第21話 全域戦線特務世界=バトリス
突然の包囲門に吸い込まれ、アッサリと異世界へ放り出された俺は憤慨していた。《情報操作》での通信も応答無しと来たものだ。その癖指輪からは魂奪取の依頼だと情報が出て来やがった。だったら目標ぐらい分かるようにしとけよ。何で目標が情報にねーんだよクソが。
明日も平日だってのに、予定合わせすらせず突然こんな事をするとはどう言う了見だ。やはり悪魔は悪魔、やる事は人を蹴落とす事ばかりと言うわけか。そして俺の事を見て笑っているのだろうな悪魔。その雲の向こうに、お前の笑む貌が見えるぞ。
撃ち抜いてやる。
さっさと目標を殺し、魂を奪って、力を高めた俺が直々に奴の元へ戻り全身を余す事無く撃ち抜いて四肢を折り犯し上げてやるんだ! 復讐だ! 俺の事を裏切ってくれたあの悪魔に、鉄槌を下すんだ!!!
「さぁ~てそうと決まれば目標はどいつだ。また神様か。それとももっかい世界を滅ぼせば良いのか?」
見渡す限りの荒地。砂漠ではないが、全体的に干からびてやがる。
情報操作で生体反応を探っても、ほんのチラッとしか無いとは。
人に類する種の数が、たったの20億? 世紀末かよ。
待て、そういや環奈は何処へ行った?
もし俺と同じくこの世界へ飛ばされたのならば、今頃は目標を探しているのではないだろうか。
丁度良い。
『全域対応思考通信。狩猟者への連絡網だ。受信した者は5秒以内に思考にて応答されたし。繰り返す。狩猟者への連絡網だ。受信した者は5秒以内に思考にて応答されたし』
《情報操作》で世界全域へ暗号化した思考通信をブロードキャスト配信し、環奈からの返事を待つ。約9秒後、応答が返ってきた。
『こちら金緑変石。黒金剛石か』
『アンタもコッチへ来てたみたいっスね。ソッチも目標を探してるんスか』
『ん? ソッチに連絡は行ってないのか?』
『あん?』
『不本意だが、今回は私達が互いに目標だ。模擬戦は終了、ここからは本気で殺しに行く』
『ハッ、悪魔の奴め蠱毒にでも走ったか。遂にトチ狂ったな』
『こどく?』
『共食いだよ。虫を同じ壺に入れ、勝ち残った方を神霊とする気の違えた呪術だ』
『つまり、勝った方がもっと強くなる』
『その通り』
『そう聞くとちょっとヤル気出てくるじゃねぇかおい』
『ああ、敬語ももういらねぇ。茶番はお終いだ天宮 環奈。俺とお前のどちらが勝つか、この世界で決めようじゃないか!!!』
『私が勝ぁつ!!』
『俺が勝ぁつ!!』
通信終了!!
「フンッ、楽しくなって来やがったぜ」
情報操作で元の世界との時間の進みを比較してみると、おぉっとこれは五十倍。午後六時ぐらいに飛ばされたから、次の日の朝八時までこちらでは約100時間。四日間は余裕があるのか。何だ、ちゃんと考えてんじゃん悪魔。
「……ん?」
気が付いたら前方に20人規模の軍隊がいた。
黒と白の軍服、何だその色のチョイス。
隊長だろうか、一人の女が前へ出て来た。
黒く長い髪を1つにまとめた、鋭い目つきで肌の白い女。肩掛けコートが良く似合ってる。軍服の上からでも良く分かる、両方の意味で凄くイイ身体付きだ。
「そこの少年。見慣れぬ服装だが、新参の傭兵か」
「ポッと出の異邦人だ。ある女を殺す事が目下の任務、戦争に興味は無い」
嘘、めっちゃ興味ある。
「そうか。だが、この星は最早何処もかしこも戦場となりえる潜在的戦線だ。安息の地は少ないし、お前の狙いも横取りされやすいぞ」
「いいや、奴は手強い。俺と同じく音速を超えた機動に耐え、パンチ一発で人間を血霧に変えさせる程の化物だ」
「……ふむ。その話が本当なら、お前とソイツは世に謂われる死神と言うものだな。たまに現れるんだ、理不尽な力を持った圧倒的な存在が」
「そりゃ丁度良い。おまけも狩れたら大収穫だな。テメーも同じ口だろう?」
「いいや、残念ながら私はこの星で生まれ育った雑種だ。遠慮しておく」
「あぁっそ。んでだ。安息の地は無くとも、喰って寝るとこぐらいはあんだろ」
「移動式の基地がある。天井に困ってるなら、どうだ、傭兵として雇われてくれないか? 食事と睡眠、その他払えるものを払う代わりに、戦力に数えさせてくれ」
おっ、これは、チャンス。
まずは小馬鹿にする。
「軍人がその場の判断で傭兵を雇うか。大日本帝国の歴代神様が聞いたら引っくり返るな」
「大日本帝国が如何様な所かは存じ上げないが、ここでは割と良くある事だ」
ほう、良いカモだ。
「良いだろう、雇われてやる。報酬は十分な食と住、あと気持ち。以上だ」
「随分安い要求だな。有難い事だが」
「もっと増せってか? つっても此処の金は別にいらんし、後払えったら身体ぐらいなもんだぜ?」
「……そうだな。私で良ければ、好きに使ってくれても良い。好みだと嬉しいな」
おいおいおい。
真面目なんだかなんだか、変に物分かりの良い女だな。
しかし好みなのは事実なのでこう返しておく。
「半分冗談だ」
「……そうか」
おや、もしやお望みで?
ソッチ系ですか?
歓迎ですか?
