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灰色と虹  作者: あやね
第一章 赤い鳥の目覚め

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05 アイリとレイ

 昼休みになると朝の曇天は嘘のように空は綺麗に晴れ渡っていた。教室内にも気持ちの良い光が射し込んで、日の匂いが漂っている。

 しかし対照的に朝の曇天より暗くなってる人物が二人いる。そこの空間だけ切り取ったように暗い。

 その二人は”特別授業”からボロボロになって戻ってくるなり


「皆さん本当にすびばせんでじだ…。」


 と涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして謝罪をした。そしてその後は机に座り、俯いて影を落とし続けている。二人の周りだけ空気がジメジメしてキノコでも生えてきそうだ。


 リゼ先生にこってり絞られたようだけど、全然可哀想だとは思わない。だって

 昨日の惨状とそれを片付けさせられたクラスメイトから、事の顛末を聞かされたから。そして何故かわたしも軽く怒られた。


「アイリ、あんたがちゃんとレイの面倒見ないからこうなるのよ?」


 知らない。逆に何故わたしがレイを手懐けてると思うのだろう。レイはいつも自由気ままなんだもん。確かに幼なじみで、誰よりもレイとは付き合いは長いけど…。


 ________________


 初めてレイと会った時のことは忘れもしない。まだ7歳くらいだったかな?

 いつも一人で日が暮れても外で遊んでる少年がいた。特にどこかの学校に行ってるとかないみたいで、野良猫と戯れたり気ままに生きてるような子だった。その少年についてヒソヒソと噂をしている大人の目が、わたしは嫌いだった。聞きたくなくてもその噂の内容は耳に入ってきてしまう。

 なにやら親はいなくて、いつも一人で暮らしているとか、そこらへんのゴミを漁って生活をしてるとか。色々脚色して噂が広まっていたのだろう。


 それでもそんなことを全く気にとめる様子もなく、いつも飄々と外を出歩くその少年のことがわたしは気になってしょうがなかった。

 ある日、その少年のことを尾けてみたところ、ちゃんと家はあるようだった。


「なぁ。なんでオレのことつけてんの?」


 少年に話しかけられた。どうやら尾行はバレてたみたいだった。

 少年の目には敵意はなく、不思議なものを見る目でわたしを見つめていた。


「え、いや、その…。いつも一人でいるから、気になってて……。」


 理由?は今でもわからない。なんで尾行なんてしたんだろうか?

 でもわたしがそう言うと、少年はニカッと笑った。


「そーゆーことか!気になってるってことは、オレと友達になりたいってことだよな?いいぜ!今日からオレ達は友達な!」


 そう言って少年は手を差し出した。


「オレはレイ!お前は?」


「え?え…と、アイリ。」


 わたしは無意識にレイと握手をして、それからわたし達は友達になった。わたしは学校に通い始めたばかりで、あまり友達がいなかったので、レイとばかり遊んだ。

 レイは野良猫の手懐け方や、魚の釣り方など色々なことを教えてくれて、毎日学校終わりに遊ぶのが楽しみになっていた。


 だけどレイの事を良く思わない大人達は、わたしがレイと仲良くしていることに気付き、心配するフリをして有りもしない噂を流し始めた。レイがわたしをそそのかして、何か悪いことをしてるような感じだったと思う。それに気付いたレイはわたしを遠ざけるようになった。きっとわたしを気遣ってくれたのは分かったけど、物凄く悲しい気持ちになった事を覚えてる。

 そして噂は母の耳にも入ることになる。


「アイリ、話があるわ」


 母に呼び出されたわたしは怒られると思った。でもわたしだって怒っていた。

 みんなレイの何を知ってるの?わたしは知ってる。いつもわたしに優しくしてくれるし、楽しい遊びを教えてくれる。学校でなかなか馴染めないわたしの心を救ってくれたのはレイなんだ。頭ごなしに怒られるのは納得できない。

 だけど母の次の言葉は予想外だった。


「アイリが知っているレイ君のこと話してくれないかしら?」


 母はニコリと笑いながらわたしに言ってくれた。その母の笑顔で、何故かわたしは泣いてしまう。そしてレイのこと、デタラメな噂を流されて悔しいこと、とか色々話したっけ。母はわたしの背中をさすりながら黙って話を聞いてくれた。


 そしてわたしと母はレイの家に向かうことにした。その日は強めの雨が降っていた。レイの家に着いてチャイムを鳴らす。人気の感じがしない家からレイが出てきて、わたし達を見て驚いていた。


「あなたがレイ君、ね。いつもアイリと遊んでくれてありがとう。そして心無い人達の無責任な噂を止めることが出来ずに申し訳ないわ。」


 母はレイに深くお辞儀をした。当の本人は少し困ったような顔をしている。


「えー…と、アイリのお母さん?あの、なんかごめん。オレのせいでアイリが悪く言われてるみたいで…。」


「レイ!そんなの気にしなくて良いのに!わたしは別に…」


「とは言ってもさ。アイリが傷つくのは嫌だし…。友達だからな。というか、家に入る?雨もっと酷くなりそうだし。」


 レイの申し出にわたし達は素直に従い、お邪魔することにした。家に入った途端に、外の雨音が激しくなる。


「おうちの方はいないの?」


 と母が尋ねると、レイは飄々とした感じで答える。


「オレの母さんは死んじゃったからいないよ。んで父さんは仕事が忙しくてほとんど会ってないかなー。」


 ほとんど一人で暮らしているが、父親はたまに帰ってきて掃除など家事をしているとのことで、確かに家の中はキレイだった。食事は備蓄できる非常食のようなものを毎日食べていると。


