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灰色と虹  作者: あやね
第一章 赤い鳥の目覚め

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17 任務完了

 オレは少女を見据えながら思考を巡らせていた。


 カッコつけてコイツの相手をすることになったけど、内心涙目です。

 だってさっきノラクトが吹き飛ばされた瞬間とか全然見えてなかったんだもん。

 何アレ?戦って勝てるイメージが湧かないんだけど…。あと首だけぐるって回して見られるのも、気持ち悪くて嫌だったな。

 正直もう任務を諦めて帰りたかったけど、そんなこと言える空気じゃなかった。

 というか帰り道分かんないし…。


 なんか皆すごいキラキラした目でオレのこと見て、やる気出してるしさぁ。まぁオレがカッコつけたせいなんだけど…。

 警杖は手汗でびっしょりだ。

 でも責任とらなきゃなー。急にすごい力が目覚めてくれないかなー。

 ため息をついて微動だにしない少女を見る。

 こうしててもしょうがないし、とりあえず待つより攻撃してみようかな。



 そして強く踏み込み自身最速の突きを放つと、警杖がビリビリと空気を斬り裂く音を響かせた。

 間合いを瞬時に詰める、その極めて細い時間の中で奇妙な感覚が発生していた。


 -少女は難なく回避し、攻撃直後のオレの隙を狙い反撃-


 そんな少し先に起こる映像が、未だ涼しい顔をして佇む姿に重なるようにして視える。反撃される未来を回避するべく、攻撃の勢いを落とさないようにカクンと軌道をずらす。

 少女は避けきれなかったようで、片腕で攻撃を受け止めた。

 激しい衝撃波が砂ぼこりをあげる。

 腕には大きくヒビが入り変な方向に曲がっているが、少女の表情からは苦痛は感じない。


 は?人間離れしてると思ってたけど、ホントに人間じゃないってか?

 というかなんだ…?少し先の姿が重なって見える…?

 もしかしてホントに新しい力に目覚めちゃった?自分で願っておいてなんだけど、急にそんなことされても困る。だって扱いきれなきゃ死ぬかもしれないし。

 この奇妙な感覚に蓋をするように念じる。


 再び警杖で突きを放つ。

 今度はさっきみたいな感覚は現れなかったが、攻撃は横へ回避される。

 追うように薙ぎ払うが、空中へ回避された。

 すかさず警杖を支えにして蹴りの追撃を行うが、後方へヒラリと避けられ空振り。

 空中に無防備に浮いている身体にズムっと強烈な衝撃が走り吹き飛ばされる。


「うぐぉぉ…いってぇ…」


 べしゃっと無様に転がり落ちた。

 やっぱ速すぎるな…。でも軌道を捉えることはできた。

 身体を立て直すが、その隙を逃すわけなく少女ら追撃を加えようとしてくる。

 無意識に先程の奇妙な感覚が蘇る。

 奴は鋭い右ストレートを繰り出している。攻撃予測地点のギリギリ当たらない位置へ移動し、伸び切った上肢のつけ根部位へ警杖を振り下ろす。

 べキィッ!という関節が潰れる音がし、右腕は力なく重力に従うようにぶら下がっている。

 綻びが生まれたならチャンス。

 次は右脚のつけ根部位の関節を破壊し、少女は立てなくなり仰向けに倒れた。


「よし...!制圧完了!」


 良かった…。なんとか勝てた。


 向こうではちょうどディアンの制圧が完了したようだ。

 ノラクトがディアンを見下ろして涙を流している。

 短警杖を強く握りしめている…。

 一瞬目を離した隙に動けないはずの少女が素早い動きでノラクトの方へ向かう。

 標的を変えたのか…?

 対象へ向かう軌道中に落ちていたディアンの刀を素早く拾い、剣をつきたて心臓部位を貫こうとする構えをとっている。

 オレは追いかけるが間に合わない…!


