611/615
そっと重なる距離
「……せっかくだし、二人で映らない?」
大和のその言葉に、
葵は一瞬だけ返事を忘れた。
「え……あ、はい」
自分でも驚くくらい、
声が少し上ずっていた。
二人は並んで立つ。
でも、スマホの画面に映るのは
虹と、どこかぎこちなく距離を取った二人の影。
「……はみ出ちゃってるよ」
大和が画面を覗き込みながら、
少しだけ笑う。
その言い方が優しくて、
葵の胸がふっと温かくなる。
「もうちょっと……近づかないと」
言われて、
葵はそっと半歩だけ寄った。
それでもまだ足りなくて、
大和も同じように一歩近づく。
肩が触れるか触れないかの距離。
風が止んだみたいに、
空気が静かになる。
体温が、ほんの少しだけ伝わる。
その近さが、
驚くほど心地よかった。
(……やっぱり、隣にいてほしい人)
そう思った瞬間、
大和も同じように息を吸う気配がして、
葵は思う。
同じことを思っていたらいいな。
虹の下で、
二人の距離がそっと重なっていく。




