試作の告知
試作のグラスを並べたまま、
大和はカウンターに肘をついた。
(……どれも、まだだな)
昼のブレンドは香りが弱い。
プリンは固さが揺れる。
クリームソーダの色も決まらない。
夜のカクテルに至っては、
“背中を押す一杯”という言葉だけが先にあって、
味が追いついていない。
照明もまだ仮設。
角度を変えるたびに影が暴れる。
プラネタリウム演出の機材も届いていない。
やることを数えれば数えるほど、
終わりが遠くなる。
でも、
不思議と焦りはなかった。
(時間は……まだある)
今はまだ準備の前半。
間に合わないわけじゃない。
ただ、
“整わない自分”と向き合う時間が続いているだけ。
スマホが震えた。
本社からのオンライン会議の通知だった。
---
画面越しに、
本社の担当者たちが並ぶ。
「大和さん、進捗どうですか?」
「まだ整ってない段階でも、SNSは動かしていきましょう」
「場所は伏せて、“灯-Hokkaido-”としてティザーを出していきたいです」
大和は少しだけ驚いた。
(……この段階で、もう動かすのか)
店内はまだ未完成。
照明も、メニューも、テラスも途中。
でも、
本社は“動き始めること”を求めている。
「昨日、写真を撮りました」
大和は静かに言った。
「場所が分からないように、店内の一部だけ」
「それで十分です。まずは一枚、投稿しましょう」
会議が終わり、
大和はスマホを開いた。
昨日撮った写真。
光の落ち方がまだ不安定で、
完璧とは言えない。
でも、
“今の灯-Hokkaido-”を映すには十分だった。
キャプションをつける。
> オープンに向けて、静かに灯りを整えています。
> 灯-Hokkaido-、準備中です。
投稿ボタンを押す指が、
ほんの少しだけ震えた。
(……まだ途中だけど)
それでも、
灯りは確かに、
少しずつ形になっていく。




