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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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境界線を越える

葵が「……はい」と答えたあと、

大和は一瞬だけ呼吸が止まった。


(……断られなかった)


その事実が、胸の奥に静かに広がっていく。

抑え込んできた感情の輪郭が、

ほんの少しだけ浮かび上がる。


店内を片付けながら、

ふと視線がテーブルに落ちた。


かつては、

このテーブルが“越えてはいけない線”だった。

踏み込まないための距離。


(……でも今日は、自分から越えた)


その線をまたぐように誘った。

そして──及川さんは拒まなかった。


それだけで、

胸の奥がふっと軽くなる。


照明を落とし、最後の鍵をかける。

夜風が頬を撫でた瞬間、

今日の出来事がようやく現実として落ちてきた。


(……明日、会えるんだ)


抑えようとしてきた気持ちが、

静かに息を吹き返す。


ふと、

自分が明日をオフにしていた理由が胸に浮かぶ。


(……最初から、どこかで思ってたんだろうな)


もし来てくれたら。

もし話せたら。

もし、もう一度だけ向き合えるなら。


そんな“もし”を、

自分でも気づかないふりをして

そっと残していた。


そして今日、

その“もし”が形になった。


拒絶されなかった。

それだけで十分だった。


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