第26話 全てを焼き尽くす
紫電を迸らせ、宙へ浮かぶ姿は禍々しさに溢れていた。
嗚呼、俺は遂に正真正銘のバケモノになったんだ。
「……神鵺……お前、何だ、その姿……」
「……黒い……天使……?」
幾つものケーブルから、力が流れ入って来るのを感じる。
肩の近くに浮かぶようにして備わった機関を通じて、あらゆる衝撃を緩和する障壁が張られている事も分かる。
視界の所々には、AIの自動演算によって出力される俯瞰図と現在の身体状況、各種パーツの状態が一目で分かるインターフェースが浮かんでいる。15%周期に跳ね上がっていた脳の働きを機械が請け負う事で、元の10%に戻るどころか、更に高性能な演算が可能になっていた。
俺は、機械と融合した。それもただの融合じゃない、《世界統合》だ。世界征服とは違う、別の形での世界掌握方法。俺は、俺自身とも呼べる一つの世界と、カラスと言う世界を一つにする事で、それぞれにとって先の個体へ進化した。含機械生命体って所か。俺自身がアーマードになるとは、流石、我ながら発想がブッ飛んでるぜ。
純粋な生物と言う絶対的な護りを脱いだ"俺"は、枷を一つ外す事に成功した。
「カラス、調子はどうだ?」
『良好だ。同一存在とは言え、差別化は図ろう。”私”よ、私の事はジェイクと呼ぶが良い』
渋いおっさんの声だった。
歴戦の兵士とでも言うべき雰囲気に、深い安心感を感じる。
それを通り越して、一種のエロスすら感じちまうぜ。
「よしジェイク、とっておきの餌が転がってるぜ」
『実に400年ぶりの獲物か……メインシステム、戦闘モード起動。加速フェイズへ移行する』
「マッハ2は目指そう」
『舌を噛むなどと間抜けな事はするなよ』
「フンッ、んなカッコ悪い事するかよ」
「んじゃちょっくら世界ブッ壊してくわ!!」
超加速飛行!!
音速を超えて、衝撃波でヤツの身体を構成するガラクタを吹き飛ばしながら這う様に上昇していく。螺旋を描きながら、雲を突き抜けた。顔の無い人形、歪な機械がこちらを睨んできた。おいおい蠅みたいに払おうとすんじゃねぇぞ。
更に上空へ行き、奴の頭上、真上へ到着。
「侵入するぞ!」
『外殻を攻撃する。0で侵入だ』
奴の中から出て来た謎生物には手を出さない。
腰のポッドハッチが開き、ミサイルが放たれた。
『3、2、1』
「加速!」
『0』
異世界訪問!!
* * *
「っぬぁああ寒い!! あっつい!! 寒い!! あっつい!!」
中に入った途端灼熱地獄と八寒地獄のクロスバースト。ふざけんじゃねぇ普通に死ぬるわボケ。
『EP減少2%、そのまま突き進め。残り5秒だ』
「うぉっしゃ抜けろゴラァァァアアアアアアアアアア!!!!」
両極端な温度差の世界を何度か潜り抜け、ヘルズガルドの中層部辺りへ辿り着いた。
速度を亜音速に落とし、大量の化物を殲滅兵器で撃ち殺しながら核を探して突き進む。勿論ウルネラにアルバロも大活躍だ。ジェイクが偏差射撃の補正をしてくれるお陰で、命中精度が体感的に5倍上がってやがる。俺のやってる事と言えば、まさにゲームでカーソルを敵に合わせてボタンを押すようなモンだ。まさに縦横無尽で獅子奮迅、一騎当千どころか一騎当万すら超えてるな。
『EP残り97%。各部残弾無し。最早頼れるのはその月と太陽のみだ、調整に回る。求めて止まないのだろう、好きに暴れるが良い』
「オッケィ! 俺暴走しちゃぁあう!!」
『戦いに身を任せろ』
「極限なんてつまらねぇ! 果ての無い戦いだぁ!!!」
笑い声を挙げながら、世界を蹂躙していく。右へ、左へ、前へ後ろへ、上にも下にも悪意を向けた。核なんて何処ぞで見つかるんだ、それより今は、世界を壊して回る事を楽しみたいんだ。嗚呼、気持ち良い。この世界の中には、かつてヘルズの住人だった人間のような輩もいる。ソイツらが、武器を持って勇敢にも攻め掛かって来るんだ。そして俺は、その攻撃を受けんとする済んでの所でふと身を躱し、首筋に噛み付くのだ。牙なんて無い、申し訳程度に生えている犬歯を喰い込ませ、顎の力で潰し、噛み千切る。返り血が美味い。狂おしい程の美酒だ。それを黒い月に吸わせ、血弾として背後へ撃ち出す。恐怖と悪意に塗れた弾丸が、世界に呪いを、禍を齎す。
一切の抵抗を赦さず、”俺”の手で悉くを討ち滅ぼしていく。
”俺”は、全てを焼き尽くすんだ。
ジェイクの偏差射撃予測は最早視界全体を掌握し、視界にさえ入れればカーソル合わせをせずとも勝手に狙いが敵へと定まる。お陰で俺自身の速度も飛躍的に上昇し、常マッハ1.5前後で超高速機動になっている。しかしそれではジェイクばかり活躍しているようで気に入らない、途中からブレードで斬ったブッたの戦闘に切り替えた。
そうこうしていると、何やら空 (のような部分)が揺らぎ始めた。渦巻いてる?
