第17話 この手は絶対離さない
魔法文明確立世界、マギアへ召喚された俺達は、ひとまず寝ることに決めた。
何たって深夜12時を過ぎようと言う所で引っ張り出されたんだ、同じ夜だった事が幸いだぜ。
「いい加減にしてくれないか。やる気はあるのかシンヤ」
「良いだろ寝るくらい。俺かて生き物だ、睡眠は必要だって事ぐらい察しろ」
特に俺は《情報操作》のために脳の使用率が大幅アップされているんだ。普通人間は脳が焼ききれない様に体積の10%ずつを休み休みで使い、それでも疲れるので夜に寝て整理とクールダウンを図っている。それが常15%の使用率に上がり、戦闘の時なんかは20%以上を高速ローテーションで使ってるんだぜ?
代替器官でもあれば良いが、俺にそんな都合の良いモンは無い。
寝させろ。クソが。
「チッ……どっちにしろ、世界を殺さないと帰れない身だ。時間稼ぎをしても無駄だからな」
「わぁっとるから寝るとこ案内してくれ。硬い床で寝たくはない」
「わ、私も一旦寝たいな……」
「コッチだ。言っておくけど、ダブルベッドなんて贅沢なものは無いからね」
「シングルで十分だ」
「んっ!? それ、って、神鵺君と、その、一緒のベッドに!?」
「どうせならお楽しみ?」
「ぃ、ぃゃそれは……興味はあるけど……」
「……何だろう。額がヒクヒクしてきたよ僕」
纏めて召喚したオメーが悪い。
とりあえずフェルミーのアジトにある寝室へ案内され、紐でしっかり手を繋げて寝る事にした。が、優の方が変に興奮したおかげで寝づらかったんで、疲れさせるついでに一緒に初体験済ませて寝かしてやった。デカ女お前良いカラダしてんじゃぁん、御馳走様でした。
わおーん。
=== チュンチュン ===
昨晩はお楽しみでした。
こんな形で童貞卒業する事になるとは夢にも思わなかったが、まぁ良い経験だった。シッカリ知識を得ていたおかげで優も気持ち良くなれたみたいだし、結果オーライ。お肌もつるつる。
フェルミーにはシャワーの後怒りのビームを喰らっちまったが、痛いだけだ。
「何なんだ君達は。頭おかしいんじゃないのか。何で召喚されたその夜にサーバント同士で致すんだ。そっちの世界はそんな事が常識なのか____チにクズめ!」
おぉおぉ化けの皮が剥がれてんなぁ。
「聞いて驚け、これが初体験だ」
「……凄く……気持ち良かった……」
「ッガァァァアアアアァァァァアアアアアア!!!!」
ぬはは、苦しめ苦しめ。
そんなことで頭を壁に叩き付けるお前の姿は、まさに化けの皮が剥がれたお子様だ。さぞ家族とよろしくやっていたんだろうな? お母ちゃんの乳が恋しいかい? 優のはやんねぇぞ、コイツは俺のメイドだ。
「もう良いとっとと行けぇ!!!」
「あいよ。この果物は頂くぜ、朝食に丁度良い」
「持ってけ泥棒! さっさと世界を殺して来い!!!」
「キッチリやるぜぇー」
=== マギアの街:コアシティ ===
青空に摩天楼が突き刺さる世界、その城下とも言える街は、まさに魔法が科学の代わりと成した現代社会だった。しかし、その姿は異様そのものだ。
ビル群は常清潔で、真っ白い陽の光を反射し煌めいている。車には燃料の代わりに魔力の籠った石が使われ、魔力伝導によってエンジンを動かしているようだ。道行く人々の服装は、天然の布の他に革を使ったものが多い。石油に近いものが無いから、科学繊維が無いんだな。あと、以外に多いのが電線みたいな奴だ。どうやらこれで魔の力を供給しているらしい。魔導機械とでも言うべき技術が発達しているようだな。
そしてまぁ、何と言うか、ヤツの言う通りこの世界はおかしい。
皆、笑顔だ。それも極自然な、幸せそうな笑顔。
無表情が一つとしてない。
こりゃ、ずっと見てたら俺らまで笑顔になっちまいそうだぜ。
にぃ~。
「や、止めてよそんな神鵺君らしくない……」
「おみゃーだって昨日あんな嬌声挙げてた癖に。すげぇエロいんで一瞬別人かと思ったわ」
「そ、それには触れないで……本当に凄くて……」
「……待て……悪い、今のは俺の失言だった」
「え?」
やぁ~っちまった。
街の皆、すっげぇ驚いた顔でコッチ見てやがる。
「手を繋いでる」「やだ、熱い夜過ごしちゃった?」「カップルか」「良いわねぇ~」「幸せそうだわ」「祝ってあげよう」「皆! 何かやろう!」「新作の魔法を見せてやろうか!」
ちょっと待て何だコイツら。
急にお祭り騒ぎし始めたぞ。
「し、神鵺君これって……」
「……この世界の仕組みが分かってきた」
《情報操作》応用術、《感情取得》!
