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夜の扉が開いたとき
21時少し前。
昼の賑わいとは違う、落ち着いた空気が店内に満ちていた。
予約して来た客たちは、それぞれ静かにメニューを眺めたり、
グラスを傾けたりしている。
ざわつきはない。
でも、完全な静寂でもない。
“この時間を楽しみに来た人たちの空気”が、柔らかく漂っていた。
扉が開く音がして、
大和は自然と顔を上げた。
(……来た)
昼の余韻が胸の奥でふっと揺れる。
葵が入口に立っていた。
大和はカウンターを出て、ゆっくりと歩み寄る。
「こんばんは。
お待ちしておりました」
葵が小さく会釈する。
その仕草が胸に触れる。
「こちらの席へどうぞ」
大和は、夜の灯で特別に用意している
少し奥まったテーブルへ案内した。
他の客の声は遠く、
でも完全に隔離されているわけではない。
静かで、落ち着いていて、
二人の声が自然に届く距離。
葵が椅子に腰を下ろすのを見届けて、
大和は一拍だけ息を整えた。
店員としての距離を保つべきなのに、
昼の余韻が胸に残っていて、
どうしても素の声が滲んでしまう。
「……ゆっくりしていってね」
その一言は、
店長の言葉というより、
大和自身の気持ちがふっと漏れたような温度だった。




