第27話 リトラ=デビリッシュ
まぁ何て言うか、今回起こったことの顛末は大体予想通りだった。
悪魔の目的は、俺が"後悔して止まない程のどん底”を味わう事だった。それも、”無意識”に。進化と言うどん底とは正反対の目的が、その無意識に眠る願いを隠していた事に気付かなかったんだな。
そうだ、それはまさしく”俺自身が密かに願っている事”だ。
一種の破滅願望とでも言うのか。
俺は今までの人生を、自分が良ければ良いと言う自己中心的な考えで動いていた。思考もまさにそれだし、本質的にそうであるべきと思ってからは余程顕著になっていた。その反面、世に言われる鬱や精神病などと言う苦しみを持つ存在の事を知ってからは、何だかんだで上手い事良い感じの結果に恵まれる自分に厭気を覚えるようになっていたのだ。
何故、奴らはあそこまで落ち込んでいられるのか。
何故、わざわざ無利益にもあんな無意味な事をしたり考えたりするのか。
その事が気掛かりで、気持ち悪くて、もしや俺は、そう言う精神的な構造が根本的に違うのかと危惧を抱いてしまった。
境遇が全く違うのではないのかと。彼らは皆、どん底を味わっていたのではないかと。俺が見て来た絶望は、ソイツらから見れば幸福ではないかと憤慨されるような小さい事象だったのではないかと。生物としてあるべき思考が壊れてしまうほどの狂気が存在し、実はまだそれに出会っていないのではないかと。
勿論そんな事考えたって分からない。俺が殺人事件の現場を見た時と、そこらにいるサラリーマンが殺人事件の現場を見た時とでは反応が違うだろうし。綺麗な女性の首が撥ねる瞬間を見た時の反応にも違いはある。そう言う意味で、真に絶望を味わった事は未だ無いと思ってしまっているだけって事もある。
俺は生き物で、動物だった。生きる事を第一に考え、自分に不利益の被る事は考えるなと自分に言い聞かせながら生きてきた。そうする事で、人間と言う枠に囚われる事無く自分に正直でいられるのだと信じてきた。バトリスで思った事がそうだ。しかし、やはり人間と言うのは何処かで不合理な感情を抱くものだ。それが俺の”破滅願望”だ。上手く行き過ぎてるから、そうでない奴らに妬まれてる。それが嫌で、奴らの下へ堕ちたいと願ってしまう。弱者の立場に甘えたくなってしまう。いっそ死んで消えたい。そう言う想いだ。
そして、俺が胸の内に封じてる破滅願望に中てられて、悪魔の思考に陰りが生じた。俺が抱く負の願いを実現させようと、自分でも気付かずにそう思考していた。
そしたらどうだ。
まんまと自分に騙され、クロウと環奈を利用し、俺を後悔させようと動き始めた。俺が環奈を殺せば後悔する、しかしその思惑が外れた為、世界を怒らせて襲わせ、鎮圧の為に利用した地獄に裏切られると言う屈辱を与え、それでも尚諦めずに立ち向かった事で万策尽きた。そして俺達と通信してる時に口走った事と、俺が二人に謝ってお礼を言った事でようやっと自分がしている事に気付き、罪悪感で自分を傷付けた。
俺が感じた胸の痛みは、悪魔が感じた痛みの何万分の一だろう。もしくは倍か。俺の望んでいた理解とは、この様にして実現されるものだったのか。共感性に富んだ日本人の特性を更に洗練化したようなこれが、俺の望んでいた、他者を理解する方法なのか。違うだろ。こんな無理矢理な方法があるかよ。俺と"俺"の間でさえ言葉や思考を介する必要があると言うのに、そんな理不尽が通用してたまるか。
……いや、事実なんだろう。
