16 錯綜する思い
俺はシノビの里の落ちこぼれだった。
身体能力は普通だが、心を冷徹にできない。人を殺めることができない。
そんな中途半端なシノビはどこのチームからもお払い箱だった。
そして単独で警護団アカデミーへ潜入するという任務を名目に里からも追い出された。里から出る時でさえ、俺を気にかける者など皆無であった。
別にそれはそれで俺も気が楽だった。
里では落ちこぼれでもアカデミーではそれなりの成績だったし、尊重し合える仲間も出来た。
もうずっとこのままでいいんじゃないか…?
しかしあくまでこれは任務。仲間からは物静かな奴だと言われたが違う。
これ以上仲良くなってしまったら、もし警護団を離れる時が来たら俺の心は壊れてしまうだろう。
だからせめてもの抵抗だった。
俺は一体誰を裏切り、誰のために生きて、何を為すための存在なのだ?
心はとっくに壊れているのかもしれない。
今回の任務を告げられた時は心の崩壊が止まる安堵と、引き裂かれるような胸の痛みを感じた。
少女を攫い、里に戻るなんて簡単な任務だ。
でも誰か褒めてくれるかな。いやたぶん俺のことを覚えてる奴など誰もいないだろうな。
ノラクト達と任務を達成した時の喜びや皆の輝かしい笑顔を思い出す。
俺もあの時は皆と一緒に輝けていたかな。
里に着くなり、”月”のリーダーであり里の長の屋敷へ真っ直ぐに向かう。
「ご苦労だった。もう下がっていいぞ。」
その男は俺に目もくれずに言い捨てた。
まぁいいさ。さて…これからどうしようか…と思った矢先に異変が起きた。
ドサ…と気付けば男が崩れ落ち、俺の腕は赤く染まっていた。
何が起きたのか理解するより先に視界が赤く染まる。
そこからはただ目を背けたくなる光景を眺め続けた。
いや眺めるだけだったらまだマシだった。
なぜならその残忍な行為を行うのは俺で、人を殺める感触や相手の悲鳴、恐怖に慄く顔、息が詰まるような匂いが喉の奥に張り付くようだった。自身の最も望まない所業を五感で受け止め続ける地獄。
里の周囲の森にはいつの間にか火の手が上がっており、誰も逃げられない。
そして気付けば誰もいなくなっていた。
少女は殺された者達の命を喰らっていた。
俺は操られているのだろう。少女が何をしているのか、理解出来ないが理解出来た。
肉体を喰らうのではなく命?魂?みたいなものを取り込んでいる。
喰らわれた者達の人の形が音もなく崩れて消えていった。
そうして里にいる100名余りが跡形もなく消えた。
どのくらいそうしていたのか、里の演習場で俺達はただ立ち尽くす。
そこに駆けつけてきた見知った顔を観た瞬間にやっと意識が途切れてくれた。
しかし安心したのも束の間、得体のしれない力が身体に流入してきたのを感じる。操り人形と化した自身がかつての仲間に襲いかかる。
リゼとノラクトが攻撃を受け止める。
「お前…!どうしたんだよ…!」
ノラクトは歯を食いしばり、泣くのを堪えているような怒っているような顔をしている。
ごめんな。俺はもう…。
「ノラクト。情を捨てなさい。本気でやらなければ全員死にます。誰も救えないわ。」
リゼ…。ありがとう。
シアナとエリが援護射撃を俺に撃ち込む。
素晴らしいコンビネーションだ。しかし銃弾が直撃するも身体は止まらない。
「ディアン!あんた正気なの!?目を覚ましなさい!」
「あなたには説明責任があるわ。ちゃんと連れ帰って理由を聞かせてもらいます…!」
すまない…。おそらくそれは無理だ。
俺はここで死ぬ。
俺の体はとにかく攻撃を繰り出す。防御無視で放つ打撃は強烈。
ノラクトの構えた小盾を殴打し自身の骨も一緒に粉砕し、ノラクトを吹き飛ばす。痛みももはや感じない。
銃弾を受けた脚で蹴り上げるようにし放った蹴撃は激しく空を切る音を放ち、リゼの構えた拳銃を遥か彼方の空へ吹き飛ばす。
蹴撃の際のついでに舞った小石は銃弾のように皆へ襲いかかっている。
しかし次第に身体が動かなくなる。
ノラクトが振り下ろした警杖の一撃が決め手となり、俺は地に伏したのだった。
「ディアン…。」
ノラクトは涙を流している。その雫が俺の顔にかかる。
バカだな…。その涙はリゼに振られた時にとっておけよ。
そんな冗談を伝えたいが、もはや声も出ない。
今日は空が青いな…。
故郷に似つかわしくない青空を見上げ意識が遠のいた。




