07 特殊任務②
「レイ君、遅いわねぇ。大丈夫かしら?」
テーブルの上にはサラダやスープ、肉料理などたくさんの料理が並んでいる。相当張り切ったんだろうなと伝わる。
食事を用意し終わり、母はそわそわしている。その時、玄関のドアをノックする音が聞こえた。
「レイ!もう、遅いよ!わたしもお母さんもお腹ペコペコだよ?」
「ごめん。ちょっと用事が長引いたんだよ。でもちゃんと約束通り来ただろ?」
レイはぶっきらぼうに答える。なんか隠してるような感じで。
「アイリ、そんな言い方しないの。レイ君おかえりなさい。」
母は優しく微笑む。レイはわたしの母には弱いようで、少しデレデレしている。
「イリーナさん、すみません。遅くなっちゃって…。」
「そんな畏まらなくていいのに。昔はもっと生意気だったのにね。」
母にかしこまっている様子のレイを見て、少し微笑ましくなりからかってみた。こうやって言い合いをするのがいつもの感じ。最近はこんなやり取りも出来ていなかったかな。お互い本気で怒ってるわけじゃないのは分かっている。
「あのな?アイリ。オレだって成長してんだよ?ちゃんとレイセツを欠かさない大人になってるってわけ。」
「レイから礼節なんて言葉が聞けるなんて思わなかった…。」
わたしはクスクス笑うと、レイがぐぬぬ…!という表情をする。そんなわたし達の様子を一通り見届けてから、母が仕切り直してくれた。
「まぁまぁ二人とも。お腹空いたでしょ?早く食事にしましょ!」
レイは母の作った料理を口いっぱいに頬張って食べている。二コニコして美味しそうな顔はいつまでもあの時のままだ。なんかさっき成長してるって言ってたけど、この幸せそうに食べる様子は成長していない。成長しなくていいんだけどね。
母はそんな様子を見て笑っていて、わたしもなんだか可笑しくて笑ってしまった。
気恥ずかしそうなレイ。だって美味いんだからしょうがないだろ?
とレイは不満気な顔をしていた。
「ご馳走様でした!やっぱりイリーナさんの作ってくれたごはんは最高です!」
その言葉を聞いて母は嬉しそうな表情を浮かべる。そして優しい表情のまま、
「…ねぇ、レイ君。私はあなたのことを本当の息子だと思ってるわ。だからいつでも遠慮なく甘えてきていいんだからね?」
「はい…。そしたらまたご馳走になろうかな!イリーナさん、いつもオレや親父のこと気にかけてくれてありがとうございます。」
食後はアカデミーでの出来事とか、色々と話して、そろそろ遅いからと言ってレイは帰っていった。それを二人で見届け、レイの背中が小さくなった頃合いで母はわたしに言う。
「アイリ、もしレイ君が困っている時は助けてあげるんだよ?」
「わたしが?レイがわたしに助けを求めることなんてあるかな?助けて貰ったことは何回もあるけど。」
「いつかそういう時が来るわ。その時は…ね?」
「う、うん。わかった…?」
そんな時は本当に来るのかな?わたしはよく分からない。そしてこれもわからないのだが、今日はレイと久々にたくさん話せたからか謎の充足感を感じていた。
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翌日、今日もレイとアルドルは特別授業のため先生に呼び出されていた。まだ許されてないのだろうか?
アルドルは項垂れた様子で訓練場へ向かうが、レイはむしろ乗り気な様子だ。
昨日レイが言っていた言葉が頭をよぎる。
『レイ君可愛いから食べちゃいたい~』
え…?まさかあれは本当に…?
