02 レイ ―日常の幕開け―
ある日の放課後。
もうすぐ夕焼けになりそうな色合いの日が差し込む教室。
残っている生徒はまばら。
オレもその中の一人。特にやる事もなく、窓辺で黄昏ていた。
何か起こりそうで、きっと大したこともない同じような毎日を繰り返していくんだろうな。
「なぁレイ。ちょっと聞いてくれよ。」
そいつは幽霊みたいに急に背後から話しかけてきた。
その話しかけ方やめて欲しい。
「お?アルドルか。どうしたんだ?」
背丈は180cmを超え、ガッチリした体格をした男の顔はこの世の終わりのような表情をしている。
普段は堂々とした奴なのだが、
今はつつけば崩れ落ちてしまいそうな様子だ。
これは…ただ事ではない。
「最近俺が気になってた子、知ってるよな?」
「あー、モネって子だろ?そいつがどうかしたのか?」
モネは同じクラスの桃色の髪で大きなクリっとした目と小柄な子だ。
大人しめだが、可愛らしい見た目をしている。
なんというか守ってあげたくなる感じ?
アルドルはモネのことが好きらしく、よく遊びに誘っていたようだった。
「最近よく遊ぶようになって、良い感じになったと思ってたんだよ。でな?もうそろそろ告白しても良い頃合いかと思って、勇気を振り絞ったんだよ。」
「それは…つまり...!打ち明けたのか…?お前の気持ちを…!!」
「あぁ…だけど…ダメだったよ…」
枯れてる。もはやコイツは枯れてる。
そりゃあそうもなるか。
「なんで振られたんだ?良い感じだったんだろ?」
「ちゃんと理由は聞いたよ。『 なんというか…神々しくて…わたしなんかじゃ釣り合わないと思うから』だってさ…。
なんだよ神々しいって!!神々しいなら良いじゃないか!モネちゃんだって女神みたいな可愛さだから釣り合うはずだろ…」
アルドルは力なく机に突っ伏し肩を震わせた。
「あー、お前のバカさ加減が神がかってるって意味じゃないか?めちゃくちゃソフトな言い回ししてくれたんだな。優しい良い子じゃん!」
「……ふ、フフフ」
「ハハ…」
「「あーはっはっは!!!」」
どうやら元気が出たみたいだ。良かった。
「ぶっ飛ばすぞてめぇ!レイ!」
あ、キレてたのね。
「いいぜ、かかってこいよ。返り討ちにしてやるよ。」
まぁどっちにしろ元気になったのは間違いなさそうなので良かった。
程々に相手しとくか。
「やべぇ!また問題児二人が暴れだすぞ!逃げろ!」
残っていた少数の生徒は慌てて教室を出ていった。
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互いに教室に無造作に立て掛けてある武器を手に取り、きれいに並べられている机へ飛び乗る。
武器…といっても俺の背丈程の細い棍棒のようなもの。
俺達は学生のため殺傷能力のある武器を扱うことは許可されていないため、この”警杖”のみ許可されている。
強く踏み込み、素早く警杖を突き出す。
そのまま連続の突き、薙ぎ払い。
攻撃の軌道が激しく空を斬る音を立てた。
俺はそこそこ体術は優れている方だと自負しているが、レイの体術は更にその上をいく。
いや、なんだろうな。強いには強いが手合わせをしていると変な感覚になる。
激情に任せ放った攻撃はそのどれもが悉く躱されてしまう。
そして驚くべきなのは、レイは最小限の動きでそれを行い、最初に乗った机の上から移動していないということだ。
「ほらほらどうしたアルドル!頭に血ぃのぼりすぎじゃねえのか?攻撃が単調だぜ!」
レイは腕を広げ、当ててみろと挑発するようなポーズでヘラヘラと煽ってくる。
「っ!確かにそうかもな。ここからは冷静にいくぞ。」
その誘いにはのらない。
登り切った血を下ろすようにレイを見据え集中する。
さっきより攻撃のバリエーションを増やす。攻撃の方向性を計算し、さらにフェイントも織り交ぜる。
身体の動きに矛盾が生まれるよう追い詰める。
そこら中にある机や椅子を投げ、机の中から飛び散る教科書などで視界の情報量を増やす。
盤上の隅に追い詰めるように冷静に計算する。
その瞬間的に空中に発生させた机や椅子の密林の影から攻撃を仕掛けたりもした。
やっとレイは机から机へ移動し回避行動を取り始める。
しかしレイに攻撃は届かない。
フェイントにも何故かひっかかってくれない。
背後からの攻撃すら避けられる。
目で追って躱している、というよりはまるで次の攻撃がどこにくるのかが分かっているかのような動きなのである。
「なんで?後ろに目ぇついてる?」
「さぁ?なんでかこーゆーの分かるんだよなー。」
もはや勘の範疇を超えている。
レイは攻撃の後に生まれた隙を狙い攻撃をしかけてくる。
しまった…。
レイは巧みに逆光になる位置までオレを誘導し、視界は白む。
ヤバい……!
その大きな隙を見逃してくれるはずもなく、レイは俺に連撃を放つ。
激しい攻撃の嵐を捌ききれずに、仰向けに倒れてしまった。
起き上がろうとする俺の眼前に警杖をつきつけ、「オレの勝ち」と言わんばかりの不敵な笑みをうかべ、俺を見下ろすレイ。
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「なぁレイ…俺達って親友だよな?」
「おー、そうだなー。」
「こんなにボコボコにする必要ある?俺、もう心も身体もボロボロだよ?」
アルドルのタフネスは同期の中でも郡を抜いている。
また攻撃も大雑把のようで繊細だ。
実戦ではないにしても、直撃したらかなりのダメージを受けていたはずだ。
先程まではオレンジ色の夕日だったが、今は赤に近い色味になっている。
あと程なくしたら日は完全に落ちるだろう。
オレは横たわるアルドルに手を差し伸ばした。
「悪かったよアルドル。でも暴れてすっきりしたろ。腹減ったしなんか食いに行こーぜ!」
アルドルはオレの手を掴み立ち上がると、
制服の汚れを払い落とした。
「だな。もちろん奢ってくれるよね?」
「ふざけんなぁ。金ないっての。」
などと軽口の応酬が続く。
さて、と教室を後にしようかと思った瞬間
―◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼!?◼◼◼◼◼◼◼◼◼!!?―
頭の中に声のようなものが響く。
なんというか言葉じゃなくて意味だけが流れ込んでくるような…。
「……!!やばい。アルドル早く行った方が良さそうだ。」
「なんだ?またあれか?」
「これは警報級だ。早く逃げるぞ。」
そうしてオレとアルドルはそそくさと学校を後にするのだった。




