北海道へ発つ葵
休憩室のテレビは、
特集が終わったあとも誰かがつけっぱなしにしたままだった。
葵は紙コップのコーヒーを両手で包みながら、
流れる画面をぼんやりと眺めながら、余韻に浸っていた。
「次の特集は、
小樽で話題の“灯-OTARU-”さんです」
その一言で、心臓が跳ねた。
映ったのは、見慣れた横顔。
忙しそうに動きながら、
でもどこか静かで、落ち着いた大和の姿。
記者の声が重なる。
「……忙しいのに、
なんでこんなに綺麗なんですか」
大和は手を止めずに答えていた。
「綺麗に見えるのは……
僕じゃなくて、
この店とお客様が作る景色が良いんです。
僕はただ、その中で動いているだけで」
その言葉が、胸の奥に落ちていく。
静かに、でも確かに。
葵は息をするのを忘れていた。
画面越しの星空。
画面越しの灯り。
画面越しの大和。
(……行きたい)
気づいたら、スマホで航空券を検索していた。
土日の便はほとんど埋まっている。
でも、ひとつだけ空席があった。
(行こう)
理由なんて、もう考えられなかった。
考えたら、きっと行けなくなる。
衝動でもいい。
間違っていてもいい。
ただ、店長に会いたかった。
予約ボタンを押した瞬間、
胸の奥が熱くなる。
(……店長)
名前を心の中で呼んだだけで、
涙がにじんだ。
冬の空気が冷たい週末。
いつものバッグを片手に
葵は羽田へ向かっていた。




