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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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星空が二人を近づける

葵が空になったショートグラスをそっと置いた。

その小さな音に気づいた大和が、静かに歩み寄る。


「……お口に合いましたか」


葵は一度だけ息を整え、大和を見上げた。


「はい。

店長のオリンピック……

やっぱり特別でした。」


その“やっぱり”が胸の奥に落ちた瞬間、

大和の心がわずかに揺れた。


(……やっぱり、か)


それは、

“他の誰でもなく、自分の一杯を選んでくれた”

そんなふうに聞こえてしまう言葉だった。


喉の奥で小さく息を飲む。

表には出さない。

けれど胸の奥が、静かに熱を帯びる。


葵の目元には、

さっきの一口の余韻がまだ残っていた。

涙ではない。

けれど、感情がふわりと滲んで、

瞳の奥が柔らかく揺れている。


(……そんな顔、見せられたら)


大和は言葉を返せないまま、

ただその表情を受け止めるしかなかった。


葵は続けようとした。


「店長、次は──」


その瞬間、

店内の照明がふっと落ちた。


空気が静かに変わる。

天井に星がゆっくりと浮かび上がる。


灯-OTARU-の“星空の時間”。


葵は言葉を止めて、

思わず見上げた。


「……わぁ」


息みたいな声が漏れる。


「キレイ……」


星の光が、

葵の横顔を淡く縁取る。

まつげの影も、頬の赤みも、

その光に溶けていく。


大和は、その横顔にまた胸を掴まれた。


(……やっぱり、なんて言われたあとに)


「……星空の時間、始まったよ」


自分でも分かるほど、

声が優しくなっていた。


星の光が静かに降り注ぐ中、

葵は星空を見上げたまま、

頼もうとしていた一杯を言えなくなる。


大和もまた、

胸の奥の熱を持て余していた。


ずっと噛み合わなかった心が、

同じところで静かに立ち止まった気がした。


それは、

二人が望んだわけでも、

言葉にしたわけでもない。


ただ──

星空が、そっと二人を近づけた。

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