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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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試作の告知

試作のグラスを並べたまま、

大和はカウンターに肘をついた。


(……どれも、まだだな)


昼のブレンドは香りが弱い。

プリンは固さが揺れる。

クリームソーダの色も決まらない。


夜のカクテルに至っては、

“背中を押す一杯”という言葉だけが先にあって、

味が追いついていない。


照明もまだ仮設。

角度を変えるたびに影が暴れる。

プラネタリウム演出の機材も届いていない。


やることを数えれば数えるほど、

終わりが遠くなる。


でも、

不思議と焦りはなかった。


(時間は……まだある)


今はまだ準備の前半。

間に合わないわけじゃない。


ただ、

“整わない自分”と向き合う時間が続いているだけ。


スマホが震えた。

本社からのオンライン会議の通知だった。


---


画面越しに、

本社の担当者たちが並ぶ。


「大和さん、進捗どうですか?」

「まだ整ってない段階でも、SNSは動かしていきましょう」

「場所は伏せて、“灯-Hokkaido-”としてティザーを出していきたいです」


大和は少しだけ驚いた。


(……この段階で、もう動かすのか)


店内はまだ未完成。

照明も、メニューも、テラスも途中。


でも、

本社は“動き始めること”を求めている。


「昨日、写真を撮りました」

大和は静かに言った。

「場所が分からないように、店内の一部だけ」


「それで十分です。まずは一枚、投稿しましょう」


会議が終わり、

大和はスマホを開いた。


昨日撮った写真。

光の落ち方がまだ不安定で、

完璧とは言えない。


でも、

“今の灯-Hokkaido-”を映すには十分だった。


キャプションをつける。


> オープンに向けて、静かに灯りを整えています。

> 灯-Hokkaido-、準備中です。


投稿ボタンを押す指が、

ほんの少しだけ震えた。


(……まだ途中だけど)


それでも、

灯りは確かに、

少しずつ形になっていく。

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