ビンビン来るね。
「では参ろうか。ここから500レイル行った先に、私達にとっての敵性部隊がいる。それを討伐しに行く最中なんだ」
「方角は?」
「方角? お前の後ろだが?」
「おーけー」
「……もしや?」
「偉いさんがいたら生かしておくわ」
《翼式加速飛行》!
「……死神……いや、あれは……!」
女の驚く声を背中に、速度を亜音速まで上げて上昇。
見えてきた。青い軍団だ。規模は、100人。
馬みたいな謎生物の引く車もある。その中にいるのは、偉いさんか捕虜のどちらかだろうな。
まずはそのまま通過、奴等に化け物の到来を報せる。旋回して再び接近、銃弾が飛んでくるがさしたる障害ではない。寧ろ当たらない。 ウルネラとアルバロを装備し、フルオート掃射。4人死んだか。もっかい旋回して地面に垂直着陸、と、同時に魂を奪っておく。
「な、何なんだコイツは!? 死神か!? 修正者か!?」
「お、おぉぉ俺達は別段危険な兵器を扱ったりはしていないぞ!? 修正者が何故!?」
「憂さ晴らしに来た狩猟者。じゃ物足りないか?」
「ふざけるなぁぁああああ!!!!」
ヤケにパニクってる奴がいるが、まぁ良い。
全方位から撃たれても、半自動的な《放射》による迎撃のお陰で弾は当たらない。
隊長格を残し、皆撃ち殺して魂奪取。
車の扉を斬り開いてみると、なるほどこれは、捕虜か。
金髪に碧眼、絵に描いたような白人共だな。
あの女が連れていた軍とは別の勢力みたいだが、とりあえず足枷だけ外そう。
一人の女が声を掛けて来た。
短髪で人形みたいな顔立ちだが、そこにある生気は正に戦う戦士。
ハッキリ言って、好みです。俺って守備範囲広いのよん?
「誰の差し金……?」
「俺の差し金」
「ふざけないで。貴方が死神なら、私だって今ごろ死んでるはず。一体何者なの?」
「……黒金剛石の狩猟者。魂を狩る為に色んな世界を飛び回る狩人、シンヤだ。覚えておけ」
「……狩猟者……?」
「運が良いな貴様ら。俺は今機嫌が悪くすこぶる気が立っている。殺しも犯しもしないから安心しろ。だが拉致らせては貰う」
「待ってそれはどう言う……うわっ!?」
車の下へ移り、持ち上げる。
うん、軽い。
翼を展開して、さっきよりはゆっくりめに飛んで戻ろう。
程なくして、あの黒ポニテ率いる軍の元へ辿り着いた。
揃いも揃って目ん玉ひん剥いてやがるぜ。
「これは……凄いな、お前は死神なんてものじゃなかった」
「じゃぁ何なんだ?」
「天使だ。光の翼を持った火の天使、伝説のゼーラフか」
「熾天使? まぁそう見えなくはないが、俺はどっちかっつーと悪魔の……」
そうだ、俺悪魔に飛ばされたんだった。
まぁ事実も事実だしそうとしか言えない。
「……まぁ悪魔側の存在だ」
「そうか……伝説なんてそんなものか」
「そんなもんだろ。とりま敵らしい奴らは――(隊長格を除いて)――皆殺して、捕虜がいたんで拉致って来たわ。お仲間じゃないみたいだが」
話を聞くに、この世界の人類は3勢力で争い合っているらしい。
捕虜達は大企業軍ジーエルファウンド、あの情けない青共は王政国家固有の軍アルスライド、そして黒ポニテの属する最強の宗教軍ユンゲルハイド。
闘争を求める人々の、真なる理由無き戦いの世界。
それがこの、全域戦線特務世界、バトリス。
また救い様の無い……だが、惹かれる世界だな。
人々は己の命を第一にし、それで尚も戦いの香りに酔わせられる。本能を刺激し、奪い奪われ嗤い合う。ひたすらに高みを目指し、絶対なる頂へ向けて行軍する狂人共の世界。嗚呼最高だ。ここには最早形骸化した法や誇りが打ち捨てらたように顔を見せ、それを踏み潰す獣共の足跡ばかりが残る。そうだ。争いだ。奪い合いだ。お前達とは、俺達とは、人間とは、そう言うものだ! 生命の火を炎へ挿げ替え、世界を焦がす程の極限へ達する事を唯一赦されてしまった獣共だ!! 欲望に従い、何の躊躇も無く本物を貫けるこの世界は、正に一つの真実だ!!! 生き物とは!!!! 須くこの事を言うのだ!!!!
「……それが、お前の絶対とする価値観か」
「く、狂ってる……」
「狂ってる? それは違うし逆にそうだとも言える。俺が狂ってると言えばそれは本当だ。お前達からして俺が狂ってるとすれば、それもまた嘘偽りの無い真実だ」
「私は良いと思うぞ。そのような考えを持つ者は中々いない。人間全てを、心がと言わず、そのものとしてバケモノだなどと言えるのは、お前くらいのものだ」
「全部同じ。それでいて全部が違う。そう言うモノだ。さてと、他に殺す奴がいないんなら俺はそろそろ飯が食いたいんだが?」
「では、基地へ案内しよう。捕虜達も疲れただろう。少しくらい休んでけ、兄弟」
環奈は馬鹿正直に俺を探すだろう。
「バケモノだ……!」
なら、俺は餌を巻いて罠を張り巡らせる。
「アレは、修正者なんかじゃない……破壊者だ……!!」
その為に世界へ俺の到来を報せる役割を持たせたんだ。
シッカリ役目を果たせよ、一人生かしてやった隊長のオッサン?
「審判の日が……やって来たんだ……!!」




