11 リゼの過去
ノラクト、ディアンは車内にいる護衛対象の元へ馳せ参じた。急に入ってきた二人に驚く軍人と、要人男性。少女は微動だにしない。最初に見た時こそ”人形のようだ”と思ったが、その無表情な様は本当に人形のように見えた。
ノラクトは護衛対象が無事な事にまず安堵する。だが、まだ気を緩めるには早すぎる。そこでディアンが口を開いた。
「ノラクト、ここは俺一人でも大丈夫だ。少し外の様子を見てきてくれないか?」
「確かに今はここに脅威はなさそうだし、外の加勢に行った方が良さそうだな。そんじゃここはディアンに任せるぜ!」
そうしてノラクトは車外へ。
ディアンはニヤリと笑う。
「さて、俺の仕事をするか…。」
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シノビ達を全員退けたリゼは護送車の上に戻る。 そこには見張りを続けているシアナ、エリ、ノラクトがいた。飛び出して行ったレイはまだ戻ってきていないことを確認すると、すぐに彼の飛び降りた地点へ向かった。
護送車はもうすぐ中央に着く。
常人離れした速度でレイとミサが戦っているであろう地点へ着いた時は、倒れている二人の姿が確認できた。
“月”の中でも手練であろう相手と戦い、相討ちまでに持ち込んだ様子のレイを見てリゼは嬉しかった。
そしてミサは放っておいても問題ないだろうと判断し、レイを担いでメンバーの元へもどるのだった。
今回の襲撃についてはメンバー全員が予想が出来ていた。
国家機密に関わる任務では度々、シノビによる妨害が入ることがある。
ヒャクヤ国は平和を誓う国だ。
自衛軍は存在するが、国外へ侵略する軍事力は有していない。
しかしこのまま平和を続けていれば我が国は没落してしまうという危機を訴えている政党がある。
彼らは改革派と呼ばれている。
その改革派は秘密裏に強固な自軍を作ろうとしているらしい。
今回フェニックスへ依頼された任務は、おそらく軍事力に関するものだとリーダーから聞かされていたため、シノビの襲撃があるだろうと踏んでいたのだ。
リゼは14歳まで”月”に所属していた。
シノビの戦術は誰よりも理解している。騙し合いや化かし合いを何より得意とするため、こうした敵との戦いはレイの成長には最適と感じていた。リゼがレイを鍛えて、さらに自身の強さの糧にする。そこまで強さに固執する理由は…。
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6年前に遡る。当時の”月”のリーダーはリゼの父親、名はオニマルであり最強のシノビと恐れられていた。
その父親の元、厳しい修行を乗り越えた彼女は14歳にして凄まじい実力を手にしていた。父親は厳しくもリゼを愛していたし、それをリゼも理解していた。最強の父親は彼女の誇りだった。
オニマルの提唱する古くから受け継がれてきたシノビとしての伝統を重んじる派閥と、近代技術も取り入れ更なる強化と利益を上げんとする改革をする派閥。
後者の派閥と政府の改革派の思想の相性は良く、手を組むことになったのだ。
そうした権力争いの末、姑息な手段によってオニマルは殺害された。
それは彼女にとって思い出したくもない辛い出来事だった。
その日、私は暗殺の任務を請け負っていた。政府の要人(一般人)の暗殺だ。どうという事のない案件だった。
父をリーダーとしたチーム。成功は約束されているようなものだ。この任務自体が父を殺める目的の仕組まれたものだったという点を除けば…。
突き刺すような冷たい夜風が吹き、任務が始まる。暗殺されるような人物であれば、大体10人程の護衛を個人的に雇っていることが多い。
しかしターゲットの屋敷の敷地内に侵入し、そこから建物へ着く間は何事もなく異様な静けさだ。任務の進行が順調すぎることに皆は異常性を感じた。
そしてこの時点で父は自身の命運を悟ったのだ。正式な手順で依頼された政府からの任務を推測で断念することは不可能。
「…屋敷へ入る前なら間に合うだろう。お前達は引き返せ。」
父は随行したシノビ達へ告げた。皆に動揺が広がるが、すぐに感情を消し命令に従う。
私は…。私は動けなかった…。命令は絶対なのに、頭では分かっているのに。父が一人で犠牲になることを理解した私の呼吸は乱れていた。
所詮はまだ子供で未熟者の私は、せめて涙が溢れるのを堪えるだけで精一杯だった。そんな私を父は抱きしめてくれた。
「いいか。決して復讐に生きるな。俺の死は足枷ではない。リゼの糧として生きろ。」
そう言って父は覚悟を決めた顔で笑った。
他の任務隊員は責を問われることはなく、父一人が捕まり処刑された。思えば私を抱きしめた父の腕は震えていたような気がする。その時にどんな感情でいたのかは思い知ることも出来ないが…。
私はその後、アナトレー区の隠れ里を抜けた。なるべく遠い違う世界に行きたかった。何処にも自分の居場所を感じることはなかった。
そしてノトス区の特殊警護団アカデミーへ流れ着き、その孤独感や行き場のないごちゃごちゃした感情を戦うことで打ち消し続けた。
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私が強さを求める理由は父のような最強のシノビになるため。ただそれだけだった。
だが最近は少し違う。意外にも教官は適任だったのかもしれない。若者の成長を見守るのも悪くないと思い始めている自分がいる。これは父も昔同じようなことを言ってたっけ…。
私はずっと父の影を追っているのだな。厳しくも時々見せる父の笑顔を思い出し、ふと気が緩んだ。
なんとなくだが孤独感などは今は満たされているような気がした。
リゼは呑気に寝ているレイの顔を見て少し表情を緩めた。