いやいやいや、だって教官とアカデミー生だよ?でも絶対に有り得ないとも言い切れない…。わたしは何故か不安な気持ちになる。
そして訓練を終えて疲れた様子のレイへ声をかける。
「ねぇレイ。昨日のあれって本当なの?だってレイはまだアカデミー生なのに…。」
「??…え?もうみんなその事知ってんのか!?情報が早いな。…まぁその通りだぞ。だからしばらくは忙しいかもだ。放課後も先生と訓練場に行くことになったからさ。」
レイはいつもの飄々とした感じで、あっさりとなんでもないかのように肯定した。何故か分からないが、胸が締め付けられるような感じがして、頭に血がのぼっていくような気がする。そんなわたしの様子にも気づかずにレイは続ける。
「とは言ってもまだ確定じゃないんだけどな?先生が無理やりにでもって言ってるけど…。」
「レイのばか…。」
もういい。聞きたくない。レイの言葉を遮るようにして、わたしは自分の席に戻る。レイは心配してどうした?と聞いてくるけど、机に突っ伏したまま、ひとりでグルグルと余計な思考と戦うのだった。
別にレイと先生がどういう関係だって、わたしには口出す必要も、その資格もないのだから。でも、それでも。
そしてレイと口を聞かなくなって数日後、レイはアカデミーに来なくなってしまった。
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クラス内がざわざわしている。毎日元気でアルドルとバカ騒ぎしている、あのレイが不在なことに。
クラスメイトのアスカがわたしに尋ねてきた。
「ね、ねぇ最近なんかあんた達険悪な感じだったけど…。なんかあったの?不真面目なようで必ず毎日アカデミーに来ていたレイが急にいないなんて…。」
「え、と…知らない。本当に…知らない。」
わたしは胸騒ぎが止まらない。そうだ、アルドルならなんか知ってるかも。
そう思いアルドルの元へ行くが、既に他のクラスメイトも同じ考えだったらしくアルドルの周りには人だかりが出来ている。だけど、アルドルはどこか歯切れが悪い様子で追求をはぐらかしている。
そしてわたしと目が合うと、急に立ち上がる。
「お、そうだ。アイリ、ちょっと話がある。着いて来い。」
アルドルは教室を出て、人気の少ないところへわたしを誘導した。そして真面目な顔で話し出す。なんでもレイからの伝言だとのこと。
「下手したら死ぬかもしれないから、そん時はイリーナさんによろしく、だと。直接言えばいいのにな?お前らケンカでもしてたのか?」
頭の中が真っ白になった。一体わたしは何を聞かされているんだろう?
「ん?お前、レイが特殊任務に行くこと知らないのか?先生の推薦で行くんだと。…あれ?レイはクラスメイトの皆知ってるって言ってたが、今日のアイツらの反応は…?」
アルドルとわたしは互いに何か色々と思い違いをしていることに気付き、そして思考を巡らせた後程に真実にたどり着く。
血の気がサーっとひくような感じがした。
まず特殊任務ってなに?死ぬかもしれないってどういうこと?先生は何故そんな危険なところへレイを連れていくのだろう?
でも、そんなことより…。わたしはちゃんと話も聞かないで、あんな態度をとってしまったことを激しく後悔する。もし二度と会えなくなってしまったら…。
「アイリ。たぶん大丈夫だろ。あのレイが死ぬなんて想像出来ないからな。何があったのか知らんけど、レイが帰ってきたらちゃんと話しとけよ。」
アルドルはそう言って教室に戻って行った。わたしはその場からしばらく動けずにいたけど、しばらくしてから教室に戻る。今はもうレイが無事に帰ってきてくれることを信じるしか、出来ることは他にない。
アルドルがレイから聞いた話では任務期間は一、二日くらいだろうとのこと。
しかし二日が経ってもレイは帰ってこない。アルドルもそわそわして、迷子犬のようにレイの机のまわりをウロウロしている。挙げ句、わたしにまでレイ大丈夫かな?などと聞いてくる程に動揺していた。
なんとなくだけど、遠いところからレイの声が届いてきた気がした。
「大丈夫。レイは今…。」
…戦っている。そんな気がした。




