お気に入りの場所
夜の展望台。
小樽の街の灯りが、
海の向こうまで静かに広がっていた。
仕事帰りにふらっと寄っただけのはずなのに、
今日はなぜか帰りたくなかった。
(ここ、落ち着くんだよなぁ…)
ポケットの中でスマホが震え、
画面に浮かんだ名前を見た瞬間、
自分が打ったDMの内容を思い出して
胸の奥がわずかに跳ねる。
葵からだった。
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水曜の星空、ずっと気になってました。
仕事の調整をしてみます。
行けそうな日が分かったら、また連絡してもいいですか?
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街の灯りが滲んで見えた。
(……来てくれるんだ)
その言葉が、
喉の奥までせり上がってきた。
でも次の瞬間、
自分でその感情を押し戻す。
(いや……星空が気になってただけだろ)
(俺に会いに来るわけじゃない)
言い聞かせるように、
ゆっくり息を吐いた。
本当は、
誘って、それに応えてくれるのが
すごく嬉しい。
でも、その嬉しさを認めたら、
境界線を越えてしまう気がした。
(……期待するなよ、俺)
そう思うのに、
胸の奥の灯は
消えるどころか、
じんわりと広がっていく。
海から吹く風が、頬をかすめていく。
街の灯りが、
遠くで静かに瞬いていた。
スマホの画面に浮かぶ葵の文面を見つめていると、
その光がふっと自分の表情を照らした。
さっきまでより、
少しだけ柔らかい顔をしている気がした。
(来る気で……いるんだな)
その事実だけが、
静かに、確かに胸に落ちていった。