この現象を最も嫌っているのは、これを通じて何人もの死をその身に受けた、他ならぬ悪魔なんだからな。
「魂は集めなきゃならないから……強いエゴを持つ人を探し回って、何度も死ぬ痛みを味わって……やっと貴方を見付けたのに……黒金剛石ほどの強大な狩猟者なら、もう死ぬことは無いと思ってたのに……今度は、殺そうと……」
「はいはい。それで泣くのは俺が死んだときにしなさい」
「何で、そんな平気でいられるんですか……人間まで止めたのに……」
「お前いちいち悪魔らしくねえよな。逆に騙されてんのかと思うから止めてくれる? 悪いと思ってんなら『ごめんなさい悪かったですもうしません』で後は言葉通りにすれば片付く事だろ。あーあと、俺は人間であるとかないとか言った倫理否定してるんで、余計なお世話です。イスラム教徒でもキリスト教徒でも無いし、人間はタダの動物だと捉えてる。その枠から外れただけに過ぎん」
「……頭おかしい……頭おかしいですよ狩猟者、貴方どうかしてますよ」
「結構。あとは泣きたいだけ泣け」
「……こんなんじゃ泣く気すら失せますよ……」
「んじゃ気の済むまで好きなようにしてろ。特に邪魔はしないし抵抗もせん」
「……むぅ……」
俺は別に、泣いたりする事を咎めるような事は無い。
必要な事だからだ。
そう、泣くと言う行為は必要な生理機能なのだよ。副交感神経の分泌を促し、リラックスさせる働きがある。物語とかで良く『もう涙も枯れた』と言うだろう? アレはただの錯覚だ、自分に酔う為の見苦しい言い訳に過ぎん。 リラックスするためのものを、そうでないと断じて禁じる阿呆が何処にいる。いや、いるんだから現にこの言葉が広く知れ渡っているんだろう。そう言って溜め込む演技派共は特に嫌いだ。さっさと自己崩壊して破綻なり自殺なりでもしてくれってモンだ。泣ける時に思い切り泣けるヤツの方がよほど好感が持てる。ああでも、確か極度の緊張状態で『マジでヤバい』って時には涙すら出ずに手汗が滲むとか言ってたな。その状態を『涙が枯れた』と勘違いする事はあるかも知れん。まぁドッチにしろ、そんな事でいちいち周りに不幸アピールする行為には目も向けられないな。自己処理サイクルぐらいは構築しろと言いたい。これは本音だ。俺は今ウンザリしているんだ。そもそも涙が枯れたって何だ、お前血が枯れたって事か? ならミイラだよな? 詩的な表現は好きだがそんなナメ腐った事言ってっと脳髄引きずり出して今までの人生何を見て来たのか調べたくなるから止めてくれや。クソが。捉え方の問題でこうしていちいち思考世界へやって来て言い訳をグチグチ垂らす自分にも少しばかり厭気を覚えるが、人間だからな仕方が無い。あームカつく。どっか世界滅ぼしたい。異世界転生した主人公っぽい男を惨殺でもしてやりたい。あーでもどうせ殺すなら可愛い女が良いな。けどR-18G画像で我慢しよう。よし、和んだ所で思考世界解除っと。
「……撫でて」
「は?」
「頭撫でて下さい」
思考世界から帰った矢先に何を言い出すんだコイツは、何故そうなった。
流石にこれには思考停止せざるを得ないのだが。
「その、考えたら……生きててくれてる事、嬉しいので……」
「……あぁ、うん……あ、はい、あざます」
まぁとりあえず撫でるか。
あっ、結構、撫で心地良い……。
髪サラッサラ流石悪魔、こうして見ると見てくれは良いんだよなぁ。
アンニュイになってる所も何処かエロティシズムを感じる。小悪魔め。
……小悪魔?