 ノラクトはまさに胸を貫かれそうになる瞬間に少女に気付いたようだ。しかし体は反応が間に合わない。

 その時、制圧されていたはずのディアンがノラクトを突き飛ばし身代わりに胸を貫かれていた。

 まばたきさえ許されない瞬間の出来事だった。


 ディアンはサラサラと崩れる砂山のように存在が消えていきそうになっている。しかしそれでも自身を貫く刀を握りしめて離さない。

 まるで時が止まったかのように、オレ達はその光景をただ眺めていた。


「…最後は…お前達の仲間として死なせてくれ…。ノラクト…本当に勝手なんだが、俺はお前のことを親友だと思ってる…。元気でな。」


 そう言い残すときらめく細かい粒のように散り消えていった。


「…ディアン!!!」


 そして時は再び動き出す。ノラクトは少女の方へ突っ込む。怒りで顔を真っ赤にしている。携えていた大きめの剣で少女の持つ刀を弾き飛ばした。

 剣を手放した少女は有り得ない方向に曲がった腕でノラクトへ連打を放つ。

 ノラクトの構えている剣が無惨に砕け、激しい殴打がノラクトを襲うがその全てをその身一つで受け止め、少女を引き付けている。そして横目でオレを見る。

 今だ…!と語りかけている。


 わかってるさ。

 ノラクトと少女の間に滑り込むように割り込み、長警杖を少女の顎めがけ打ち上げる。

 バキィ!とヒビが入る感触が警杖越しに伝わる。

 そして怯んだところに、すかさずもう1発頭頂に思い切り警杖を振り落とす。


 完全に砕ける音がした。そしてその少女の姿をした人形の動きは完全に止まった。


「ノラクト!!大丈夫か!?」


 ノラクトは強烈な攻撃を受けて倒れた。死んではなさそうだけど重症なのは間違いない。


「レイ…!良くやった…!」


 そう言うとノラクトは気絶してしまった。


 __________


 ボロボロになった人形を引き渡し、任務は完了。引き渡しの際はあの追加任務をお願いしてきた若い人が対応していた。文句の一つでも言おうかと思ったけど、先生が背中をつねってきたからやめた。


「お疲れ様です。今回の任務において機密事項に触れてしまったことについては目を瞑りますが、決して他言しないようお願いします。」


 えらそうにしやがって…。

 そうして胸糞悪い気分を抱えたオレ達は中央を後にした。フェニックス本部へ戻る車内ではみんな疲れてる様子で空気はどんよりしている。


「なぁ先生。特殊任務って毎回こんな感じなのか?」


「…今回は特別すぎました。こんな危険な目に合わせるつもりはなかったのですが…。本当に申し訳ないです。それとレイがいてくれたおかげで助かりました。」


「…。あの人形ってなんなんだろな?というかあんな物騒なもん持ち込んで、何するつもりだったんだ?」


「分かりません。私達は機密事項に触れることは許されないので、この話題はタブーです。」


「なんかさ。そんなんでいいのか?」


「…。すみません。考える事が多すぎて…。私は少し休みます。レイも疲れてるでしょうから少し寝なさい。」


 …。

 寝れねーっつーの。


 __________


 メガリア合衆国からの来賓は壊れた人形を回収し、本国への帰途の船旅についていた。


「まったく…。ヒヤヒヤしたものだよ…。一応の友好国であるからこそ、これを材料に技術交流を図ろうと思ったのだがね。まさか壊されてしまうとは。なぁそう思うだろ?」


 男は今回の遠征が無駄に終わってしまったことを一人嘆く。

 生物ではないのだから、反応など期待していない。壊れた人形に語りかける。


「えぇ。全くその通りですわ。」


「!!」


 反応しないはずの人形が答えた。

 ぐちゃぐちゃに壊れたはずの…。

 一回瞬きをしただけなのに、人形だったはずのそれは美しい女性の姿になっている。


「なんだ君は!一体…。」


「ずっと一緒にいたのに失礼ね。私の名前は…そうね。リリスよ。とは言っても貴方は二度と私の名を呼ぶことはないけれど。」


 そう言って可愛らしくクスクス笑うリリスに見惚れた男は、砂のように崩れて消えていった。


「これでやっと”動き出せる”わ」


 この日ヒャクヤ国からメガリア合衆国に向けて出向した船は消息不明となった。


 __________


 特殊任務を終えて、またアカデミーの生活に戻る。


 平和はやっぱりいいな。

 アルドル達は数日の不在を心配して、なにがあったのかを根掘り葉掘り聞いてきたが何も言えねー。つれー。


 アイリはもじもじしながら、オレをチラチラみている。放課後になっても席から動こうとしない。


「いや、もうチラチラ見すぎだから。普通に声かけて?」


「だって…。あの時ひどいこと言っちゃったし、怒ってるかなって…。」


 なんか言われたっけ?


「あ、そうだ。今日さ、ご飯食べに行ってもいいか?急でなんだったら別の日でもいいけどさ。」


「え?いいよ!むしろ来て!」


 アイリの機嫌が治ったみたいで良かった。



 そして急に訪問したのにも関わらず用意してもらった豪勢な食事を平らげた。

 たった数日だが非常に長く感じた。そしてイリーナさんの美味しい食事は特殊任務で受けた胸糞悪さが晴れるようだ。

 満腹で眠たい。

 …いや、今日はちゃんと伝えなきゃいけない事があるんだった。


「アイリ、イリーナさん。…あのさ、オレのこといつも気にかけてくれてありがとな。あと今までずっと世話になったのに何もしてなかったからさ、これ。」


 アイリにはネックレスを、イリーナさんには髪飾りを渡した。


「え、これどうしたの?」


 アイリは戸惑っている。ネックレスを胸にあて顔は心なしか赤い。

 イリーナさんはなんか涙ぐんでるし…。


「今回の任務で報酬もらえたからさ。その…二人には感謝してるし、その…。」


 やべ…恥ずかしくなってきたぞ。


「んじゃあまぁ!そーゆーこと!また明日な!」


 気まずくなってオレはアイリの家を飛び出した。

 つっても明日顔合わせるんだけどなー。

 先延ばしするオレの悪い癖だな。


 そんな事を考えながら、また明日からの事に想いを馳せる。


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