山いやがる。誰も気付かないんだな。最近は行方不明者が多数ってニュースも出てるが、十中八九悪魔共の犠牲者だろう。狩猟者になって異世界で死ぬ、もしくは一般社会から姿を消す事で、流石の世間も異常に気付いたって所か。だが、それでも表の世界には悪魔や狩猟者などと言った名称が挙げられる事は無い。そのくせ皆調子良く悪魔の甘言に乗ってるんだぜ。俺みたいに一般社会での生活を維持しながら正体を隠しているタイプもいるが、環奈はどうなんだろうか? アイツん家、環奈とクロウしか住んでないんだよな。
まぁ考えてもしゃーないか。
だって狩猟者のほとんどは間接的と言え俺が殺したんだし。
それらの苦痛を他の悪魔達も感じたとなりゃぁ、そろそろ報復が待ってるやも知れん。まぁその時こそがめちゃくちゃ美味しいんだが。
「お、落ち着いて……ほら、この邸には私達がいるんだし、大丈夫だよ」
「天使もいるしな」
「アレは堕天使だけども……」
とまぁ、ウキウキワクワクしながらもそわそわしている我が邸の者共。
我が悪魔リトラも休暇を意識してるのか、魂奪取の仕事は寄越して来ない。と言うか、頻繁に何処へ出向いては何かをしている。何故かしら嫌な予感はしないので放置しているが、気になるので聞いてみたら「秘密です」と悪戯気な笑顔で返される。まぁ、悪い勘が働きはしないので悪い事では無いんだろうな。
そんなこんなで、割と平穏に過ごしていたこの頃。
俺は学校でも秀才ルートを歩み、チャッカリ幾つも資格なんか取っちゃって社会人としての立場も固まってきた。文武両道、良い響きだな。狩猟者になる事で枷が外れた事が幸いした。そう良くも悪くも、俺は怠けるって事をしなくなった。楽な道を歩む為に苦労し、シッカリとその道を確保する。それは俺が最も良しとする人間としての思考回路であり、このサイクルこそ人間を進化に導いたと確信している。人間を止めた俺が言うのもおかしなものだが、俺は元々人間と言う分類の生き物に尊敬の念を抱いている事は明白だ。個体数を増やし、環境に適応する事に掛けては最良の生物。果てには環境を自らに適応させる事まで出来た生物だからな。おっとまたつい人間賛美を謳ってしまった。
メイド達はみるみる内に家事スキルを上げていくし、この生活も随分楽になってきたな。レミィがいよいよ出産を迎えようと言う所でそわそわしてきたが、まぁ何か起こる事の無い様に動くのが最善だ。そう俺は答えを見詰める者。己に身を任せ、正解へ突き進む回答者。
「ところでレミィさん、お子さんの名前はもう決めてるの?」
「あぁ、そういや聞いてなかったな。決めてるのかレミィ?」
「……え?」
「ん?」
「あれ?」
「いや、『あれ?』じゃねぇよ。決めてないのか」
「……あ……いえ、てっきりマスターが名前を付けるのかと……」
「そこまで酷じゃありませんよ俺? ナメんなよテメー?」
「だ、だってマスターの下僕たる私が産む子となれば、必然的にマスターの下僕を引き継ぐ事になるのではないですか! ですから、名はマスターが付けるものとばかり……」
「……その心意気は買うがね、俺は別に非人道的な事全てに歓喜と快楽を覚える悪童じゃない。まして自分から嫌われるような事をわざとしない。至って普通の社会人だ」
「死体性異常性癖でか?」
「ゾンビッチはだぁーってろ」
言うのを忘れてた、ミキは月3万の家賃を払うって事でうちに住まわせている。
チャッカリ”掃除屋”なんかの仕事まで見付けちまって、シッカリしていらっしゃる。強い魂を持つヤツはどんな世界でもある程度活躍出来るんだな。そもそも、世界間を渡れる事自体が強い事の証明になってるらしい。優みたいな例外もいるにはいるが。
優と言えば、奴の《超越脳力》は普通の人間にとっちゃ許容限界を超える奴であからさまに寿命縮めてるから、意識的に使う事は禁じている。たまに受動的な未来予知が来るが、その時は負担が少ないから容認している。これを第一指定封印解除と呼んでいる。何か緊急性の事件を予知した場合は、必要に応じて段階的に能力の使用規模拡大を解禁する事にしている。
「楽しみだね、レミィさんの……子……ッ!?」
「……マスター……嫌な予感がするのですが……」
噂をすれば何とやら、だ。
「来たか」
「エクスオーバーとやらか?」
「今日の……午後11時22分……嘘……O市が!?」
「ん?」
「消えてる!?」




