試行錯誤
店内は、まだ工事の匂いが少し残っている。
照明は仮設のまま。
でも、カウンターだけは完成に近い形で組まれていた。
大和はそのカウンターに、
試作中のグラスをいくつも並べていた。
(昼は喫茶……夜は背中を押す一杯……)
昼のブレンドは、
少し酸味を抑えて、海風に合う香りにしたい。
プリンは固め。
クリームソーダは、昭和の色を少しだけ薄くして令和に寄せる。
夜のカクテルは、
“言葉を伝える背中を押す一杯”の試作。
琥珀色の液体を揺らしながら、
大和はひと口だけ味を確かめた。
(……悪くない)
でも、何かが足りない。
その“何か”が何なのか、言葉にできない。
(……もう一度作り直すか)
自分に言い聞かせるように、
大和はグラスを置いた。
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翌朝、海沿いの光が店内に差し込む。
大和はカメラを構え、
“場所が分からないように”
店内の一部だけを切り取って撮影した。
- テラスの手すり
- カウンターの木目
- まだ名前のないカクテルの影
- 午前の光が落ちる床
(……これなら、小樽って分からない)
写真を確認しながら、
キャプションを何度も書き直す。
「灯-Hokkaido-、準備中です。」
「秋に向けて、静かに灯りを整えています。」
「誰かの言葉を照らす一杯を。」
最後の一文を書いたとき、
胸の奥が少しだけ熱くなった。
(……誰か、か)
自分で書いた言葉なのに、
その“誰か”の顔が浮かびそうになって、
大和はすぐに画面を閉じた。
投稿は下書きに保存したまま。
まだ公開するには早い。
海風がテラスを通り抜け、
店内の木の匂いを揺らした。
大和は深く息を吸い、
またカウンターに向き直った。
(まだまだやることが沢山ある…)
静かな店内で、
新しい灯りの準備が続いていく。