「あんだ? まだ何か隠し玉でも持ってんのかコイツ」
『システム、スキャンモード。……世界が崩壊しているように見えるが、一点へ集中している。恐らくは核だ』
「つまり」
『いよいよ』
「支配者のご登場!」
世界が霧散し、バトリスへ戻った。
後ろから環奈達が無事かと叫んでくるから、とりあえず大丈夫だと伝えておいた。
『不明な対象を確認……予想以上だ、格が違う。狡猾さは"私"に勝るとも劣るまい』
「名誉な評価をありがとう。ってこたぁ、奴がヘルズガルド」
遂に姿を現した、俺以上かも知れない程の狡賢さを持つ地獄の魂。
その容貌は、ツルッツルで何の個性も無い人形だ。
元は砂なんだろうが、それらが変質したモノで構成された身体は異様としか言いようが無い。あ、ダジャレじゃないよ?
『フィールド情報を更新。戦闘開始まで、推定残り20秒』
「――お前を、略奪する」
「そのセリフ、そっくりそのまま返してやろう。おっとそうだ」
『どうした』
これは大事だろ。
「俺の後ろにいる女二人、ありゃ俺のダチだ。テメーの砂粒一つでも触れてみろ、根源からいたと言う事実を消し去ってやるからな」
「何一人でカッコ付けてんだオメーは殺すぞゴラァ!!!」
環奈すまん。言っときたかったんで言っといた。
「……なら……俺が、お前になる。お前を奪えば、それが俺だ……!!」
「俺が俺だ、”俺”以外に俺が務まるかよ」
「神条 神鵺、俺がお前を奪う!」
「俺がテメーを奪うんだってぇの!」
『システム、戦闘モード』
「加速!!」
「加速!!」
何!? コイツ、俺と同じスピードで……!?
高機動での攻防拮抗だと!?
「お前の動きは覚えた。高速で動いて、とにかく被弾を避けながら攻撃を当てる。極単純な戦闘方法だ」
「チッ、だが真似するだけじゃ追い付けねぇぜ!」」
コッチは超音速を超えてマッハ2に到達してんだ、そう簡単に追い付かれてたまるかよ!
「いいや、追い付く。そして追い抜いてみせる!」
「チッ、どんどん俺に近づいてってるのか? おいジェイク、ちゃんと補正してくれよ」
『エネミーの一撃一撃が強大過ぎる、当たれば機体の大損傷は免れない。速度を落とす事など出来ない』
「……良いゼ、そんなら……!!」
「……そろそろ……」
ん?
何だ、アイツ何か仕組んでたのか。
『主動権を借りる』
「ジェイク!?」
『データ更新完了。限界突破』
「んぬおっ!?」
うぉおぉおおぉめっちゃ速ぇえええ!!?!?
マッハ6とかふざけた数字表示されてんスけどぉ!?
熱の壁超あっつい!!?
