05 アイリとレイ
昼休みになると朝の曇天は嘘のように空は綺麗に晴れ渡っていた。
教室内にも気持ちの良い光と、日の匂いが漂っている。
しかし対照的に朝の曇天より暗くなってる人物が二人いる。
二人は”特別授業”から戻ってくるなり
「皆さん本当にすびばせんでじだ…。」
と謝罪をした。
そしてその後は俯いて影を落とし続けている。
二人の周りだけ空気がジメジメしてキノコでも生えてきそうだ。
リゼ先生にこってり絞られたようだけど、全然可哀想だとは思わない。
昨日の惨状とそれを片付けさせられたクラスメイトから、事の顛末は皆知っている。
そして何故かわたしも軽く怒られた。
「アイリ、あんたがちゃんとレイの面倒見ないからこうなるのよ?」
知らない。逆に何故わたしがレイを手懐けてると思うのだろう。
彼は一言で言うと”自由”なのだ。
確かに幼なじみで、誰よりもレイとは付き合いは長いけど…。
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初めてレイと会った時のことは忘れもしない。
まだ7歳くらいだったか。
近所にずっと一人で暮らしてる子がいると噂になっていた。
家が近いため私と母で様子を見に行くことにした。
人気の感じがしない家から、少年が一人出てきた。
身なりは普通で虐待を受けているというのはなさそうだ。
本当に一人で暮らしているが、父親がたまに帰ってきて掃除など家事をしているとのことで、確かに家の中はキレイだった。
食事は備蓄できる非常食のようなものを毎日食べていると。
「確かにこれで栄養は足りるけど…。毎日同じので大丈夫なの…?」
とわたしの母が聞いた。
「飽きないよ?それに父さん忙しそうだし、あんまりわがまま言うのも悪いしさ。」
とレイは本当に何もツラくないような口調でニカッと笑った。
そして母親は死んでいないと話した。
寂しくないの?と聞いたら
「そーゆーのはよく分からない。」
あっけらとレイは答えた。
母はその日レイをわたしの家に連れてきて、皆でご飯を食べた。
その時のレイの顔は忘れない。
「ごはんって温かいと美味いんだな!!」
満面の笑みでそう言って勢いよく、食事を詰め込んでいた。
それからレイはわたしの家でごはんを食べることになったが、気が引けるのか毎日来ることはなかった。
しかしレイとは同じ学校に通うことになったため毎日顔を合わせた。
いわゆる腐れ縁みたいな感じだ。
たまにレイはおかしな事を言う。
「今日すげー雨降るから傘持ってった方がいいよ」
「頭の中がざわざわするから、今日は嫌な事起こるかも」
など、しかしこの予感?みたいなものは必ず当たる。
「なんでか、こーゆーの分かるんだよ。でもさ、みんな同じように声みたいの聞こえるだろ?」
と当たり前のように言う。
「そんな声みたいのは聞いた事ないし、たぶんそれはレイだけだよ?」
と言ったら驚いてた。
レイは他の人にも同様の質問をしたが、変な目で見られるようになったため、
この話を誰かにすることはなくなった。
でもわたしが危ない目に合いそうな時は、変な目で見られようと関係なく助けてくれた。
そんなレイとの関係がずっと続いている。
レイはわたしにとって、なんだか野良猫みたいな感じでほっとけない存在なのだ。
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そんな過去に思いを馳せていた。
まだ昼休みは終わっていない。
しかし何時までそうして消沈しているつもりなのだろう。
食事もとっていないようなので、流石に心配になった。
「ねぇ。お昼ごはん食べないの?お腹すいちゃうよ?」
「「…ん?僕達のような人間が食事をとるなどおこがましいので」」
「えぇ…。」
凹みすぎでしょ。
ここまでくると可哀想になってくる。
見かねた他のクラスメイトも二人へ声をかける。
「な、なぁ。もう誰も怒ってないぞ?ずっとそうされてると気持ちわりぃからさ。いつものようにしてくれよ。」
「そうだぜー。そんな痛々しい感じでいられるとこっちも暗くなるしよ。」
片付けのとばっちりを受けたユウイとアカシが二人を慰める。
「…ん?んん…ほんとに…もう誰も怒ってない?」
アルドルが問うと、皆うんうんと頷いている。
「…ほん…と…?……よぉっしゃあ!!レイ!飯食いに行こうぜ!」
「…うるっさ!お前マジで情緒のネジどこかに捨ててきたんじゃねぇの?でも確かに腹減ったし飯行くかー。」
元気を取り戻した二人は食堂へ行こうと席を立った。
しかし無常にも昼休みの終わりを告げるチャイムがなり響く。
「「「「あ…。」」」」
こうして午後の講義中、教室内にお腹の音を響か続けた二人はまたしても教官に怒られることになった。




