19 団長の苦悩
色黒で口周りや顎に髭を生やしているスキンヘッドのいかつい男性。団長と呼ばれるのにも納得のオーラを放っている。
ノルバスはなるべく冷静に努めた。自分自身を褒め讃えたいくらいには努力しているのだろう。
リゼによるアカデミー生の特殊任務への参加。チームメンバーの誰もがそれを止めずに戦闘に参加させていたこと。
緊急で発生した追加任務については本部指示を仰がずに受注したことなど…。数えればキリがない。
ノルバスは自身の首や名誉などには固執していない。何より団員の安全を第一に考えている。今回の件はノルバスの方針から大きく外れた危険なものだった。
「あのー、なんでオレまで呼び出しくらってるの…?もしかして褒められるのかな?やっぱり今回の任務はオレがMVPだよね?」
今回の件の異分子がコソコソとエリに話しかけていた。異様に静かな部屋では小声でさえも筒抜けである。
エリは緊張していたところに、間の抜けたことを言われ思わず吹き出してしまう。
我慢していたノルバスの怒りが爆発し、部屋の温度が瞬間的に上昇した。
「お前らな…!!今回のことで俺がどれだけ胃を痛めたのか分からないのか!?」
「…胃薬!胃薬持ってこないと…!!」
ノルバスがマジ切れした事に動揺したレイは、更に煽るような発言をする。これにはシアナも吹き出した。冷静なリゼですら下を向き笑いを堪えている。
ブツンとノルバスの何かが切れる音がした。そしてこの後、一時間以上にもわたる説教をうけることになったのである。
「全く…。今回は一応は任務完了できたから良かったものの…。ディアンのことについては…何と言ったらいいか…。」
怒りを発散しきって萎んだノルバスは椅子に脱力したように座る。
「お言葉ですが今回の受注した任務について何とかなったのはレイの尽力のおかげです。私の独断の正当性を訴えるわけではないですが、この事実だけは無視できないかと。」
「そうですよ!レイ君すごく強いんですよ!あの戦いっぷりを見たら団長も文句言えないですよ?生意気だけど。」
「私もこれには賛同します。レイがいなければ追加任務を受ける前に全滅してもおかしくなかったかと。」
反撃を受けたノルバスもむぅ…と怯む。ノルバスもその事自体は理解しているのだ。
レイ…一体何者なのだ?
やけに堂々とした態度、それを裏付ける実力。今回の特殊任務についての報告レポートを確認した際に抱いたことは、一言で表すと”何もかもが異常”だ。
シノビの襲撃については予想していた。問題は追加任務の方だ。奴らの本拠地の里へ赴かせるなど…。数人の手練の団員を、その数十倍もいるかもしれない戦闘集団とぶつけさせるのは自殺行為でしかない。
しかしシノビの里はもぬけの殻だったと? この事態になることが分かっていたかのようだ。
しかし問題はその異常事態を起こした者との戦闘に関しても、これも明らかに自殺行為なのだが…。
その任務をこなした主役であるレイ。この問題は明らかに次に起こるであろう異常事態を示唆している。間違いなくこの少年も、その事件に巻き込まれていくのだろう。それを望まぬ自身の気持ちとは裏腹に世界はそれを選択するのか。
ノルバスは苦悩した。
区民の安全、街の治安維持は大切だ。そして団員の皆のことも家族のように思っている。過保護かもしれないが誰にも傷ついて欲しくなどない。自身の団長としての権限でどこまで皆を守ってあげられるのか。
しかし子は成長し、いつか旅立っていくものである。
「…とにかく、今後はもっと冷静に、慎重に行動するように。分かったな…?分かったのであれば行ってよろしい。」
皆、長時間の説教を受け疲れたのだろう。反論せずに頷くと退室していった。
ノルバスは椅子に深く腰掛けたまま無機質な天井を見上げ、深くため息をついた。




