601/615
約束の前に
ホテルを出て、
バスに揺られながら外の景色を眺めていると、
胸の奥がずっと落ち着かなかった。
(……まだ早いのに)
時計を見ると、
約束の11時までまだ40分以上ある。
それでも、
展望台の入口が近づくにつれて
足が自然と速くなる。
(……来ちゃった)
入口の前に立った瞬間、
胸がふわっと高鳴った。
観光客がちらほらいるだけで、
店長の姿はまだない。
(そりゃそうだよね……早すぎるし)
そう思いながらも、
どこかほっとしている自分がいた。
手袋の中で指先が少し冷えて、
店長の言葉を思い出す。
「高台だから、少し寒いかもしれない」
(……ほんとだ)
上着の襟をそっと立てて、
息を白くしながら入口の横に立つ。
胸の奥が、
静かに、でも確かに弾んでいた。




