02 レイ ―日常の幕開け―
もうすぐ夕焼けになりそうな色合いの日が差し込む教室。等間隔に綺麗に並べられた机。放課後のため残っている生徒はまばらだ。オレもその中の一人。
特に何かやる事もなく、窓辺で黄昏ていた。何かが起こりそうな予感がして、毎日こうしているけど、きっと大したこともない同じような毎日を繰り返していくんだろうな。
そう、多感な時期ですからね。こうやって夕日に照らされてカッコつけたくなるんですよ。現にちょっとはイケてると思う。誰もオレのこと見てないけど。
「なぁレイ。ちょっと聞いてくれよ。」
そいつは幽霊みたいに急に背後から話しかけてきた。その話しかけ方やめて欲しい。
「お?アルドルか。どうしたんだ?」
背丈は180cmを超え、青色の短髪、ガッチリした体格をした男はこの世の終わりのような表情をしている。
普段は堂々とした奴なのだが、今はつつけば崩れ落ちてしまいそうな様子だ。
こりゃ…ただ事ではないな。
「最近俺が気になってた子、知ってるよな?」
「あー、モネって子だろ?そいつがどうかしたのか?」
モネは同じクラスの桃色の髪で大きなクリっとした目と小柄な子だ。大人しめだが、可愛らしい見た目をしている。なんというか守ってあげたくなる感じ?
…なんだけど、普段どこで何してるかとかいまいち印象は薄いんだけど。
アルドルはモネに惚れていたらしく、よく遊びに誘っていたようだった。あまりにも露骨な態度だったからな。相当本気で惚れていたのが分かる。
「最近よく遊ぶようになって、良い感じになったと思ってたんだよ。でな?もうそろそろ告白しても良い頃合いかと思って、勇気を振り絞ったんだよ。だってよ、週2~3回は飯食いに行ったり、放課後どっか遊びに行く仲だったしな。嫌いな奴とはそんなに遊ばないと思うだろ?」
「それは…つまり...!打ち明けたのか…?お前の気持ちを…!!」
「あぁ…だけど…ダメだったよ…」
あれ?見間違いかな?どんどん身体が萎れて…。もはやコイツは枯れてる。
そりゃあそうもなるか。ちょっと可哀想だが、フラれた理由が気になる。
「なんでフラれたんだ?良い感じだったんだろ?」
「ちゃんと理由は聞いたよ。『 なんというか…神々しくて…わたしなんかじゃ釣り合わないと思うから』だってさ…。
なんだよ神々しいって!!神々しいなら良いじゃないか!モネちゃんだって女神みたいな可愛さだから釣り合うはずだろ…」
アルドルは力なく近くの椅子に座る。そして机に突っ伏し肩を震わせた。
大男がウオンウオンと獣のように泣く姿は異様だった。まばらに残ってるクラスメイトもこちらに注目し始めた。
神々しい…か。
「あー、もしかしてさ、お前のバカさ加減が神がかってるって意味じゃないか?だとしたらめちゃくちゃソフトな言い回ししてくれたってことか。優しい良い子じゃん!」
オレはフォローを入れると、突っ伏したままのアルドルが、泣くのをピタリと止めた。
「……ふ、フフフ」
「ハハ…」
「「あーはっはっは!!!」」
どうやら元気が出たみたいだ。良かった。
「ぶっ飛ばすぞてめぇ!レイ!」
あ、キレてたのね。
瞬間湯沸かしよろしく、アルドルは立ち上がり、今にも飛びかかってきそうな勢いだ。
「いいぜ、かかってこいよ。返り討ちにしてやるよ。」
まぁどっちにしろ元気になったのは間違いなさそうなので良かった。程々に相手しとくか。
「やべぇ!また問題児二人が暴れだすぞ!逃げろ!」
残っていた少数の生徒は慌てて教室を出ていった。
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俺とレイは教室の後方に立て掛けてある武器を手に取り、きれいに並べられている机へ飛び乗る。
武器…といってもレイの背丈より少し短い程度(170cm)の細い戦闘用棍棒”警杖”だ。
俺達は学生のため殺傷能力のある武器を扱うことは許可されていないため、この警杖のみ許可されている。もちろん団員も基本的にはこの警杖を使い制圧を図るらしい。
俺達は机三つ分、数メートルの間合いをとる。俺は警杖を両手で持ち攻撃姿勢を取るが、レイは余裕そうに警杖を肩に担いだまま俺を見ている。
その余裕そうな態度もすぐに崩してやる!そんな感情のまま、強く踏み込み、素早く警杖を突き出す。そのまま連続の突き、薙ぎ払い。びゅっ!と攻撃の軌道が激しく空を斬る音を立てた。
俺はそこそこ体術は優れている方だと自負しているが、レイの体術は更にその上をいく。
いや、なんだろうな。強いには強いが手合わせをしていると変な感覚になる。
激情に任せ放った攻撃はそのどれもがことごとく躱されてしまう。
