06 特殊任務①
昨日は散々だった。結局昼飯を食べ損ねてヘロヘロだったオレとアルドルは放課後に、アカデミー内の食堂で狂ったように食べまくった。その食べっぷりに周囲はひいていたように思うけど、だってそんくらいつらかったんだもん。
特別授業を終えて、オレとアルドルは許された。教室の居心地も段違いだ。今日は快晴なこともあって、教室内に入ってくる風も心地良い。
もう悪いことは絶対にしない!たぶん。
まぁでも先生のしごきはもう懲り懲りだ。
そしてリゼ先生がいつものように、教壇に立ち朝礼が始まる。淡々としながらも、ハキハキとした先生の声も心地よく感じる。透き通った綺麗な声は朝の気怠さを吹き飛ばしてくれる。
今日のタスクも訓練と講義か…。変わり映えしない内容に少し退屈さを感じるが、今日は平穏に過ごせそうで安心もする。
「では本日もレイとアルドルは”特別授業”を行います。また昨日と同じ訓練場に集合するように。」
「は?」「え?」
いやいやいやいやいや!ちょちょちょちょい!
アルドルは顔面蒼白で震えている。今にもぶっ倒れそうだ。
それはオレも同じで、カラカラになった口から声を絞り出す。
「アノ、センセイ。ナンデ?オレ、ナニモ、ワルイコトシテナイ。」
心の整理がつかずカタコトになってしまった。
「問題児の性根が一回の授業で治るとは思ってないので。徹底的に分からせます。」
…察した。もう抵抗は無意味なのだと。ザワつく教室内を尻目にオレとアルドルは訓練室へ連行された。
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特別授業というのは建前である。リゼはとことん職権を乱用することに決めた。
レイとアルドルには自身を超えて強くなるポテンシャルを感じた。であれば徹底的に教育し、強くなった彼らと戦うことで、リゼ自身も更なる強さを手に入れられると考えた。どうせ強くさえあれば現場では役に立つし、重宝される。押し付けられた教官任務を精一杯果たすのだから、もし責められようものなら、そいつらも分からせてやれば良いとリゼは物騒なことを考えた。
さて、昨日と今日でやることは変わらない。レイ、アルドルvsリゼで戦う。
しかしリゼは二人の成長速度に驚く。
昨日より格段に攻撃の筋が向上している。これは自身の動き、スピードに対応し始めている証拠に他ならない。こんな事は今までなかった。リゼの心が躍動し、その顔には冷酷な笑みが浮かぶ。その恐ろしい笑みを見たレイとアルドルは、背筋が凍る思いだった。
アルドルは無駄な力みがなくなったことで、攻撃後の硬直ラグや隙が少なくなった。そのおかげで一連の攻撃速度が滑らかに上昇している。しかも何発か攻撃がヒットしても昨日より怯みが減っている。アルドル本人ですら、その耐性に驚くような表情を浮かべた。
まだ2対1だが、近いうちには1対1の戦いも成立するレベルになるだろう、とリゼは予感する。
そしてレイの成長は特に凄まじかった。
長警杖を軽々振り回し、攻撃、フェイント、反動を利用しトリッキーな移動など異次元の動きをしている。リゼですら翻弄されかけている。
レイの攻撃に対処している隙をアルドルが突いてくる。最初は楽しく思っていたリゼも少しずつなくなる余裕に苛立ち始め、手加減を解くことにした。
さらに上昇するリゼの速度に、狼狽えるレイとアルドル。不意打ちを食らわないように立ち回る。しかしスピードがレイより劣るアルドルは対処が遅れてしまう。脇腹へ短警杖による強烈な打撃を食らい、戦闘不能になってしまう。
そして先日同様、残るレイをリゼが戦闘不能に追い込むのだが。リゼの猛攻を防ぐため、レイも出来る限りリゼへ猛攻でもって対抗する。しかしその攻防の最中でリゼは違和感を覚える。
「私への直撃を外しているのは何故?フェイント…ではないですよね?」
「先生の美しさに傷をつけたくないので。」
「そうですか。では実戦中にそれが理由で死んでも文句は言えませんね。」
「そん時は死なないようにやりますよ。」
「じゃあ今やりなさい。本気でやらなければ死ぬと思いなさい。」
しかし、レイは攻撃を当てることはせず。むしろその悪癖を狙うリゼ。顔面へ攻撃を当てるように仕向けるリゼ、しかし攻撃の軌道を変えるレイの隙を狙い、アルドル同様に脇腹へ打撃を打ち込む。
そしてレイはうずくまって戦闘不能になってしまった。
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訓練が終わり、二人ともボロボロだった。フラフラと力なく歩いて訓練室を後にする二人。リゼはレイを呼び止める。
「レイ、待ちなさい。あなたに話があるわ。アルドルは先に教室へ戻ってよろしい。」
「…っす。」
訓練室にはリゼとレイの二人きりになった。
「レイ。あなたさえ良ければ、特殊任務を受けてみる気はありませんか?」
「…は?オレはてっきり怒られるのかと思ったが?」
レイは意外そうに目を見開いた。
「どういうつもりであの戦い方をしたのか、手加減したというわけではないでしょう?」
「…。」
リゼは悔しいが認めることにした。二回目の戦闘にて理解してしまった。今はまだ技量や経験の差で圧倒することは出来た。だがレイとの間には決して越えられない壁のような差がある。そう遠くないうちに逆転されてしまうかもしれない。それは本人も無自覚なのだろうが…。
