あの頃と同じ声で
店を出て、
夜の空気に触れた瞬間、
胸の奥がふわっと熱を帯びた。
(……誘われた)
星空の余韻よりも、
大和の声のほうが強く残っている。
「昼間、時間……もらえないかな」
その言葉を思い出すだけで、
胸の奥がじんわり温かくなる。
断る理由なんてない。
もう離婚している。
誰の妻でもない。
でも──
“はい”と答えた自分に
少しだけ驚いていた。
鏡に映る自分は、
戸惑っているのに、
どうしても隠しきれない嬉しさが滲んでいた。
(……店長に誘われて、嬉しかったんだ)
誰かじゃない。
店長だから。
19歳の頃、
大和の店でバイトしていたときの自分が
胸の奥でそっと目を覚ます。
あの頃、
これ以上一緒にいたらダメだと思って
自分から距離を置いた。
忘れたかった。
前に進みたかった。
俊介と結婚したのも、
自分の気持ちを封じるためだった。
でも結局、
大和のリールを見た瞬間に
全部戻ってきた。
離婚して、
ひとりで立てるようになったはずなのに。
(……また、こんなふうに嬉しくなるなんて)
胸の奥が震える。
それは不安でも罪悪感でもなく、
ずっと封じてきた気持ちが
静かに息を吹き返すような感覚。
店長の声は、
あの頃と同じ温度だった。
優しくて、
踏み込みすぎなくて、
でも逃げない声。
(……明日、会うんだ)
そう思った瞬間、
胸の奥に小さな光が灯った。
20年前に置いてきた気持ちが、
まだそこにあった。