奴らの意識を読み取る!
ついでに《魔力感知》!
「……やっぱりだ」
「どんな仕組みなの?」
「感染症だ。それも母体によって操られた精神感染。コイツらは集合意識の末端、人形に成り下がってるってわけだ」
「……ねぇ、それ、言っちゃって良いの?」
「いいや?」
「わざと?」
「イエス」
「……いやぁぁああああぁぁぁあああああ!!?!?!?」
ハハッ、皆襲い掛かって来た!
とりあえずクルッと回って優の胸で後頭部固定。
腕を腰に回させてっと。
「よっ!」
「うわっ!?」
「シッカリ掴まってろ優! 飛ぶぞ!」
《翼式加速飛行》!
「待って心の準備がぁぁぁああああぁぁぁぁああああ!!?!?!?」
魔法ぶっ放して来る人形共に瞬間装備したウルネラとアルバロのフルオート掃射。
遠慮無くブチ殺してやる。
見ろよ。お仲間が死んだってのに見向きもしねぇ。
コイツらの言う幸せってのは、単なる逃げってわけだ。
真っ直ぐ見るもん見ねぇで、幸せなんて言う幻想の虜になっちまった憐れな人類って事だな。
「殺すまでも無く死んでやがるわ、この世界」
「だ、だからってあの人達を殺すのは!」
「分かんねぇか?」
「何が!」
「あのフェルミーは反覆を目論んだこの世界の住人だ。そしてお前に声を届けたって言う優の同列存在も、この世界の住人。奴らは幸せに支配されていないって事を確認した」
つまりは、フェルミーと優のオルタネイティブは幸せの力に抗えるだけの魂を持った奴らって事だ。
なら、神様はソイツらを狙いに行かないのか? 自身の信者に仕立て上げるか殺すかのどちらかしかしないだろう。特に支配系の悪質な神なら尚の事だ。それなのに異世界への干渉まで赦す始末。自意識は無いと見た。
その上でこの世界の支配者が世界の住人を支配するタイプって事なら、つまりこの世界の”神様”は、もう分かったようなもんだ。元凶を潰しに行こう。
「……幸せって、悪いものなの?」
「誰もそうは言ってねぇ」
「だって!」
「じゃぁ何か。お前は『これが幸せ? じゃあ、幸せだな』って決められて嬉しいか?」
「それは……違和感があるけど、そう見えるなら……」
「見せかけから本物になる幸せもあるだろうよ。だが幸せってのは感情だ。感情って言うのはな、本来は環境って言う外的要因からテメーが見出した自発的な現象だ。それを一方だけのせいにして押し付けるなんてのは赦し難い事だ。お前は、環境の事を無視して自分の妄想から突き進む大馬鹿だ。俺はな、お前のそう言う所が嫌いなんだ」
「……神鵺君……」
「つまりは、だ。もっぺん良く考えて、テメーの思ってる本物を言いやがれって事」
「……」
「あの塔のてっぺんまで飛びたいが、急上昇したら高山病になっちまうな……」
「……ここから、右へ1km行って」
「あ?」
いきなり何を言い出すんだコイツは。
そこに何かあるって言うのか。
「そこに”私”がいる。この世界の私と一緒になれば、何か分かるかも」
チッ、消える気か。
そこでヒロイン気取るなって言いたいのが分からねぇのかこのシリアス脳は。
「馬鹿言うな。お前を消さない方向で考えてるんだ」
「本物を言えって言ったそばから! 神鵺君だって一方的じゃない!」
「何が」
「私が消えるかも知れないって事ばかり考えて、怖がってばかり!」
…………。
そこ触れて欲しく無かったんだけどなぁー!!!!
