伝えられない理由
バックヤードに戻ると、
大和はエプロンを外しながら
スマホを手に取った。
葵からのDMを、
また開いてしまう。
“教えてくれたら嬉しかったと思います”
その一文が、
何度読み返しても胸に残る。
(……そうだよな)
知らせること。
伝えること。
美咲を亡くしてから、
誰かのために動くことを
ずっとしてこなかった。
広告も、リールも、SNSも、
言葉を使わずに“雰囲気だけ”を伝える方法ばかり選んできた。
言葉にすると、
期待させてしまう気がした。
自分がまた誰かを失う未来を
想像してしまうから。
(……でも)
葵のあの言葉は、
大和の胸の奥の、
長い間触れていなかった場所に
そっと触れてきた。
“教えてくれたら嬉しかった”
誰かが自分の言葉を
待ってくれていたなんて、
思いもしなかった。
(伝えるって……
誰かを喜ばせることなんだな)
そう気づいたのに、
それでも──
(核心だけは……言えない)
来てくれて嬉しかった。
奇跡みたいだと思った。
また会いたい。
また来てほしい。
その全部を言葉にしたら、
境界線を越えてしまう。
越えたら戻れない。
戻れなくなったら、
また失うかもしれない。
だから大和は、
胸の奥にしまったまま、
スマホをそっと伏せた。
(……どうすればいいんだろうな)
答えは出ない。
でも、
葵の言葉だけは、
静かに心の中で灯り続けていた。




