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連れてきたかった場所
二人で歩き出すと、
足音と風の音だけがしばらく続いた。
大和がポケットに手を入れながら、
ふっと前を見たまま口を開く。
「ここ、今の店を作ってて行き詰まったときに、よく来ててさ」
葵は横目でそっと大和を見る。
声は落ち着いているのに、
どこか照れが混じっている。
「なかなか東京で、ここまで見晴らせるところってないでしょ?」
白い息がふわっと流れる。
大和の歩幅は少しゆっくりで、
葵が合わせやすい速度になっている。
「だから……及川さんにも見せたいなって思ってさ」
言ったあと、
大和はほんの一瞬だけ視線を落とす。
その“照れ隠し”が大人なのに可愛い。
葵の胸が静かに熱くなる。
「……嬉しいです。そんな場所に、私も」
言葉にした瞬間、
大和が横で小さく笑う。
「うん。来てくれてよかった」
風が吹いて、
二人の白い息が同じ方向に流れる。
緊張はまだある。
でも、
歩くたびに少しずつほぐれていく。
“言葉のいらない距離”が、
ゆっくり、確かに縮まっていく。




