604/615
言葉のいらない距離
視線が重なったあと、
大和がゆっくり歩み寄ってくる。
白い息を吐きながら、
葵の上着を一度だけ確認するように見て、
ふっと笑った。
「……高台だから、やっぱり寒かったね」
その声が思ったより柔らかくて、
葵の胸が少しだけ跳ねる。
「はい。ちょっと……思ったより」
葵がそう答えると、
大和は少し肩をすくめて言う。
「チョイス間違えたかと思って焦ったよ」
その言い方が、
冗談みたいで、
でも本気で気にしていたのが分かる温度で──
葵は思わず笑ってしまう。
「大丈夫です。ちゃんと着てきました」
「そっか。よかった」
短いやり取りなのに、
二人の間の空気がふっと近づく。
風が吹いて、
二人の白い息が同じ方向に流れた。