そして驚くべきなのは、レイは最小限の動きでそれを行い、最初に乗った机の上から移動していないということだ。
「ほらほら!どうしたアルドル!頭に血ぃのぼりすぎじゃねえのか?攻撃が単調だぜ!」
レイは腕を広げ、当ててみろと挑発するようなポーズでヘラヘラと煽ってくる。本当に腹が立つ仕草だ。もっと俺を怒らせて力任せに攻撃をさせ、その隙を撃つつもりだろう。たぶん。それともナチュラルに煽ってるのかもしれんが。
「っ!確かにそうかもな。ここからは冷静にいくぞ。」
その誘いにはのらない。登り切った血を下ろすようにレイを見据え集中する。
さっきより攻撃のバリエーションを増やす。攻撃の方向性、レイの避ける方向を計算し、さらにフェイントも織り交ぜる。身体の動きに矛盾が生まれるよう追い詰める。
ようやくレイは最初の机から飛び移るように、攻撃を回避し始めた。その顔は楽しそうに笑ってやがる。
少しずつレイの逃げる方向の選択肢を削るように追い詰める。そこら中にある机や椅子を投げ、机の中から飛び散る教科書などで視界の情報量を増やす。
盤上の隅に追い詰めるように冷静に計算する。宙に舞う机や椅子の密林の影から攻撃を仕掛けたりもした。
しかしレイに攻撃は届かない。フェイントにも何故かひっかかってくれない。レイの背後に回って攻撃しても避けられる。
目で追って躱している、というよりはまるで次の攻撃がどこにくるのかが分かっているかのような動きだ。
「なんで?後ろに目ぇついてる?」
「さぁ?なんでかこーゆーの分かるんだよなー。」
もはや勘の範疇を超えている。悔しいが圧倒的な格上感を認めざるを得ない。レイは攻撃の後に生まれた隙を狙い攻撃をしかけてくる。
しかし、だからといって負けを認めるわけにはいかない。
レイの攻撃は間一髪で受け止める。その度に強烈な衝撃が警杖越しに身体に響いてくる。そんな攻防を続けているうちにとうとう、机の足場はなくなった。オレ達の周りに円を描くように机は散乱し、いくつかの机の脚は折れているようだ。
ギィ!ギィィ!!という戦闘音が教室内に鳴り響く。
なんとかレイを押してきている。レイも俺の攻撃を受けるが、ダメージを分散させるために後ずさりしている。力では俺の方が少し勝っているようだな。
そしてとうとう窓際まで追い詰める。これで終いだ!と警杖を振り上げた時に俺はレイの企みに気づいた。
レイは巧みに逆光になる位置まで俺を誘導していたらしい。俺が武器を振り上げた瞬間にレイはしゃがむ。ちょうどこの時間の夕日は強く、それが目に直撃してしまった。視界は白む。
ヤバい……!
その大きな隙を見逃してくれるはずもなく、レイは俺に連撃を放つ。激しい攻撃の嵐を捌ききれずに、何発かもろに胴体へ突撃を食らってしまった。そして仰向けに倒れたが、急いで起き上がろうとする俺の眼前に警杖をつきつけ、「オレの勝ち」と言わんばかりの不敵な笑みをうかべ、俺を見下ろすレイ。
クソ…。また負けた…。
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「なぁレイ…俺達って親友だよな?」
「おー、そうだなー。」
「こんなにボコボコにする必要ある?俺、もう心も身体もボロボロだよ?」
アルドルのタフネスは同期の中でも群を抜いている。また攻撃も大雑把のようで繊細だ。直撃したらかなりのダメージを受けていたはずだ。だけど、何回か手合わせ(喧嘩)しているから、大体の攻撃のクセは掴んでいる。それでも毎回新たな戦術を出してくるから、楽しくてたまらないと言うのが本音だったり。
先程までは強いオレンジ色の夕日だったが、今は赤に近い色味になっている。あと程なくしたら日は完全に落ちるだろう。オレは横たわるアルドルに手を差し伸ばした。
「悪かったよアルドル。でも暴れてすっきりしたろ。腹減ったしなんか食いに行こーぜ!」
アルドルはオレの手を掴み立ち上がると、制服の汚れを払い落とした。
「だな。もちろん奢ってくれるよね?」
「ざけんな。んな金ないっての。」
などと軽口の応酬が続く。
さて、と教室を後にしようかと思った瞬間
―◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼!!◼◼◼◼◼◼◼!!―
頭の中に声のようなものが響く。
なんというか言葉じゃなくて意味だけが流れ込んでくるような、なんつーか信号みたいな…?
「やばい。アルドル早く行った方が良さそうだ。」
「なんだ?またあれか?」
「これは警報級だ。早く逃げるぞ。」
そうしてオレとアルドルはそそくさと学校を後にするのだった。




