09 "月"
姿は見えないが謎の女はこちらを狙っている。
全方位から殺気を受けているかのように肌がチリチリする。
さて、どうしようか。
狂ったように警杖振り回そうかな?
でも絶対頭おかしいって思われるし、何より迷惑か。
オレ達は未だ護送車の上にいる。
敵に囲まれる恐れがあるので護送車は止まることはない。
この状態で敵は追い続けてきているのか…?
得体が知れなさすぎるな。
オレはリゼ先生との特訓を思い出し、現状の突破口を模索する。
そういえば先生も気配殺すの得意だったな。気付いた時に接近されててドキッとしたもんな。色んな意味で。
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「五感だけで敵を追わないこと。自分の感知できる範囲の空間を自分自身だと思いなさい。そうすれば身体は自然についてくるわ。」
「そんなん無茶苦茶だろ…。」
「普通の奴にはね。だがレイなら出来るわ。」
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なんとなく今はその感覚が掴めそうな気がする。
それと同時になんか引っかかる。先生は今回のこの敵のこと知ってるのか?
いや、余計な事は考えるな。
今はあの女に集中しよう。
オレは大体目の届く範囲くらいの周辺の空間へ神経を伸ばすように意識した。
なるほど…。よく分からん。
よく分からんが、すげー嫌な感じがするところがある。
気付いた時には身体は動いていた。
エリの背後に気配へ警杖を下から上へ切り上げるよう仕掛けた。
「!!!よく分かったわね。キミは一体何者?」
攻撃は難なく受け止められた。
エリは背後にいた気配に全く気づかず、いつ殺されてても可笑しくない状況に顔を青くしている。
他の兵士を退けたリゼ先生が戻ってきた。
周りを警戒しつつ背中合わせの状態。
「レイ。奴らは”シノビ”と呼ばれる集団です。様々な惑わす術を使ってくるわ。気をつけなさい。」
「気をつけろって…。もっとちゃんと教えてくれよ。」
「これも授業の一環。自分で学びなさい。」
そう言うとリゼ先生はまた何処からか現れた”シノビ”達へ斬りかかっていく。
オレと女は膠着状態にいたが、リゼ先生の姿をチラッとみると呟いた。
「なるほどぉ。そういうことね。」
女の口元は隠されているが、ニヤっと笑っているようだ。
そして、次の瞬間にはシアナを抱き寄せ護送車から飛び降りようとする。
そうはさせない。
シアナを引き剥がし女を突き放す…が、今度は俺が女に掴まれ護送車から引き離されてしまった。
「レイ!!!!!」
「すぐ追いつくから大丈夫だ!先行っててくれ!」
シアナにはそう返しといた。
辺りは何も無い。草がほどほどに生い茂った場所。遠くに中央都市の建物が見える。
オレと女が対峙している。
「…私は”月”のミサ。あなたは?」
「レイだ。…あんた何のつもりだ?」
「ふふ。授業のお手伝いよ?まぁ…うっかり殺しちゃうかもだけど。」
リゼ先生と同じくらいの背丈か。肩程まである髪をピンみたいなもので固定している。
ミサと名乗る女は妖しく笑う。
まるで楽しそうなオモチャを見つけたような目でオレを見ている。
その感じ、嫌いじゃない。
互いに武器を構える。
ミサは短刀を両手で逆さ持ちにして構えている。
空気がブレた。フワッとした花のようなミサの髪の匂いとともにやってきた斬撃は警杖で受け流すようにし軌道を逸らす。
そこに生まれた隙で脇腹目掛けて横蹴りを放つも避けられた。
体勢が戻りきらないうちに放たれる銃撃。
警杖を支えにして体を持ち上げ回避、からの縦回転しながら警杖を振り落とす。
これは刀で防御される。
疾い!疾いけどリゼ先生との訓練のおかげで問題なく対処できる。
救いなのは相手の攻撃は軽いってこと。
これなら制圧も時間の問題だな。
時間にして数分しか経っていないが、激しい戦闘によりミサの髪の匂いが入り交じった砂ぼこりが辺りを舞っている。
攻防を繰り返すうちに違和感に気付いた。
攻撃が重くなってきている…?
いや力が入りにくくなってきてきる…。
ミサはニヤっとした目でオレをずっと見ている。
そしてその瞬間はきた。
放たれた斬撃をモロに食らって倒れてしまった。
体勢を立て直そうにも力が入らない。
やべぇ。なんだこれ。
「キミぃ。本当にすごいね。普通だったらこんなにもたないよ?」
◼◼◼◼◼◼◼◼…◼◼◼◼…
「毒か…。」
ダメだ。力が入らないし。頭もボーッとする。
「その通り。匂いを感じてたと思うけど、これを嗅ぐと力が入らなくなるの。真正面から戦うだけが戦闘じゃないの。勉強になったかしら?…まぁ、これでトドメを刺しちゃうから意味ない勉強だけど。」
これが実戦。相手に隙なんてあったようには思えなかったが、それでも相手が女性なので攻めきれないでいる自分がいたのは間違いない。
くそ。これで終わりか。
◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼…!!!!!!
さっきから声がうるさい。
どうしろっての。
まぁでもあともう少しがんばれるみたいだから、言うこときいてみるか?
そう決断すると、体の中でバチバチと何かが弾ける音がして意識は途切れた。




