空白を選んだ指先
昼営業と夜営業のあいだ。
仕込みの手を止めて、
ほんの少しだけ椅子に腰を下ろしたとき、
スマホが震いた。
(……及川さん?)
胸の奥がわずかに跳ねる。
その反応に自分で気づいて、
すぐに言い訳を探す。
(星空のことだろ。そういう話だ)
そう思いながらDMを開いた。
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4月11日(水)に行きます。
星空の予約、お願いしてもいいですか。
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一瞬、呼吸が止まった。
(……行きます、か)
“星空を見に行きます”じゃない。
“行きます”だけ。
そのあいだに、
書かれていないはずの言葉がふっと浮かぶ。
(……俺に会いに、か?)
胸の奥がひとつ強く鳴った。
すぐに自分に言い聞かせる。
(浮かれるな)
けれど、
その言葉がまた少し遅れた。
スマホを持つ指先が、
わずかに震えている。
(勘違いするなよ)
そう思うのに、
“4月11日”の文字を何度も読み返してしまう。
昼と夜のあいだの静けさの中で、
その日付がゆっくり胸に沈んでいった。
(……来るんだな)
声にならない言葉が、
胸の奥でそっと灯り、
気づけば少し頬が緩んでいた。
(…だから、浮かれるなって…)
その灯を抱えたまま、
大和は星空の予約ページを開いた。
日付を選び、人数を「1」にして、
必要事項を淡々と入力していく。
最後の項目で指が止まった。
「伝えたい言葉があれば入力してください」
自分で考えた文言だ。
誰かが大切な人に気持ちを伝えられるように──
そんな思いで作った。
なのに今、
その言葉が自分に返ってきて胸を刺す。
(……伝えたい言葉、ね)
書けるわけがない。
書いたら全部が変わる。
でも、
書きたい言葉はある。
──来てくれて、嬉しい。
指先が震えた。
(……空白でいい)
そう思って、
その欄には何も書かず、
予約ボタンを押した。
空白を選んだ指先が、
ほんの少しだけ熱を帯びていた。




