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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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空白を選んだ指先

昼営業と夜営業のあいだ。

仕込みの手を止めて、

ほんの少しだけ椅子に腰を下ろしたとき、

スマホが震いた。


(……及川さん?)


胸の奥がわずかに跳ねる。

その反応に自分で気づいて、

すぐに言い訳を探す。


(星空のことだろ。そういう話だ)


そう思いながらDMを開いた。


---

4月11日(水)に行きます。

星空の予約、お願いしてもいいですか。

---


一瞬、呼吸が止まった。


(……行きます、か)


“星空を見に行きます”じゃない。

“行きます”だけ。


そのあいだに、

書かれていないはずの言葉がふっと浮かぶ。


(……俺に会いに、か?)


胸の奥がひとつ強く鳴った。


すぐに自分に言い聞かせる。


(浮かれるな)


けれど、

その言葉がまた少し遅れた。


スマホを持つ指先が、

わずかに震えている。


(勘違いするなよ)


そう思うのに、

“4月11日”の文字を何度も読み返してしまう。


昼と夜のあいだの静けさの中で、

その日付がゆっくり胸に沈んでいった。


(……来るんだな)


声にならない言葉が、

胸の奥でそっと灯り、

気づけば少し頬が緩んでいた。


(…だから、浮かれるなって…)


その()を抱えたまま、

大和は星空の予約ページを開いた。


日付を選び、人数を「1」にして、

必要事項を淡々と入力していく。


最後の項目で指が止まった。


「伝えたい言葉があれば入力してください」


自分で考えた文言だ。

誰かが大切な人に気持ちを伝えられるように──

そんな思いで作った。


なのに今、

その言葉が自分に返ってきて胸を刺す。


(……伝えたい言葉、ね)


書けるわけがない。

書いたら全部が変わる。


でも、

書きたい言葉はある。


──来てくれて、嬉しい。


指先が震えた。


(……空白でいい)


そう思って、

その欄には何も書かず、

予約ボタンを押した。


空白を選んだ指先が、

ほんの少しだけ熱を帯びていた。

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