「レイ。あなたは本気を出していない。出し切れていない。あなたがその気なら私を制圧出来ていたはずです。」
「買いかぶりすぎだ。俺は先生に負けた。甘いとかって言われるんなら、それを含めて今の俺の実力だ。」
リゼがこのような気持ちになったのは初めてだった。誰か自身を越えていくよう期待をするなど。そして今の環境に置いておくには勿体無いと感じた。何か理由があるのだろう。しかし言葉で説得するものではない。ここからは経験がものを言う領域だ。
「特殊任務は通常任務とは違い基本的には団員以外が担当する事は許されません。何故なら命の危険が相当に伴います。しかし私の独断であなたを任務に推薦し、ねじ込みます。当然私も付き添います。もちろん報酬も出ます。どうですか?」
「…報酬が出るのか。…まぁ考えとくよ。」
「良い返事を期待していますね。」
レイは立ち上がると、ふらふらした足取りで訓練室を後にした。
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今日の特別授業でオレは今までにない恐怖を感じていた。先生にじゃない。いや先生も怖いけど。
昨日の特別授業はどうやらオレとアルドルにとって、めちゃくちゃ経験値があったみたいだ。今日は先生の動きがはっきり捉えられるくらいにはなっていた。まぁ身体はまだ十分についてはいかなかったけど。だけど戦い続けているうちにどんどんボルテージが上がっていって、まるでその限界なんてないかのように力が湧き続けた。先生との攻防を続けていると、少しずつ自分の中の殻みたいなものにヒビが入るような感覚がして、その度に頭の中に”声”が響いてきた。
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あれ以上いったら暴発してしまいそうなイメージがあって、必死に抑え込んでいた。
つまり扱いきれない力は自分の力じゃないってこと。今のがオレの全力ってことか。とりあえず変なことにならないように気をつけないとだな。
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教室に戻ったのは昼休みが終わる少し前くらいの時間。今日も昼飯を食べ損ねた、と落ち込んでるオレをアルドルやユウイ、アカシが心配そうに取り囲んだ。
「レイ!だ、大丈夫か!?」「何の話をされたんだ!?」「まさか…退学とか…?」
などと口々に言ってくる。うるさ…。
「ちげーよ。…実はな…。誰にも言うなよ…?」
3人は息を飲み、うなずく。
「リゼ先生に『レイくん可愛いから食べちゃいたい~』って言われたんだ…!」
「「「解散ー。」」」
あれ?みんな?もうちょっと興味もってよ。ねぇ?
「レイ、さいてー。」
少し離れた所で聞いていた長い栗色の髪をポニーテールでまとめたアイリがジト目でこっちを見ている。
「アイリか。なんだよ…。聞いてたのか。」
「それだけ騒いでたら、嫌でも耳に入るよ?」
そう?うるさかった?すません。
と心の中で軽く謝罪した。
「…ねぇ、レイ。たまにはウチでごはん食べない?母さんが会いたがってて、さ。」
「イリーナさんがオレに?また急だな。」
「急じゃないよ?いつもレイの話ばっかしてるんだから。ね?お願い。」
「んじゃー行けたら行…」
「絶対来て!わかった?」
その質問してるようで、選択肢が一つしかないような聞き方やめて。
「わかったよ。でも、ちょっと遅くなるかもだから先帰って待っててくれ。」
「そうなの?すっぽかしたりしない?」
「用事があるんだよ。絶対に行くから。約束だ。」
「分かった。約束、ね。待ってるからね?」
そう言ってオレは自分の席に戻った。そして午後の講義が始まる。特別授業の時の奇妙な感覚、そして例の”声”、特殊任務のこととかが頭の中でモヤモヤグルグルして、いつの間にか居眠りしてしまった。
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いやいや、そんなこと言われてもさ。大体アンタ誰だよ。それに別にそんな強くなっても、使い道ないからな。
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たぶん、絶対に、ってどっちだよ。
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すっきり目が覚めると、外はすっかり夕焼けだった。講義が終わったことにも気づかずに寝てたらしい。教室に残るクラスメイトもまばらだ。ちなみにアルドルはまだ寝ている。お疲れ様だろうから、起こさないでおいてあげよう。
そしてオレは先生のところへ返事をするために、教官室へ向かうことにした。
あんまりうだうだ考えるのもめんどくさい。こーゆー結論は直感でさっさと出すのが一番だ。
教官室に入り、仕事をしている先生。オレに気付くと顔をあげた。
「早いですね。もう決めたのですか?」
普段通り無表情に近い先生の顔、いや目が少しキラキラと期待しているかのように見える。
「特殊任務、やってみます。」




