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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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会いに行くと決めた指先

仕事から帰って、バッグを置いたままスマホのカレンダーを開いた。

年度末の3月を見て、思わず眉が寄る。


(年度末は……ちょっとなぁ)


どの部署もバタつく時期だ。

自分が抜けるのは気が引けた。


4月に画面をスクロールする。

最初の週に目を止めて、また小さく息を吐く。


(新年度1週目も……さすがに無理だよね)


新しい体制が始まる週に休む勇気は、まだない。


でも、画面をさらに下へ送ると、

4月の2週目──8日、9日、10日、11日。

そのあたりだけ、ぽっかりと“余白”があるように見えた。


(でも……灯-OTARU-は期間限定なんだよね)


その言葉が胸の奥で静かに響いた。

行ける日を逃したら、もう二度と見られないかもしれない。


(このあたり……なのかな)


指先が自然に、4月11日のところで止まった。

胸の奥が、静かに、でも確かに鳴る。


(行きたい)


その気持ちを認めた瞬間、

勤怠アプリを開いていた。


「4月11日(水)〜12日(金)」にチェックを入れる。

申請ボタンの上で、指が一瞬だけ止まった。


(……押したら、本当に行くことになる)


でも、心は決まっていた。

そっと申請ボタンを押す。

画面が切り替わる音が、胸の奥に響く。


次に、航空券の予約サイト。

羽田→新千歳、4月11日の朝の便。

“購入”のボタンを押すと、

またひとつ、胸の奥が鳴った。


そうだ!ホテルも。

海が見える部屋に惹かれて、

少しだけ贅沢な部屋を選んだ。


(どうせなら……)


その選択が、

“会いに行く覚悟”を静かに強めていく。


準備が全部終わったあと、

深呼吸して大和とのDMを開いた。

指が震えるほどじゃない。

でも、胸の奥がじんわり熱い。


ゆっくり文字を打つ。


---

4月11日(水)に行きます。

星空の予約、お願いしてもいいですか。

---


送信ボタンを押した瞬間、

胸の奥の()がふっと大きくなった気がした。


(……行くんだ)


その実感が、

静かに、確かに葵の中に落ちていった。


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