再会の一杯に惑わされて
及川さんの指先が触れた“オリンピック”の文字を見た瞬間、
胸の奥が、思っていた以上に強く揺れた。
「……これ、覚えてますか」
その言い方が、ずるい。
懐かしさだけなのか、意味を知っているのか、
どちらにも取れる絶妙な距離感。
(なんで……これなんだ)
灯-tokyo-で、
自分が“再会”の意味を込めて差し出した一杯。
言葉にできなかった気持ちを、
カクテルに託した夜。
及川さんはあの時、
ただ静かに笑って飲んでくれた。
意味を知っていたのかどうか、
確かめる勇気なんてなかった。
(懐かしいだけ……?
いや、でも……)
昼の再会が胸に残っている。
及川さんの照れた声も、
メニューを閉じる指先の震えも。
全部が“大和の期待”を刺激してくる。
(……これ、ダメだろ。
こんなの、期待するなってほうが無理だ)
気持ちを抑えようとしても、
胸の奥が勝手に熱くなる。
「……覚えてるよ」
声が柔らかくなったのが自分でも分かった。
隠すつもりだったのに、
隠しきれない。
及川さんが少しだけ安心したように笑う。
その表情が、また胸に刺さる。
(意味を知って頼んだのか……
それとも、ただの偶然か……
どっちなんだよ)
考えれば考えるほど、
答えは遠ざかる。
大和は一度だけ深く息を吸って、
カウンターへ戻った。
手元を整えようとしても、
指先がわずかに熱い。
(……翻弄されてるな、完全に)
そう思いながら、
大和は“再会”の一杯を作り始めた。




