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感極まる葵
葵はそっとグラスに触れた。
店長の指が触れていた場所が、まだ温かい。
(……“待ち焦がれた再会”)
意味を知っている。
あの夜、店長が灯-tokyo-で最初に出してくれた一杯。
言葉にはしなかったけれど、
あれは確かに“店長の気持ち”だった。
そして今日、
自分はその意味を胸にしまって、
「覚えてますか」とだけ言った。
言葉にしない返事。
でも、確かにそこにある思い。
胸がふっと熱くなる。
(店長が作った店で……
店長が誘ってくれて……
店長が、私のために作ってくれて……
その意味も私は知っていて……
その店長が、目の前にいる)
それだけで、
息が少し震えそうになる。
葵は静かにグラスを傾けた。
最初の香りがふわりと広がる。
舌に触れた瞬間、
あの夜の空気がよみがえる。
「……っ」
声にならない小さな息が漏れた。
頬が自然にゆるんで、
目元がほんの少しだけ潤む。
照明がその涙の気配を拾って、
きらりと光った。
泣いているわけじゃない。
ただ、幸せが溢れてしまっただけ。
抑えられなかった。
その一瞬の表情が、
灯-OTARU-の柔らかい光に照らされて、
驚くほど綺麗に見えた。




