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20年間忘れられなかった人と、もう一度恋をする  作者: 柚原 澄香


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試行錯誤

店内は、まだ工事の匂いが少し残っている。

照明は仮設のまま。

でも、カウンターだけは完成に近い形で組まれていた。


大和はそのカウンターに、

試作中のグラスをいくつも並べていた。


(昼は喫茶……夜は背中を押す一杯……)


昼のブレンドは、

少し酸味を抑えて、海風に合う香りにしたい。

プリンは固め。

クリームソーダは、昭和の色を少しだけ薄くして令和に寄せる。


夜のカクテルは、

“言葉を伝える背中を押す一杯”の試作。


琥珀色の液体を揺らしながら、

大和はひと口だけ味を確かめた。


(……悪くない)


でも、何かが足りない。

その“何か”が何なのか、言葉にできない。


(……もう一度作り直すか)


自分に言い聞かせるように、

大和はグラスを置いた。


---


翌朝、海沿いの光が店内に差し込む。

大和はカメラを構え、

“場所が分からないように”

店内の一部だけを切り取って撮影した。


- テラスの手すり

- カウンターの木目

- まだ名前のないカクテルの影

- 午前の光が落ちる床


(……これなら、小樽って分からない)


写真を確認しながら、

キャプションを何度も書き直す。


「灯-Hokkaido-、準備中です。」

「秋に向けて、静かに灯りを整えています。」

「誰かの言葉を照らす一杯を。」


最後の一文を書いたとき、

胸の奥が少しだけ熱くなった。


(……誰か、か)


自分で書いた言葉なのに、

その“誰か”の顔が浮かびそうになって、

大和はすぐに画面を閉じた。


投稿は下書きに保存したまま。

まだ公開するには早い。


海風がテラスを通り抜け、

店内の木の匂いを揺らした。


大和は深く息を吸い、

またカウンターに向き直った。


(まだまだやることが沢山ある…)


静かな店内で、

新しい灯りの準備が続いていく。

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