「確かにこれで栄養は足りるけど…。毎日同じので大丈夫なの…?」


 母は心配そうにレイを見つめる。


「飽きないよ?それに父さんも一回飯作ってくれたことあるんだけど、それがまぁ、なんていうか…、悪魔味だったからさ。」


 とレイは苦笑いをする。

 一人でいて寂しくないのか?と聞いたら、そーゆーのはよく分からないとレイは答える。

 そんなレイを母は抱きしめて頭を撫でると、レイは少し恥ずかしそうにしていた。

 その日レイをわたしの家に連れてきて、皆でご飯を食べた。その時のレイの顔は忘れない。


「ごはんって温かいと美味いんだな!!」


 満面の笑みでそう言って勢いよく、食事を詰め込んでいた。それからレイはわたしの家でごはんを食べることになったが、気が引けるのか毎日来ることはなかった。


 そんなある日レイが大人の男の人と一緒に家に来た。そのドアを開けるやいなや、その男性は深くお辞儀をして謝罪をした。


「僕が不甲斐ないばかりに、ほんっとうに申し訳ございません!!」


 レイは最近わたしの家で晩ご飯のお世話になってると、レイのお父さんに話したそうだ。それを聞くとレイのお父さんは顔を真っ青にして、急いで手土産を用意してわたしの家に来たとのこと。とても誠実そうな人だなって思った。わたしと母とレイに謝り倒すレイのお父さんへ、わたしの母は優しく顔を上げるよう声をかける。


「レイ君から事情は聞いております。それに困った時はお互い様ですから。」


「はい!何かお困り事があれば、是非お力添えさせてください!!」


 そしてレイのお父さんは引き返していった。


 その後はレイも同じ学校に通うことになって、ケンカもしたし、わたしが他の男子にちょっかいをかけられて泣いてたらレイが助けてくれたりとか色々あった。いわゆる腐れ縁みたいな感じだ。


 レイは学校でも少し浮いてる存在だったな。

「今日すげー雨降るから傘持ってった方がいいよ」

「頭の中がざわざわするから、今日は嫌な事起こるかも」

 など変なことを言い出すのだ。しかしこの予感?みたいなものは必ず当たる。


「なんでか、こーゆーの分かるんだよ。でもさ、みんな同じように声みたいの聞こえるだろ?」


 と当たり前のように言う。


「そんな声みたいのは聞いた事ないし、たぶんそれはレイだけだよ?」


 と言ったら驚いていた。

 レイは他の人にも同様の質問をしたが、変な目で見られるようになったため、

 この話を誰かにすることはなくなった。

 でもわたしが危ない目に合いそうな時は、変な目で見られようと関係なく助けてくれた。

 レイと過ごす時間が長いせいか、彼の”予言”をすると、わたしも胸のどこかがザワつくようにそれを肯定する感覚になっていく。


 レイはわたしにとって、なんだか野良猫みたいな感じでほっとけない存在なのだ。

 これがわたしとレイの昔話。


 _________________


 そんな過去に思いを馳せていた。

 まだ昼休みは終わっていない。


 しかし何時までそうして消沈しているつもりなのだろう。食事もとっていないようなので、流石に心配になった。


「ねぇ。お昼ごはん食べないの?お腹すいちゃうよ?」


「「…ん?僕達のような人間が食事をとるなどおこがましいので」」


 レイとアルドルは息を合わせて答える。


「えぇ…。」


 凹みすぎでしょ。

 ここまでくると可哀想になってくる。見かねた他のクラスメイトも二人へ声をかける。


「な、なぁ。もう誰も怒ってないぞ?ずっとそうされてると気持ちわりぃからさ。いつものようにしてくれよ。」


「そうだぜー。そんな痛々しい感じでいられるとこっちも暗くなるしよ。」


 片付けのとばっちりを受けたユウイとアカシが二人を慰める。先生に徹底的に”教育”されたことを知って、皆も溜飲を下げた。


「…ん?んん…ほんとに…?もう誰も怒ってない?」


 アルドルが問うと、皆うんうんと頷いている。


「…ほん…と…?……よぉっしゃあ!!レイ!飯食いに行こうぜ!」


「…うるっさ!お前マジで情緒のネジどこかに捨ててきたんじゃねぇの?でも確かに腹減ったし飯行くかー。」


 元気を取り戻した二人は食堂へ行こうと席を立った。しかし無情にも昼休みの終わりを告げるチャイムがなり響く。


「「「「あ…。」」」」


 こうして午後の講義中、教室内にお腹の音を響かせ続けた二人はまたしても教官に怒られることになった。



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