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灰色と虹  作者: あやね
第一章 赤い鳥の目覚め

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13/20

13 これまでとこれから

 その後、私は急いで里へ戻る。

 里にはまだお母さんがいる。”月”が私達を排除しようとしてきたってことは、お母さんの命も危ない。

 里に戻ると、案の定”月”による新体制に賛同しない者の排除が行われていた。

 賛同する者は歓迎され、そうでない者の家は燃やされて、血を流して倒れている者もいる。里内は大混乱だ。

 お母さんは…。


「おい、リン…!こっちだ。」


 マルがお母さんを抱えている。ワジは負傷した様子で傷の手当てをしている。


「嫌な予感がしてな。なんとか間に合って良かった。」


「よし。リンとも合流出来たし、ここを離れるぞ。」


 ワジはそう言うが、行く宛なんてあるんだろうか。そんな私の心の中を読んだかのようにマルが苦笑いをする。


「まぁどこかで村を開拓して、静かに暮らすのも悪くないかもな。」


「残念だが、それは叶わんな。誰も逃がすなと言われている。」


 “月”の男に見つかってしまった。


「ちっ。長居しすぎた…!…しょうがないな。ここは俺が請け負うさ。行け。」


 ワジがあの時の父さんみたいな事を言う。


「…あの人は俺の憧れなんだ。あの人と同じように死ねるなら本望さ。」


 ワジは”月”の男へ突っ込んでいく。その隙に私達はその場を急いで離れた。


 それから私とマル、お母さんで森を抜け中枢を経由しない道でノトス区を目指した。ノトス区には大きいスラム街があると聞いている。そこなら潜伏しやすいと考えたのだ。

 しかし”月”の追手は思っていたよりしつこかった。ろくに休憩もとれず疲労も溜まり、移動するペースはどんどん落ちていく。

 そしてとうとう限界を迎えた私達は、目的地のスラム街の近くまで来たところで立ち止まる。遠くにうっすら歪んだ街が見える。風向き次第でゴミの臭いが運ばれてくる。


「ここで少しだけ仮眠をとろう。」


「そうね。私もそろそろ限界…。」


 マルの提案にお母さんも賛成する。私は念の為周囲の気配を探る。そして絶望。


「マル、だめだ。囲まれてる。」


「…。よし、それなら”ここは儂が請け負う”。」


 マルは不敵な笑みを浮かべた。

 その時、敵の一人が姿を現した。それは私がよく修行を手伝っていた女の子、ミサだ。


「リンお姉ちゃん。お願い!私達の仲間になって!私はリンお姉ちゃんを殺したくない…。皆も私達の仲間になるって言うなら私がお父さんを説得するから!」


 ミサの必死な様子から、本心で言ってくれていることは理解できた。だけど…。


「ごめん…、それはできない。覚えておいて。私の名前は”リゼ”。最強のシノビを継ぐ者。」


「はっはっは!!そりゃ良い!最強を継いだのか!リゼ、今から盛大に祝ってやる!」


 マルはそう言って懐から、紐みたいなものを引っ張り出す。その紐は身体に巻きついているものの一部のような…っ!

 それが身体に巻き付けた爆弾の導火線だと、すぐに理解した私はお母さんを抱えて瞬時にその場を離れる。その間際でマルの言った言葉は、一瞬なのにはっきり聞こえた。


「リゼ。お前なら絶対に成し遂げられるさ。」


 そして激しい閃光、轟音、衝撃。遅れて襲ってくる土埃。この隙に私達は出来るだけ遠くに逃げた。疲労感など忘れていた。

 その後はスラム街を目指し、辺り一帯の荒野の岩陰に身を潜めながら慎重に進んだ。しかし一時的に吹き飛んだ疲労感もすぐに揺り戻される。食事もここ数日まともにしていない。視界が揺らぐ、お母さんも意識が朦朧としている様子。

 ここで、終わりか…。

 意識が途切れる狭間で口の中に甘い味の何かを流し込まれる感覚がした。


「…おい!おい!意識はあるか!?」


「こっちの子は反応がある!こちらの女性は…。」



 意識が途切れてどのくらい経ったのか。夢を見た。お母さんがいつもの優しい笑顔で私の前に立っている。


「リンは私の自慢の娘よ。私とミカゲさんの分まで生きてね。リゼ。」


 え?え?どういう意味?

 しかし声は出ない。お母さんはどんどん遠くなって消えていった。


 っ!ここは…?