『負荷が大きすぎる為にEPを削るが、アレに巻き込まれるよりマシではないか?』
「ドレ!」
『アレだ』
やっと止まったんでアレを見てみた。
ヘルズガルドか? なんかブラックホール染みた見た目の渦になってやがるが。
『アレに巻き込まれれば、”私”とて脱出は不可能だ』
「ちゅーか今まさにバトリスが吸収されようとしてんだけど」
『その通りだな』
「どうする、《失われし神》でも出来れば良いんだが」
『無駄だ、アレは神などと言ったモノではない』
「じゃどうすんだよ、どんどんデカくなってるぞ」
困った。
アレではどうにも出来やしない。
ヘルズガルドめ。あらゆるエネルギーを吸収するとも謂われる、宇宙でも特に恐れられる現象のブラックホールを真似たとでも言うのか。そんな事したって、俺を得た事にはならねーぞ。ひも状になって生と死の狭間を永遠に漂うだけだろ。いやまぁ本物のブラックホールと言うワケではないが、本物だったら今頃この星呑まれてるし。
「神鵺ぁー!!!」
「んぁ?」
後ろを向くと、何かブッ飛んで来てたんで掴み取った。
これは……爆弾? 石のはめ込まれた爆弾?
「ナニコレ」
「たった今オクマに貰った! 世界破壊爆弾だ!」
「エ、ナニソレコワイ」
オクマさん……まさかマギアを壊した時の事が忘れられなくて、世界を一発で壊せる兵器でも作ってたの?
やだコワァイ。何より値段を聞くのがコワァイ。後で俺が環奈にお返ししなきゃいけない奴じゃんコワイよぉ!!! お母ちゃぁーん!!!
「試験運用って事でタダだったぜ! 遠慮無くやっちまえ!」
「実験じゃねぇか余計怖ぇえよ!? バトリスまで消えたらどうすんだボケ!?」
「理論上は問題無いだろ!」
「ジェイク、演算だ! コイツの威力を測れ!」
『システム、スキャンモード。……構造が解析出来ない、物は試しと言う言葉が一番似合う』
「ファー!! マジ頭イかれてる!」
まぁやるけどね!
はい時限起爆スイッチポチッとな!
「ジェイク! 調整頼むぞぉ!!」
『システム、戦闘モード。投射角、出力、計算完了』
「あーばよッ!!!」
全力スロウ!!!!
『着弾、今』
「よし! って何これぅぐえっ!?」
ちょ、首、首締まッ!? 影が!?
環奈止め死ぬ死ぬ! 引っ張んな苦しい!
「ぐぉっふぇ!」
『EP残り76%』
「シンヤ、その声は何だ?」
『”私”の声だ』
「とにかく伏せてろ!」
環奈よ、コッチまで爆発が来る事を懸念して引っ張ってくれる事は嬉しいが、もっと掴める場所はあったはず……。
「影壁!」
「おぉ、密閉空間なのに暗くない……ッ!」
あぁ、お前の懸念は当たってたようだ。
流石先輩、勘が鋭いな。
凄まじい衝撃で、俺達を包む影壁がフッ飛ばされた事が分かる。
中にいる俺らはまるっきり無事。この事から推測するに、この影壁、もしや隔離世生成能力か? 環奈の奴、ここで隠してた能力を俺に見せるか。信頼されてると言う事で良いのかこれは。いや、影でカモフラージュしてるって事は、やっぱ単にバカなのか。どっちか良く分からん。
「ぅ”えっほ、え”っほ、ぅぉっふ、環奈乱暴……まぁサンキュ」
「お前一人にだけ良い格好させてたまるかよ。私が先輩だぜ」
「ハッ、言うて数日程度しか違わねぇだろ」
「それを言うなよ……先輩って響きカッコ良いだろ……」
この期に及んでまだそれか。
まぁ分からなくはないがね。
『システム、スキャンモード。バトリス内での被害状況は、ヘルズガルドを中心とした半径3km以内の消滅。一瞬で真空状態になったため、暫く気流が安定していない。5分程の待機を推奨する』
「んじゃ、その通りに」
『作戦目標クリアだ。携帯モードに移行する』
身体に装着されているアーマーが離れ、自動浮遊で浮かびながら縮小変形と合体を繰り返していく。周りに浮かんでいたパーツも、1つにまとまっていく。質量保存の法則はどうしたとツッコミたいが、俺も環奈も超音速に耐える身体を持ってるし、俺に至っては先ほどそれを当たり前のように超えた極超音速まで体験した。今更これしきの事に疑問を感じる方がおかしかったな。
俺の持つ携帯のイメージを反映してか、スマホっぽい見た目に変わった。手に持ってみると、丁度良い重さ。画面も十分大きいし、こりゃ良い。
この俺がスマホを2台持つとはな。
しかもその一方はカモフラージュで正体がコンバットアーマーだぜ?
