姿は見えるのに、遠い
やっと店内に入れたものの、
言われていた通り、メニューはほとんど終わっていた。
「すみません……今日はもう、ほとんど出てしまっていて……」
スタッフの声が、申し訳なさそうに響く。
結局、
コーヒーだけを頼んで席に座った。
大和は厨房とカウンターを行き来していて、
忙しすぎてこちらを見る余裕もない。
(毎日こんなに忙しいんだ)
(お店も、告知も、取材も……全部やって)
(大変そうだな)
カップの縁に触れた指先が、
少しだけ震えた。
さっき、
行列の最後尾で声をかけてくれたのに。
いまは、
まるで別の世界にいるみたいに遠い。
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整理券を受け取り、
夜の灯-OTARU-に入った瞬間、
昼とはまったく違う空気が流れていた。
ガラス越しの柔らかい光。
静かな音楽。
カウンターの奥で動く大和の影。
(……綺麗)
でも──
忙しそうで、
話しかけられる雰囲気じゃない。
注文を取りに来た一瞬だけ、
大和は微笑んで言った。
「ありがとうございます」
それだけだった。
(……挨拶もできなかった)
胸が少し痛む。
でも、不思議と後悔はなかった。
気づいてもらえた。
何も言わないで来たのに、
スマートに対応してもらえた。
悔しいけど、
やっぱり店長は大人だ。
そして何より──
店長が作った空間に、
自分が座っていられたこと。
ただそれだけで、
胸の奥がじんわりと温かくなった。
(……来てよかった)