「ああ怖えぇよ! おめーの料理が喰えなくなるかもなんて考えたくもねぇ!」
「ほら!」
「何が、ほら、だ! 良いからお前は」
「神鵺君の考えだけで動いて! 私の気持ちは度外視!?」
「……ぁー……」
「召喚される時一緒になって! 寝る時にも一緒になったって言うのに!」
「アレはお前が変にもぞもぞすっから……」
「私は神鵺君の人形じゃない! メイド! 家政婦! 家族と一緒!」
「ッ!?」
何だ……今、心臓が跳ねた?
まさか、家族なんてワードに反応したとでも言うのか?
「私は消えない! 神鵺君ともっと一緒にいたい!」
「俺にそのセリフを……!!」
「言うよ! 嫌でも言う! ”私が言いたい”!」
「ッ……!」
「神鵺君の力になりたい!」
確証なんて、無いんだぞ。
どうやるって言うんだよ。
「消えないなんて確証は無い。でも信じて! 神鵺君は必ず元の世界へ一緒に帰ってくれるって、私信じてる! 貴方も信じて、私は消えないって!」
「…………」
「……神鵺君……」
「………………はぁぁぁぁぁぁ……」
俺単純にそう言う恥ずかしい台詞が苦手なんだよぉ……。
参った。”やっぱり”俺は、こう言うタイプをほっとけない奴だ。
「……そのセリフ、覚えとけ!」
「……うん!」
フラグ回収忘れてコッチがバッドエンド被るのなんざ嫌だしな。
柄にも無く信じるぜ!
向かって右方向へ1km!
=== この手は絶対離さない ===
陽の光が刺さない、魔力枯渇空間。
幸せの魔の手が及ばない代わりに、自分らで感情を見出す力すら無い怠け者共の巣窟か。気楽で良いよな。まぁアリなんじゃねぇか?
薄暗い路地裏へ降り立った俺達を前に、ヴェールで顔を覆った人物が座っていた。
水晶玉の置かれた机を隔てて、俺達は遂に対峙した。
「コイツが……」
「……同列存在……そうだよね、”私”」
笑った。妖しい笑みだが、嫌な感じがしない。
ヴェールを外すと、なるほどこれは、ソックリだな。
「そうだよ、”私”。マギアへようこそ。フェイって呼んで」
「沖本 優。今は神鵺君のお手伝いをしているメイド」
「ユウ……可愛い名前」
「フェイ。どうやって私に声を届けたの?」
「魂の繋がりを感じた。糸のような、細い繋がり。それを辿って、そっ……と届けた。切れないように、うんと気を付けて」
「……私と、一緒になってどうするの?」
「私の力を、強める」
「力? フェイの力?」
「……私の力は、ネクストブレイン。端的に言うと、予知能力だね」
「……予知能力……未来予知?」
「そう」
ほう、なるほど。
何処ぞの青ロボ映画を思い出す。
「そこの彼は、察したようだね」
「……お前の能力は、未来の危機を観測する能力か。それとも選択肢を事前に知る能力か」
「前者だね。この世界が闇に閉ざされる未来を見た。誰も笑っていない、感情の無い世界……何もしなければ、そうなってしまう未来だよ」
「そこで魂の繋がりを感じたお前は、一縷の望みに賭けて声を掛けた」
「そう言う事」
「……でもドッチにしても、この世界は……!」
「良いの。どう転んでも、もうこの世界は道を踏み外してる。だったら、いっそ……」
「やり直せるよ!」
「無理だよ。未来を変える事は出来ても、過去を変える事までは出来ない」
「神鵺君なら!」
「悪いが優、それは買い被り過ぎだ」
「何で!」
「お前を死なせずに世界を救う方法は、無い」
「……!」
俺達には呪いが掛かっている。
世界を殺さなければ、死ぬ呪い。
俺なら抵抗出来るかも知れないが、優は別だ。
世界を救うと言う道を選べば、死んでしまう。
ただ、そうだな。
俺だけの我儘に突き合わせてばかりでも、上手く行くなんて事は無いか。
しっかり聞いておこう。
「改めて聞こう、沖本 優。テメーの為に、世界を滅ぼす覚悟はあるか」
「……世界を……滅ぼす……」
「……俺は、”お前と一緒に元の世界へ帰りたい”」
「……私も、”貴方と一緒に元の世界へ帰りたい”」
「……想いが、一つになった……!」
そうだ。
こうして手を繋いでいるのは、お前といたいからだ。
「「この手は絶対……離さない!!」」
「――合格!」
――フェイ。
お前、元からこのつもりだったのか。
ったく馬鹿な事しやがって……ありがとな。