「良いなぁーそれ!! カッコ良い!!!」
「悪いな環奈、これは俺の身体の一部だ。世界破壊爆弾のお返しでもやれねぇぞ」
「私も欲しい! コンバットアーマー! 欲しい!!」
「惹かれるな……黒い天使、シュヴァルヅェーラフを見たよ」
「それ頂き。”俺”の機体名は黒の御使いにしておこう」
自分への名付けも済み、5分後無事に安全領域へ降り立った。
悪魔が変な顔を映し出して来やがった。
何だ、その……お前……その顔って言うか態度、凄い、落ち込んでねぇか?
『……狩猟者……もう、そこにこれ以上の脅威が……ありません……』
「これ以上脅威を寄越すな勘弁してくれ」
『……はい……貴方は、クロウさんの思惑通り、進化しました……”どん底を味わう事無く、また何とかなって”しまいました』
「――ッ」
おい待て悪魔、お前”何処まで知っている”。
その言葉は俺が――!
『……』
「…………悪魔、余計な詮索はしないとだけ言っておく。だが…………いや、良い」
『……はい……』
「何だ何だ? まだいざこざ続いてんのか?」
「コッチの問題だ。散々アレしといてなんだが、撒き込んじまって悪かったな。まぁお前らがいたおかげで助かったわ。……あー……」
「「?」」
やっぱ口に出すのは恥ずかしいなぁ~これ。
まぁ、これは、言っとかないといかんべ。
「ん"っん"っ……ありがとっ」
『……ッ!』
ん?
何だ、今、胸に痛みが……?
「うむ、先輩を敬え!」
「こちらこそ、中々遭遇する事の無い体験だった」
「……フッ。おい悪魔、早く門……を……悪魔……」
『……ごめんなさい……ごめんなさい……!』
胸の痛みが重篤化してきた。
まさか、これは悪魔が感じてる痛みか?
だって、今コイツ、ボロクソ泣いてるし。
そう言えば、俺とコイツが契約した後、コイツのモノと思しき空腹感を感じた事もあった。見事その通りだった記憶もある。だとしたら、やはりこれは悪魔が感じてる心の痛みとでも言うべきものか。
…………なぁーんとなく分かってきた。
だとしたら、これは、どうしようもない。
俺には何とも出来ない。
これは俺のせいでもあるしコイツのせいでもあるし、ついでに言うと環奈のせいでもある事だ。皆悪い事だから責めようが無い。その事が余計に厄介なヤツだ。解決法が無い。そうなりゃ男の俺には何も出来ない。せいぜい優か信あたりに何とかしてもらう他無いんだがそれもまたこの悪魔を余計に落ち込ませそうで厄介だ。結論から言うとめんどくさい事になった。
何だってこうなるんだ。
もう仕方の無い事だろうに、しかも悪魔がそんなちっさい事でグズグズしてんじゃねぇよチクショウが。俺の"この性格"まで知っといてその体たらくだったらお前容赦しねぇぞと言いたいがそれも酷なんだろうなぁまた最低とか最悪とか言われんだろうなぁああああああムカつく!!! 人 (じゃないが)の気持ちはやっぱ理解出来ん!!! 逃げたい!!! 俺は今、声高々に逃亡を宣言したい!!!
「ど、どうした悪魔!? 何で泣いた!? やっぱり神鵺が何かしたか!?」
『違う、違うんです……今、繋ぎますから……帰って来て下さい……』
『女性を泣かせる事は頂けないな。"私"よ、彼女の傍へ行くのだ』
「ぅぇっ」
「ほら行くぞ!」
「おぅっぶ!?」
「折角だから私も行こう」
「お前らあぁあああああああああ!!?!?」
遠慮無く腹を殴る影女に、ノリで俺らの世界へ来ると言い出すゾンビ女。
コイツら自由過ぎるだろ。
とりあえず門を潜って、環奈宅へ帰還した。
その後、ミキが此方の世界も面白そうと言うのでとりあえずウチで暮らす事にさせ、悪魔とは俺の部屋で話をする事にした。