 見知らぬ場所で目が覚めたが、まだ頭がぼーっとする。

 スラム街にしては清潔感ある部屋。ベッドに寝かされていたようで、身体の痛みはない。しいて言えば、ものすごく空腹であることくらい。


「目が覚めたようだな。」


 見覚えのあるスキンヘッドの大男がいる。私はだんだんと意識がはっきりしてきた。


「お母さんは!?私の近くに倒れていたはずだけど!」


 大男は気まずそうな顔をした。それだけでどうなったかなんて聞くまでもなかった。


「栄養失調による多臓器不全だったそうだ…。」


「そんなはずは…。」


 だって…、いや、そう言えば逃げる道中に小休憩をしていたが携帯食料は一口も食べていなかった。そうか、自分は食べずに私に全て分けてくれていたのか…。


「ここは警護団?なぜ私はここにいるの?」


 もうどうでも良い。全て失った。警護団に捕まって、私もどこかへ収監されるのだろう。


「でかい爆発があっただろ?通報があったんだ。そして現場に向かう途中でお前達が倒れていた。ん?というかお前、見覚えがあるな。」


 そうかこの男は私のことに気づいてないのか。でもどうせバレる。私はこれまでの事を全て話した。

 男は黙って私の話を聞いている。


「と、これまでの全ての経緯だ。私を捕まえて、どこか檻に入れるんなら抵抗はしない。」


「うん?いやいや、別に捕縛する気はないぞ?今の話を聞いて色々と合点がいった。」


 あの初忍務の時の調査対象の役人は反乱分子と不審な動きを察知し、個人的に調査。シノビ達(“月”)が関与していることに気づく。

 しかしその内自身の近辺で怪しい人物がうろつくようになり、身の危険を感じたため、フェニックスへ護衛を依頼した。

 シノビは政府を装う改革派から、役人の暗殺依頼を受けるが、マルは不審に思ったのだろう。暗殺ではなく身辺調査とした。

 改革派と”月”は自分達の国家謀反が役人にバレそうになり、無実の役人へ罪をなすりつけ、葬ろうとしていたんだろう。

 男は私の話と自身の情報を統合して、そのように推測した。


「そう言えば自己紹介をしてなかったな。俺はノルバス。今はフェニックスの団長を務めている。」


「私はリゼ。」


「そうか。リゼ、お前フェニックスに入らないか?正しくはお前の年齢ならまずアカデミーに入ってもらうがな。」


 失ったものが大きすぎる。でも皆が私に託してくれたものもある。私はここで終わるわけにはいかない。

 父さんとの約束。父さんを超えて、父さんとは違う景色を見る。


「分かった。フェニックスに入る。でも私が最強になったら、その時は抜ける。それで良い?」


 私がそう言うとノルバスは笑う。


「ははは!面白いな。いいぞ、それで。じゃあ…。よろしくな、リゼ。」


 ノルバスがその大きな手を差し向けてきた。私が躊躇していると、ノルバスは強引に私の手を取り握手した。

 __________


 私達は任務失敗の悔しさを抱えながら、護送車に揺られて中枢へ向かっている。

 車内に流れる重い空気が、”月”との因縁を思い出させて気持ちが暗くなっていく気がする。しかし、そんな暗い気持ちを無視してイビキが響き渡る。

 激闘だったのだろう。力を使い果たしたレイが私の膝の上で呑気に寝ている。その様子に、私の気持ちは少しだけ軽くなっていく気がした。


 私が最強を求める理由は父さんとの約束。だが最近は少し違う気もする。意外にも教官は適任だったのかもしれないと思うようになっている。生徒達の成長を見守るのも悪くないと思い始めている自分がいる。

 父さんも何だかんだ言って私を鍛え上げてくれてたっけ…。私はずっと父さんの影を追っているんだな。

 時には厳しく、時には意地悪な笑顔を浮かべる父を思い出す。

 父さんとお母さん、マル、ワジは命を賭して私を”月”から切り離そうとしてくれた。しかしそれでも終わらない”月”との因果。五年前の忍務はまだ終わっていない。

 私は拳をギュッと握り締めて俯くと、いつの間にか目を覚ましていたレイと目が合った。とは言ってもレイは薄目で寝たフリをしている。

 レイの頭に手刀を落とすと、騒がしく上体を起こす。


 まるで朝を告げる鳥のようだ。

 私達の夜が明ける。

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