……そうだな、小悪魔だな。
悪魔と言うより小悪魔だなコイツは。
「……まぁ、何だ」
「……ん?」
「何だかんだで良い関係だし、今後ともよろしく頼むぜ。リトラ」
「……リトラ……?」
「お前の名だ」
「……!?」
おぉ。情報を見てみたが、個体としての存在強度が増している。名前を付けた事で存在の確立が一つ進んだのか。これがネームド。
ちなみに能力は使ってない、純粋な名付けだ。
「小悪魔って事で、リトル、んで女だからルをラに変えてリトラ。リトラ=デビリッシュ、どうだ?」
「ぁ、ぁ……名前……私が!? 名持ち!?」
「気に入らないなら自分で考えさせるが」
「いえ……いえ、いえそんな! 何で!? 何でこのタイミング!?」
「いや、単に今丁度良い名前が浮かんだだけだし」
「デリカシー!! デリカシーに気を使って下さい!!」
「言っても詮無い事だろあと今夜中だ五月蠅い」
「……~~……ッ! あぁ……もう滅茶苦茶……」
ハハッ、疲れたのか膝に倒れこんで来た。
そうだ、下らん事は考えるもんじゃねぇぜ。
悪魔に言って大丈夫かどうか知らんが、相手はリトラだ、構いやしねぇ。
「……ありがとうございます、狩猟者」
「どいたま」
「私、貴方に会えて良かったかも」
「かもって何だ、かもって。良かっただろ。俺がそう思ってんだから」
バトリスやらの異世界はとんだとばっちりだがな。
いやぁ~ホントすいませんねHAHAHA。
『……青春か、それもまた良し』
「”俺”、デリカシー」
『”私”が私にデリカシーを問うとは』
「あの、一人漫才止めてもらえます?」
「あい」
『では、ゆるりと楽しむが良い』
流石に二日連続はキツいしその気は無いですオッサン。
まぁ、添い寝ぐらいはしてやるかね。
「……温かい……」
「だろ?」
人の暖かさは本当に良いモンだぜ。
―――――――データ―――――――
氏名:神条 神鵺/ジェイク 性別:男 年齢:18歳
種族:含機械生命体/黒の御使い
職業:専門学生
クラス:狩猟者/銃闘士
契約者:リトラ=デビリッシュ
クリスタル:黒金剛石
レベル:42
【ステータス】
筋力:A+2 敏捷:S+ 生命力:A+2
感覚:C+2 器用:C+3 知力:A+3
精神:C+2 幸運:B 容姿:B+
EP:180000
【能力】
《思考世界:EX》
《放射:A+2》
《情報操作:A+》
【武装】
◇ウルネラ&アルバロ[装弾数12発 or ∞]
◇粒子精製格納器官
┗◇障壁展開器官[BP2800]
┗◆粒子爆発[衝撃と致死毒]
◇統括式装甲核《アーマード:フレーム[セラフ]》
┣◇隔離世内収納型動力生産機関
┣◇戦闘特化型支援AI[ジェイク]
┣◇腰:ミサイルポット[ミサイル:装弾数32発]
┣◇背:自立飛行ピット[9x19mmパラベラム:装弾数200発]*20
┗◇予備:バトルライフル[装弾数120発]*2
≫バレットソウル≫統合≫統括式装甲核《アーマード:フレーム[セラフ]》
◆:Sランク未満の対象への使用を禁ずる。
遂に悪魔が名付きへ……!
まさかの人間を止めた神鵺の猛進は、まだまだ止まらない!?
=== 次回予告 ===
皆さん皆さん! リトラです! リトラ=デビリッシュですよ!
遂に名前貰っちゃいましたよ私!
狩猟者を殺し掛けて、どうしようかと思いましたが。
流石は黒金剛石、そんな想いも一蹴してしまいました。
って、優さん!? "O市の消滅"って嘘ですよね!?
しかも原因が、あの子ですって!?
狩猟者! この脅威も得意の異世界訪問で取っ払って――
――な、何をするんですか狩猟者?
狩猟者、その呪文は一体何!?
次回ソウルダッシュ! 〔ホ 仏作って魂入れず〕!
『神鵺さん!! 止めてぇええええ!!!!』




